The children's story for the grown-up
02












寝室に呼ばれたブルーは、何も言わず自分から服を脱ぎ出す。
分かっている、と言わんがばかりの態度に、何故かキースは―――
わらった。
背中を向けていたブルーは気がつかない。
だが、もし眼にしていたのなら、すぐに逃げ出したことだろう。
その眼に潜むものに気がついて。

ジーンズに手を伸ばした所で、扉が開いた。
入ってきた者たちを見て、ブルーの表情が曇る。

「今日、ハーレイに会っただろう」
「……それが―――」

どうした、と言葉を続けることが、ブルーは出来なかった。
ワラワラと群がった男たちに両手両足を縛られる。
それぞれの両手首に繋がるロープは天井から下がるシャンデリアに通され、
足首に巻かれたものは長さ50センチ程の鉄パイプの両端に固定された。

キースは葉巻を銜えたままゆっくり立ち上がり、一人の男が差し出した
細い鞭を取る。
黒い革の鞭をはらりと垂らすと、手首をひらめかせた。
空気を切る音が響く。

気の弱いものなら失禁でもしそうな、冷たい音。
だが、ブルーはやはり感情の抜け落ちたような眼をキースに向けた。

「何を話していたんだ…ん?」
「……………犬の事だ…」
「随分楽しそうだった、と報告を受けているよ」
「…別に―――ん…っ…」

口内を舐られる。
キースはジーンズのボタンを外し、手を差し入れた。
ブルー自身を確認して、口を離す。

「ここを大きくしたりしたんじゃないのか…」
「まさか……馬鹿馬鹿しい」
「犬を飼うと、気苦労が多くてかなわん。そう思わないか…?」
「…………………」
「特に淫らしいメス犬の場合は、大変だ…」
「…………………」

キースはブルーの後に回り込んだ。
歩きながら、差し出された灰皿に葉巻を押し付ける。

「何度躾けても分からない馬鹿な犬だから…私も苦労する」

鞭が振り上げられる。
綺麗な曲線を描く、編み上げられた馬の皮。
空気を切る音。
こうして―――長い、長い夜が始まった。



幾度鞭を受けても、ブルーは声を上げなかった。
寝室に響くのは噛み殺した息が漏れる音と鞭の起こす風鳴り、
そして肉の爆ぜる音。
下肢からは力が抜け、立っている事はもう出来ていない。
手首に全体重がかかり酷く痛むが、ブルーは吊り下げられている
事しか出来なかった。

「そろそろ、声を聞きたいんだがね……」
「……く、………っ、……う…」
「いい加減手も疲れて来たことだし…啼いてくれないかな…ブルー」
「…ぁ……、……ぅ!……は…っ」

白かった背中は酷いことになっていた。
真っ赤な筋が幾筋も描かれ、そこから流れ落ちる血が沢山の川をつくり、
混じり合う。
だが、ブルーは口を開かなかった。

「仕方がない。こんなことは弱いもの苛めでもしているようで気が
 咎めるんだがね…」

犬を連れて来い―――本物の犬だ。
大きい窓を開けて、男が庭に出る。
ブルーの犬を連れる為に。

ただ打たれ、吊り下げられていたブルーがガッと顔を上げた。
激しい瞳をキースに向ける。

「代わりにお前の犬を打とう。ちょっと毛色の違った声だが、
 鳴き声には違いない」
「やめろ…――っ!」
「しょうがないだろう?―――お前が啼かないんだから」
「……………く…!…分かった……」

