sweet sweet stories 11
今年のクリスマスは家で。 ケーキにチキン、ワインも少し良いのを開けて。 二人っきりのささやかなパーティだ。 そのワイン1本が空く頃、長椅子の端に乗っていた鞄が落ちた。 ほろ酔いですっかり陽気になっているブルーは「落ちちゃったぁ」とケタケタ笑い、 気にする様子もなくトイレに向かう。 仕方がないとため息をつきハーレイは鞄を片付けたが、中から顔を覗かせた封筒に 目が止まった。 漆黒の封筒で、裏面には鮮やかな紅の封蝋。 既に開封されていたので、ちょっぴりの罪悪感と共に中身を引き出して―――驚いた。 キツい眼差しを向けるブルーのポストカード、それも女装したものだ。 既視感があるのは、昨年のハロウィンの仮装のようなドレス姿である所為かもしれない。 暗い写真だ。 古い西洋風の家屋、燃える暖炉の前。 ブルーは長いスカートを中の骨ごと抱え、脚の付け根まで見えそうなくらい たくし上げた姿。 スカートの下、光沢のあるレース仕立ての白いストッキングの先には靴が無い。 髪留めやリボンの類は落ちてしまったのか、乱れた髪で。 その髪や顎先に水滴を光らせ、睨むような挑むようなキツい視線を 真っ直ぐ向けてくる写真。 特に露出が多い訳ではないのに、妙に性的な色を帯びて見えるのは、 自分が恋人だからではないだろう。 そういう風に撮っているのだ。 あのサークル関係だろうが、何の意味があるのか。 いぶかしむハーレイだったが、裏面に添えられた文章で分かった。 『上手くいったと思った  上手く攫ったと  誰にも見られていない  後は身代金を頂戴するだけだ  これで使用人とは名ばかりの  男妾まがいの生活を捨てられる  だが  あの女の紅い唇が微かに弧を描いたような気がした瞬間  理解した  嵌められたのは俺だと  囚われたのだ、と  ワタシヲ サラッテゴラン  オマエハ ニゲラレナイ  ワタシダケノ モノニナル―――』 詳しいことは何も書かれていない。 だが想像出来る、様々に。 ブルーの役は、中世貴族の令嬢なのだろう。 燃え盛る暖炉と濡れた髪、寒い雪の日か。 ポストカードには写っていない使用人の男に誘拐されて、この古い家に連れてこられた。 たった独りなのに怯えた様子もなく、睨みつける気の強さ。 この世に怖いものなど何もない生活をしている、大貴族のひとり娘…といったところか。 誘拐犯は、ブルーが演じる娘の気に入っている使用人だろう。 けれど、彼はその屋敷から逃げたいと考えている。 理由は"男娼まがいの生活"。 主に命じられるのか、或いは女主人の相手か。 はたまた大貴族なら夜毎の如何わしい饗宴での接待役などというのも有るかもしれない。 いずれにしろ"あの部長"の好きそうな設定だ。 今年はブルーの通う大学の学園祭は行けなかった。 自分の学校の行事が被ってしまいどうしようもなかったのだが、内心ほっとしたのも 事実だ。 ブルーには悪かったが、去年のような"見世物"はこりごりだったから。 しかし、こんなことになっていようとは…。 ハーレイが軽い目眩すら覚えていたところに、ブルーが戻ってきた。 上機嫌で小さく鼻歌まで歌っていたのだが、黒い封筒に気づき一瞬で強張る。 「黙って見てすまんが……これは?」 「―――っ…!」 「ブルーの事だから、断り切れなくてなんだろうけど―――」 「先生がっ、あんなことするから…っ!!」 「オレ?!」 「そうだよ!去年あんなにふざけるからいけないんだ!!」 その言葉を聞いて、今度ハーレイが固まった。 『去年』『ふざける』で脳裏に蘇ったのは、足へのキス。 初めてブルーの大学の学園祭に来たのだが、何故か仮装をすることになってしまい、 ハーレイはタキシード、ブルーはふんわりしたドレス姿で構内を練り歩かされた。 慣れないハイヒールに足を擦りむいてしまったブルーを介抱した講堂で、ふざけて 跪きながら足へ口づけたのだが―――。 だが、あの講堂内は自分たち二人以外誰もいなかった筈だ。 そう告げると、部長が隠し撮りしたようだとブルーが答えた。 その写真を見せられ、嫌だったがまた女装したという。 「それだけじゃ…ないんだよ…」 「まだ他に写真があるのか?!」 「違うよ!」 このカードはね、配布だけで終わってなくて、この先の企画があるんだよ。 ピッタリの続きを作れっていうので、文章だけじゃ無くて写真も募集してるんだ。 最終的に選ばれると、僕と一緒に写真が撮れるっていうので。 年明けに締め切るんだけど、もうたくさん応募があるんだ…。 そこで言葉を切って俯いてしまったブルーに、来ているものが酷い内容なのだと ハーレイにも解った。 