―――堕ちる  04





巨大な黒人の厳つい肩に布袋かのように担がれて、僕は廃墟の中に戻った。
外で水浴びが出来るくらいなのだ、寒かろう筈がないのに僕の震えは止まらない。

「そんなに怖がらなくても良いぜ。オレは優しいんだ」

大男は猫なで声でそう言うと、尻の谷間に指を滑らした。
ぎゅっと目を瞑って震える僕の、固く窄まった場所を撫でる。

「―――…っ!」
「ココをよぉく解してから―――」

ゆっくりと犯してやる。
びくりと大きく身を震わせたのをどう取ったのか、後ろから気怠げに付いてくる
連中が囃し立てる。

「あんたの後じゃ、ガバガバになっちまうんじゃないのか…!」
「少しは加減してくれよ」
「この間の奴だって、最後は大便垂れ流してたしなぁ!」

耳を塞ぎたくなる内容をベラベラと喋り続けていたが、そこに淫らな熱は
感じられない。
ただ僕を怖がらせて面白がっているだけなようだ。
そう考えれば、少しは落ち着いてくる。
大丈夫、大丈夫…。
僕は心の中で繰り返した。

明るい場所に出る。
大きく穴の空いた天井に、丸い月が覗いていた。
天空から落ちる光の円の中に入る。

「おい、あの袋をここへ運んでこい」

めんどくせえなぁ等と不平を言いながらも、広場で僕に精液をかけた男たちが
長さ1メートルほどの麻袋を積んでいく。
余程この男が恐ろしいのだろう、出される指示のまま麻袋は積み上がり、
光の柱の中をもうもうと土埃が上がった。
大して時間を経ずに、天辺の平たい、高さ70,80センチの小山が出来上がる。

「さあ出来た。お前のステージだぜ」

男は僕を山の上に投げ落とした。
尻餅をついた格好で顔を上げれば、天井から鎖が下がっている。
先端で鈍く月の光を反射する銀の輪―――錆びた手錠だ。
僕は目を細めてそれを睨む。

「あれでお前を吊って、こいつらの前で犯してやるよ」

イイ声で啼いて貰おうか。
ぐいと腕を掴まれて、力任せに立ち上がらされる。
黒人の大男と一緒に"ステージ"に登ってきた白い男が、僕の手首に包帯を巻き付け始めた。
プエルトリカンと目される男は横幅はさほどでもないが、背丈だけならリーダー格の
男を凌ぐほどだった。
無言で動かす手は無骨で大きいのに、スムーズに僕の手首から下10センチ程と
親指の付け根までの掌を白く覆ってしまう。
看護士か何かの経験があるのかもしれない、あっという間に両手に包帯を巻いた。

「傷が残ったら困るからな」

キースからしつこい程因果を含まされているのだろう。
と言うことは、3日後には確実に迎えは来るらしい。
肉体的に怪我をしたり死ぬことは無いだろうが、心は―――。
これからされることを予想し、またぞろ僕の身体が震え出す。

大丈夫だ…。
こんな奴らにされることなど何でもない。
煽りさえしなければ、男の僕なぞすぐに飽きられる。
大丈夫だ、落ち着け…。

僕は目を瞑って震える息を鎮め、ゆっくりと呼吸した。
ゆっくりと吸い、細く長く吐き出す。

手を取られ、頭上に掲げさせられた。
かちゃりと鍵が掛かった音がする。
けれど僕は抵抗しなかった。
逃げたり嫌がったりする素振りは、男たちを刺激するだけだから。
全裸を晒しているけれど、外で散々射精し熱の下がった奴らから見れば、同性の
身体なぞ滑稽でしかないはずだ。
僕はされるがまま、大人しく従っていた。

何度目かの大きく吸い込んだ空気に、嫌な匂いを感じた僕は反射的に後ろへ背中を
反らせた。
同時に開いた目に、見慣れない茶色い瓶が映る。
半分剥がれた容器の帯の毒々しい黄色と『RUSH』という朱文字に目を剥いた。

「なっ―――!」
「逃げるな」
「おーっと、もっと良く吸い込めよ」

包帯を巻いた男に鼻先に瓶を押しつけられ顔を逸らすが、後ろから覆い被さる大男に
ぎゅっと髪を掴まれ、口を覆うように顎を押さえつけられてしまう。
息を止めて抵抗するが、長くは持たない。
酸素を求めて息を吸い込むと、このドラッグも吸飲してしまう。

「たっぷり吸い込め」
「んっ!!ンんっ!!」

男がようやく瓶を持って"ステージ"を下りる頃には、早くもドラッグの効果が
表れだしていた。
酩酊感にも似た目眩と、身体の奥の疼き。
筋弛緩効果で全身から力が抜け膝が砕ける。
辛うじて立っているような状態で、手錠をかけられた手首に体重が掛かった。
痛みに顔を歪ませると、別なものを手にした黒人が"ステージ"の下から僕を見上げる。
そして、にやりと笑った。