聞き分けが良くて助かるよ。
キースはブルーに、とても優しく口付けた。

それに満更でもないだろう…?
キースの手がズボンの中のブルーを掴む。

大きくなってるじゃないか…。
苦痛も"良く"なってきたんだな。
私の犬に相応しい…。
可愛いよ、ブルー。

外の男に止めるよう命じ、再び後ろに回る。
にやりと笑うと、言った。

「さあ、始めようか」



息が出来なかった。
物凄い衝撃が背中から身体全体に伝わる。

痛みは殆ど無かった。
キースの鞭が与えるものは、痛みなど通り越していて。
背中に感じるのは、焼け付くような熱さだけ。

息が出来なくて、苦しい。
ブルーは悲鳴を上げ続けながら、そう思っていた。



その後、ベッドに場所を移して、キースはブルーを抱いた。
満足するまで何度も、何度も。
ブルーは掠れた声で喘いだ。
自身を何度も爆ぜさせられ、何度も中に吐精された。

そしてキースの後は、部屋に入ってきてブルーが鞭打たれるのを笑って
見ていた男たちだった。
その頃にはもう声も出ない。
でも犯された。
秘所も口も感覚が無くなるまで。

全ての男たちが部屋を後にした頃には、白々と夜が明けていた。
長い、本当に長い夜だった。





この後、ハレさんはブルーに会うことが出来ません。
まあ、背中やらあんなとことか治さないと出掛けられないし。
キースのお許しが出るまで、屋敷の外に出ることは無理なのでした。
ハレさん、犬好きのブルーのためにプレゼントなんぞお買い求めに
なっているのですが、会えないんでずっと持ち歩いてます。

んで、ようやっと顔を合わせたのはそれから1ヶ月以上も経ってから。
ブルーはハレさんを見るなり、踵を返して逃げ出します。
当然、本能として(笑)後を追うハレさん。
弱っている上に、運動不足の大学生と現役バリバリのマフィアさんですから
体力の差は歴然。
簡単にとっ掴まって、壁際に追い詰められて。
なお近寄ろうとするハレさんを激しく拒絶してしまいます。
(さっきから、なんでですます調?)





「もう僕に構わないでくれ!」
「どうしたんだ…?」
「―――っ!…さ…触るな…っ!」

身を震わせて、涙さえ零してブルーは拒絶した。
口を手で覆って、肩で息をするブルーの顔色は真っ青で。
あまりに激しい抵抗に、ハーレイはたじろいだ。

…オーケー、下がるよ…。
一歩退くと、ブルーが落ち着くのを待とうとした。

だが―――ブルーの細い背が丸くなる。
咽喉の奥でくぐもった声がして、何かが指の間から零れた。
ブルーは地面に手を付き、激しい嘔吐を繰り返す。

思わず隣にしゃがみこみ、ハーレイは背を摩った。
その手をすら、ブルーは払うのだった。

呆然とするハーレイの背を、誰かがぽんぽんと叩く。
振り返った先には、見知った顔。
キースの手のものだ。

「あんまりこいつを苛めちゃいけない、だんな」
「…苛める…?」
「そうさ。だんながちょっかいを出したもんだから、ほら―――」

男はブルーの襟を掴むと、ずり下げる。
そこに見えたものに、ハーレイは言葉を失った。

「酷く可愛がられたんだ。そりゃ、凄い声だったぜ」
「…なんて真似を……」
「すっかりおびえちまってる」

男の手がうなじを撫る。
途端、ブルーは電流でも受けたかのように飛び上がると、壁に身体を
寄せた。
こんな具合にね。
男は肩を竦めて見せた。

ブルーは胸元を掻き抱いて、関節が白くなるほど握り締めている。
小刻みに震えながら。

ハーレイは小さく頭を振り、ブルーの目線にあわせて屈んだ。
息を呑み唇を噛む小さな身体に、頭を下げる。

ごめんな。
ぽつりと言うと、立ち上がった。
"親切"にも説明してくれ男に紙袋を押し付ける。

「なんだい?」
「ブラシさ、犬用の」

多分、お前の屋敷にあるものは短毛犬用のブラシだからな。
これは長い奴用。
男に無理やり持たせる。

「キースに程々にしろ、と伝えてくれ」

ハーレイは男の肩をぽんと叩き、歩き出した。
ブルーはそれをぼんやり見送った。