―――堕ちる  02





リーダー格の男が一歩前に出た。
他の者は無言で下がっていく。

初めはこの男―――そう決まっているのだろう。

口の端だけをくいっと上げ、ゆっくりと近づいてくる。
影が大きくなるにつれ、嫌な匂いが増していく。

僕は出来るだけ距離を取ろうとするけれど―――無駄だった。
ピンと張ったワイヤーが強く引かれ、僕はマットに転げる。
立ち上る埃の向こうから、男が襲いかかってきた。

「―――っ!!放せっ!!」
「そのまま暴れてろよ…」

痛い程の力で髪を掴まれて、マットに押さえつけられた頭に
男が顔を寄せて来る。
痛みより何より、悪臭が堪えられない。
喉が鳴り、腹の奥から熱いものが込み上げてきた。
我慢出来ずに―――。

「うわっ!汚たねえっ!!」

僕の上にいた男が飛び退いた。
海老のように身体を丸めて、僕は嘔吐を繰り返す。

「ひゃはは〜っ!」
「ボスが臭えってさ!」
「やかましいっ!!」

憤怒に顔を歪めた男が、痙攣する僕を掴み上げた。
それでもまだ嘔吐は止まらない。

「このガキ…っ!」

力任せに頬を張られた。
けれど僕の口から溢れるものが手を汚すことに気が付くと、
それをすぐに止め、周囲に怒鳴る。

「表へ出ろ!」

「こんな夜中になんだよ」等と不平を口にしながらも、遠巻きにしていた
連中は従い、ぞろぞろと歩き出した。
全員が居なくなったのを確認すると男は、ひくひくと震える僕に云う。

「あの男との約束だ。お前を可愛がってやらねーとな。誰にでも喜んで足を開く
 淫売にしてやらなきゃならねぇ。ああ―――」

ちっとばっかり怪我しちまったかな。
そう云いながら、僕の唇をぺろりと舐めた。
匂いと感触に鳥肌が立ち、再び酸っぱいものが込み上げてくる。

「けど、これじゃあな。犯すどころか、触ることも出来ん」
「…ぅ…っ…ぉ…ぅぅ…」
「俺たちの匂いも慣れりゃかなり興奮するらしいが、堪えられねーんじゃ
 仕方ねえ。洗うさ。水しかねーけどな」

男はワイヤーをマットレスから簡単に外した。
驚く僕に小さい鍵を見せる。
さっきの台詞といい、この男はキースに通じているのだ。

絶対に逃げられない―――。
僕の絶望は深くなった。



廃工場の外は満天の星空だった。
先に出ていた者たちが奇声を上げている。
それに混じって派手な水音がしていた。

消火栓を開いて、吹き出す水を頭から浴びている。
服のままの者もちらほらといたが、大部分は全裸だ。

「おっ、お姫様のお出ましだ」
「綺麗綺麗にしてるぜ〜!」

薄汚いタオルで身体を擦っている。
辺りで微かに石けんの匂いがした。

男に引きずられて、僕も消火栓に向かう。
弧を描いて落ちる水を頭から浴びせられた。
あまりの勢いに息が出来ない。
苦しげに身を捩ると、顔が水の流れから離れた。

「うぐ…っ、げほっ…!」
「ゲロは落ちたようだな」

くんと鼻を鳴らすと、男は僕を壊れた椅子に座らせ、自分は滝のような
水の下に戻る。
ワイヤーは付いてなかったけれど、逃げようとは考えなかった。
だが、別の男が僕の肩を押さえつけていた。

馬鹿騒ぎをしながら水浴びをする男たちをボンヤリ眺めた。
皆住むところが無いとはいえ、肉体労働者なのだろう。
腹は割れ、腕には怖いくらいの筋肉が付いていた。

これからあの全員に犯されるのだ。
それだけじゃない。
玩具のように嬲られる。

キースが早く来てくれる可能性は―――ゼロだ。
たったひと月の付き合いだが、あの男にそれを期待するのは間違いだと
云うことは解っていた。

3日後の朝日を、正気で迎えられるだろうか。

……いや、迎えてみせる…!
絶対に…!
その為には―――。

「な〜にぼんやりしてんだよ?」
「そんなに俺たちの身体、旨そうかい…!」
「声が出なくなるまで抱いてやるからな」

3人が周りにいた。
一番先に身体を洗ったのだろう。
髪からは水が滴っているが、身体はほぼ乾いている。
全裸の所為か、あの嫌な匂いはしなかった。

「なあ…!始めちまっていいだろ!」
「シャツがよお、張り付いちまって…!」
「まだ突っ込まねーからさ!」

水音でリーダーの男の声はよく聞き取れない。
だが、諾の応えがあったのだろう。
四方から、手が伸びてくる。

1人がシャツの上から平坦な胸を撫でた。
別のごつい手が濡れたジーンズの釦を外しにかかっている。
肩は、後ろに立った男が上から押さえつけていた。

「…く……ん…ぅ…」

夜ごと慣らされた身体が、反応し出す。
弄られて胸の突起がぷっくりと膨らみだした。
気を良くした男がそれを抓んだ。

「―――ぅあっ!」
「…気持ち良いみたいだな、お姫様よ」

跳ねた身体を上から押さえつけられる。
すっかり釦を外した男が手を突っ込んできた。

「こっちも大きくなってるぜ…!」
「ぁああっ!やだ…!」
「ズボン、脱がしちまえよ!」

いつの間にか周囲の人数が増えていた。
丁度目の高さにある男たちのものも、膨らんでいる。

「お前のも、見せろよ!」
「舐めてやるぜ!」
「や…だっ!」

けれど、脇の下から抱え上げられてジーンズを脱がされた。
「面倒くせーからパンツも取っちまえ」と囃し立てられ、
下半身を剥き出しにさせられる。
膝を開かれ両方の肘掛けを股がされると、身体の全てが月明かりの下に
晒された。
ごくっと唾を飲み込む音があちこちから聞こえる。

「やめて!放してよ!」

隠そうとした手はそれぞれ別の男に掴まれてしまった。
身動ぎもロクに出来ない格好で、男たちに視姦されていた。

「あ〜あ、萎えちゃった」
「可哀想に…!」
「でも、ここはヒクヒクしてるんだなあ…」

足の間にしゃがみ込んだ男が、僕の双丘の谷間に触れる。
呼吸するたびに収縮を繰り返す後孔をなぞった。
それだけじゃない。
沢山の指が僕を嬲る。

別の男が小さくなった僕を抓んだ。
柔らかい先端をぐにぐにと揉む。

両脇の男がそれぞれ、顔を引っ込めた胸の飾りを、無理矢理に
押し出す。
痛いけれど―――少し熱い。

その微かな熱に縋り付いて、僕は声を上げた。