「勃ってきたな。後ろにはこいつを塗ってやる」

触れられもしないのに、僕の足の間は緩やかに勃ち上がっていく。
唇をきつく噛み締めるけれど、漏れ出る喘ぎは止められなかった。

「はっ、はっ…くぅ…、あ、アッ…」

僕をからかうだけだった眼下の"観客"の口数が少なくなり、瞳に暗い焔が灯り出す。
いけない…と思うのに、身体は淫らなダンスを踊り出していた。
全身を薬による快楽が蝕んでいく。

「両足を開いて固定しろ」

無意識に寄り合わせるようにしていた足を、それぞれ別の男が引っ張った。
拡げる為ただ掴まれただけなのに、その箇所が熱くなり疼く。
そそり勃ち震える先端から、光る玉が落ちた。

命じた男の目の前で、肩幅に開かれて足首に拘束具が着けられる。
拘束具に鉄の棒が間を通され、閉じることが叶わなくなった。

「あっ、ふっ…ぅ、はっ、はぁっ…」

じっとりと汗ばみ始めた腰を掴んで、大男が尻の谷間に何かジェルを塗り込める。
窄まりを丸くなぞり、曲げた指がぐいと中に入ってきた。
押し込まれた瞬間の痛みはあっという間に霧散し、触れられた肌と秘所に
明らかな快感だけが残る。

「ああっ、やめ…っ…!」
「止めてもいいのかよ…?」
「よせっ!はぅ…あぁ、はっ…!」
「こいつは麻酔入りだ。オレのはでかいからな。どんなに解しても痛てぇらしいぞ」
「っんぅ…!ぁあアっ!」

無遠慮に節くれ立ったごつい指が出入りする。
折り曲げた指先で、中を掻き回した。
灼熱の棒が蠢くようだ。
熱くて、堪らなく熱くて…。
だが、薬に浮かされて熱を持っているのは僕の方だった。

「指が溶けちまいそうだ」
「ぅあっ、あ…あ、はぁぅ…っ…!」

ぐちゅぐちゅと嫌な水音が背後から聞こえる。
揶揄する声も、同じ場所から発せられた。

「お姫さまよ…、腰が揺れてるぜ」

穴ん中もぎゅうぎゅうに締め付けてくるしよ。
そんなに気持ちいいのかい?
どれ、確かめてみるか。
 
指が引き抜かれた。
足の間を通って、大きな手がすっかり勃った僕を掴む。

「…っ!うあ…!」
「へへ、ぐちゃぐちゃじゃねーかよ」
「ひっ…!やめ…っ…」

掴んで扱かれた。
先走りに塗れた先端をぐにぐにと親指で揉まれ、強すぎる快感に腰が引ける。

「違うだろ!もっと気持ち良くなりたいんだ、突き出せよ!」

握った拳に、僕自身ごと前に引っ張られた。
痛みに涙が零れる。

「痛…ぅっ…!」
「ほら、もっと腰前に出せよっ」

ちぎれるかと思う程きつく握られ、前に引かれる。
酷い痛みと強い快感が、身体の中を暴れ回った。
喘ぎとも悲鳴ともつかないものが、喉の奥から迸る。

―――狂ってしまう…っ!

それから逃れようと、思うように動かない身体を捩る。
会陰に腕がぶつかった

「ぁあ…っ」

前を扱かれるのとも、後ろを穿たれる時とも異なる快感。
男の掌の中で、僕の茎はビクビクと震えた。
とろりと呆れた声が背後から聞こえる。

「ここも感じるのか。どんだけあの男に可愛がられてんだか…」
「や…あ…っ、よせ…!」
「こんだけ淫乱なら、玩具なんか必要無いんじゃねーのか」

おい、ローション。
男は投げ渡されたものを自分の腕に塗りたくった。

「ほら、下見ろよ」

僕は拒否して横を向く。
だが、月明かりを反射して光る腕が視界に入ってしまった。
その面積に目を剥く。
手首から肘を通り越し、肩近くまで塗ったのだろう。
綯った太い縄のような筋肉だけじゃなく、剛毛までが光る。

「―――っ」

無駄な抵抗だと分かっていても、光る腕から逃れようと
爪先立ちになるが―――。

「くあぁ…っ、ああっ…やめ…ぅあ…っ!」

熱が溜まり出していた嚢と、痼った会陰を太い腕が擦りだした。
手首から肘、肩近くまで、腕が前に後ろに動く毎に腰が跳ねる。

男の毛深い腕というおぞましいものに感じさせられている嫌悪感。
嫌で堪らないのに、ザラリとした感触に甘ったるい快感を覚えてしまう。

身を捩るたびに大きく揺れる先端から光るものがあちこちに飛び散り、
淫らな染みを作った。。
先走りを止めることは最早出来ないが、せめて声だけでも―――。
僕は唇を噛んだ。

「ぅく…んんン…、ぐぅぅ…んう…くぅ…ぁ…」

口の中に呑み込めない唾液が溜まる。
それが舌先に鉄錆の味を伝えてきた。

唇から、つ…と雫が落ちる。
あまりきつく噛みすぎて切れたのだろうが、気にしている余裕はない。
押しつけられる快感ごと噛み殺そうと、僕は更に歯を立てた。

「―――ボス…」
「ああ、分かってるよ」

綺麗な顔が傷物になっちまう。
ずるりと腕が引き抜かれた。
ほっと力が抜けるが、散々擦られた会陰には酷い疼きが残る。
また、腰が揺れた。

「へへ、欲しくて堪んねーくせに、何恥ずかしいがってんだか…!
 けど、そんなに声を出したくないなら、こうしてやるよ」
「―――ぅ…んんっ?!」

背中から抱き締められ、大きな左手が口を覆った。
密着した所為で、腰の少し上に男の熱く固いものを感じて、嫌悪感と恐怖で
身震いする。

「焦るなって。後で嫌って程突っ込んでやる」
「んんっ!んんぅっ!!」

放せと叫びたかった。
僕に触れるなと。
けれど―――。

「んんーーーーっ!ぐ…ぅ…んんんっ!」

口から零れたのは、くぐもった嬌声と唾液だった。
後ろから伸びた男の右手が、容赦なく僕を扱き上げる。
鋭敏になりすぎた肌は、過ぎる快感を受け止められなかった。

「ん―――っ!!」

だらだらと白濁が零れる。
握られている所為で、ゆっくりとしか吐き出せない。
苦しくて堪らない。
ぎゅっと瞑った瞼から、ぼろぼろと涙が落ちた。

「あ〜あ、泣いちゃった…」
「…可哀想に」

"ステージ"下の男たちが呟く。
台詞だけは同情しているが、その低い声は掠れ気味だ。
興奮しているのだ。
もう自分の股間を弄っているものもいる。
それが分かっても、今の僕にはどうすることも出来なかった。

ようやく解放された唇を震わせて荒い息を紡ぎ、何とか収めようとするが
―――熱が消えない。
吐精したにも関わらず萎えない自身を、男がまた嬲り始めた。
にちゃにちゃと粘ついた音を響かせ、緩急をつけて扱かれる。

だが、今度は違った。
きつく扱いて追い立てられるが、僕が吐精の予感に身体を強ばらせると
手が外される。
もうイきたくない、けれど、腰の奥には達する事の出来ない熱が溜まって膿み、
僕を苦しめた。

「あ…っんんっ!―――は…も…やだ…!」
「…何がだよ…」
「…ぁ…んっ、や…あっ、あ、あぁっ!」
「ああ――――イきたくないのか…恥ずかしがり屋さんだからな」

じゃあ、自分で押さえてろよ。
混濁する意識の中で、いつの間にか自分の右手だけが手錠から外されていた。
下ろされると、体液で滑る自身を握らされる。

「イきたくねーんだろ?根本を握ってろよ」
「…ぁ…や……」
「いやばっかりじゃ、わかんねぇよ…!」
「ぁ…放…せ…っ、ぅあ―――っ!ああぁあ…んんっぐぅ…!」

また口が塞がれる。
「声出したくないんだろ」と耳元で囁きながら、男が僕の先端を弄り出した。
括れを親指と人差し指でなぞられ、息が止まりそうな強い快感にイきそうになる。
僕は震える指で、自分の茎の根本をきつく握った。

「…いい子だ」

快感という電流が身体中を走り、足がガクガクする。
唯一自由になる左手で、縋るように梁から下がる鎖を握った。
扱かれる度、がちゃがちゃと耳障りな音を立てる。

すぐに自分で立っていることなど出来なくなった。
後ろの男に身体を預けてしまう。

「案外甘えんぼなんだな…」

耳の後ろをねっとりと舐られる。
何でもない行為なのに、薬に犯された身体は過敏に反応した。
背中が反り返り、自ら男の丸めた掌に自身を擦り込んでしまう。

「んん…っ!んぅ…!!」
「こっちの方が良いのかい、そうかい」

大きなストロークで先端から根本までを扱かれた。
時折先端の尿道口に爪を立てられて、神経が焼け切れそうになる。
いや、実際おかしくなってしまったのだろう。
僕は吐き出さないように握っていた自分の手を、開いてしまったのだから。

その手を掴まれた。
僕を扱いていた、男の大きな手が素早く僕のそれを掴み、元の場所に戻る。
同じ行為を繰り返す為に。

「んん―――っ!!」

僕は自分で自分の肉茎を扱き上げた。
男の大きな手に覆われているとはいえ、他の男たちの前で自慰行為を
始めてしまったのだ。

そう、抵抗など出来なかった。
吐き出したい、イきたい、今の頭の中にはそれだけしかない。
目の前で生唾を呑む連中の存在など、最早無い。
まして、痴態を晒してしまったら…などと考えることさえなかった。

ビクビクと震え、身悶える。
閉じることの出来ない足を突っ張り、腰を前に突き出した。
もっと、もっと感じる為に。

そして―――。

「…イけよ」
「くぅ…ンっ…んんん―――…っ…!!」

白濁は"ステージ"の下まで飛んだ。

「んぅ―――…ふぁあ…っ、は…ぁ…あ…あ、ああ…」

何度も何度も自身を扱き、残滓を絞り出す。
だらだらと口から零れた唾液が胸を伝う、その感触さえ堪らない。

「気持ち良かったか…?」
「あ…あ…」

頷くことすらままならない身体の、腰を後ろに引かれた。
背中から尻の谷間を固いものが下がっていく。
次は何をされるか分かっているのに、逃げようとは思わなかった。

そこに欲しかったから。
この男の凶器のような滾りが。

なのに、その熱い固まりはヒクついているであろう場所を通り過ぎ、
足の間に落ちてしまう。
視線を落とせば、まだ自身を握り締めていた右手の下に黒光りする
男のものの先端が見えた。

手を伸ばせばそれはするりと引っ込む。
また、会陰をごりごりと擦られた。
膨らんでいる場所を刺激され、腰が揺れる。
もどかしい程ゆっくりと擦られ、僕は声を上げた。

「やっ…やあ…」
「また、いやかよ」
「あっ、あっ、ああ…や…」
「…欲しいんだろ…?」

甘い甘い、悪魔の囁き。
薬に狂わされた僕には、抗う術など無い。

「―――欲し…っ…!」
「…何処に…?」
「ココぉ…!」

後ろの穴に指を這わす。
迷わず中に入れた。
掻き回せば、男が塗り込んだジェルが淫らな音を立てる。

「ぁあっ、あ、はあ……早…く…!」

その手を取り上げられ、再び頭上の手錠に繋がれた。
腰が引かれ、尻を割開かれる。
腰を沈めた男の灼熱の肉塊が濡れた後孔に押し当てられると、ひくっと喉が鳴った。

「―――ひあああああっ!」

想像以上の大きさだった。
リドカイン入りのジェルで解されていなければ、痛みに絶叫していただろう。
僕の中を割広げて入ってくる滾りのあまりの太さに、内臓が押し上げられ、
圧迫感に吐き気すら覚えた。
途中まで挿入されたそれが、ぎりぎりまで抜かれた次の瞬間―――。

「がっ、は……っ!!」

脳天まで貫かれたように感じた。
一気に最奥まで突かれ、意識が飛びそうになる。
だがそれは許されず、容赦のない律動に意味の為さない声を上げた。

「いっ、ひ、ああ…はあ…、くあ……や…っ!」
「…きっついな、おい…!」

前立腺ばかりをごりごりと突かれ擦られる。
出したばかりなのに僕のものは既に勃ち上がり、腹に太股に先走りを撒き散らした。
肌を背骨を電流が走る。

「ひっ、ああっ、や、い…イく…っ!」

涙と唾液を零して、僕は頭を振りたくった。
がちゃがちゃという鎖の音と、腰を打ち付ける音が響く中、絶頂を迎える。

「ああっ!出る…!」
「…尻だけでイけよ…!おらぁ!!」
「あ―――ああぁアアアアアア…っ!」

吐精してから一度も触れられていないのに、また白い液体が溢れ出した。
今度は飛ばず、ぽたぽたと、まるで壊れた蛇口のようにひっきりなしに精を零す。

「あ…あ…、あ、あ…」

スリットから溢れた白濁が棹を伝い、或いは激しい律動で辺りに飛び散った。
麻袋にも、身体にも点々と白い染みが出来る。
揺さぶられ続ける僕は、半ば意識を飛ばしていた。

それから何度イかされたのかも覚えていない。
凶器のような性器が更に膨れ、奥に男の欲望が叩き付けられ、同時に自分も
イってしまったことと、手錠を外され獣のように犯された事は朧気な記憶にあった。

それから、別な手に投げ渡された事も。
背中に当たった柔らかい感触は最初に繋がれたマットだろうか。
焦点の合わない目では、沢山の黒い陰が覆い被さってくる事しか認識出来なかった。
身体を押さえつける手に動かない身体で抗っていると、少し遠くから声がした。

「突っ込む時は独りずつだぞ」

それがその日の最後の記憶だった。











続く






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20081228