そして、それを敢えて見せている"部長"の意図も。 どんな内容なのか訊きたい、しかし聞いてしまえば"部長"の策に嵌まる―――。 けれど、訊かないでいられるか、それで年明けに平気でブルーを大学へ 行かせることが出来るのかと問われれば、到底そんな自制心も無い訳で…。 ハーレイは心を決めた。 策に嵌まってやるさ。 どうせうちのばーさんにも勝てたことなど一度も無いんだからな。 そう口に出したので、きょとんとしたブルーにウインクを1つ送る。 ハーレイは「さあ、食事を続けよう」と長椅子に座らせ、新しいワインを開けた。 「その企画の内容、初めから聞かせてくれないか」 その1時間後、ブルーはベッドに座っていた。 サークルから無理やり持たされたドレスは、ポストカードでは暗かったので 分からなかったが、金属のような鈍い光沢を放つシルバー。 昨年着たドレスのような派手さはないが、照明をかなり落とした暗い室内では、映える。 改めて"部長"の審美眼にハーレイは脱帽した。 ドレスを着たブルーから視線を逸らし、ベッドの前に置かれた鏡を見る。 鏡越しに、上目遣いで恨めしげな視線を向けるブルーの頬が、朱に染まっていた。 ベッドサイドに持ち込んだ椅子の肘に頬杖を付いて座るハーレイは、そんな様子を 面白がっていた。 「どうしましたか、お嬢さま」 「先生、本当にやらないとダメ…?」 「おやおや。わたくしは構わないんですよ、誘って下さらなくても」 「…………」 「明日にはお金を頂戴して自由の身。  セックスにも“不自由”はしていませんしね。  今夜ここでお嬢さまを抱かなくても、ちっとも困りませんから。  でも、私を"欲しい"と望んだのはあなたでしょう」 にやりと笑った顔に、スカートの下でブルー自身が熱くなる。 普段より多く飲んだワインの所為もあるのかもしれないが、いつもより 火が点くのが早い気がする。 それがあっという間に燃え上がり、瞬く間に全身を焦がしてしまったのも。 そして、これは確実にアルコールの所為だ―――欲望を我慢出来ない。 ブルーはドレスの裾を持ち上げ、両手を入れた。 「ん…ぁ…ぁ…」 シルバーの光沢が波を打つ。 ブルーは目を瞑り、身体を揺らしていた。 斜め上に向けた顔に少し落とした照明が当たり、まるでスポットライトを 浴びているようだ。 紅い舌が、同じように赤みを増している唇を舐める。 淫らしい姿に、ハーレイの喉が鳴った。 「ふ…ぅ…んあ…あ…」 ブルーから企画の内容を聞けば聞くほど、ターゲットがハーレイ自身であることが 分かった。 去年の見世物ですっかり味を占めたらしい件のあの"部長"が、2匹目のドジョウを 狙ったのだ。 その"味"がサークルの何らかの利益を得るためか、はたまた完全に彼女の趣味なのかは 不明―――ハーレイは"部長"の趣味だと決めつけていた―――だが、他の誰かには 譲れないと思わせる内容になっている。 女のくせに何でここまで男性心理に敏いんだとハーレイは舌打ちした。 「はっ…ああ…んう…ぁ…」 しかし、聞いてしまった以上乗らない訳にはいかない。 中世の御令嬢と使用人という役柄で、あの続きの写真を撮影して持って行かなければ。 ハーレイは少しゆったりした白いシャツにスラックスを履き、腰に薄手のマフラー、 足首にはスカーフをそれぞれ巻いた。 鏡に写った姿を遠目で見れば、中世風に見えなくもない。 そんなハーレイを見て大笑いするブルーだったが、彼とてドレスを着ているのだから 滑稽ではあるのだが。 あんまり笑い転げるものだから、スカートから白い足がのぞいた。 ハーレイの目が釘付けになる。 何度も、何度も見える白に、熱が上がっていく。 「あっ、はぁ…っ…」 こういう少し変態じみた行為をしようと言ったのは、ハーレイだった。 けれど、先にこう告げる事も忘れなかった。 女性を抱きたいから女装して欲しい訳じゃない。 ブルーだから、してみたいと思うのだ。 去年のあの姿が綺麗で、本当に美しかったから、あの姿のブルーを啼かせてみたいのだと。 少し嫌がる素振りを見せたブルーだったが、結局は頷いた。 どうせなら設定を決めて、続きの話を作ってしまったらどうかと、そう提案したのは ブルーの方で。 つまるところ、二人とも楽しむ気が満々であったのだった。 「うぅ…あ、は…あ…っ…!」 昇り詰めてしまいそうなブルーの息遣いに、ハーレイが椅子を蹴った。 シルバーのドレスを立たせてクルリと廻し、ベッドに手を付かせる。 背面部のスカートをまくり上げ、太股に引っかかっていた下着を下ろした。 ブルー自身に触れれば、もうぐちゃぐちゃで。 「何とはしたない…!」 屈んで尻を割る。 窄まりに舌を這わせただけで、ブルーは白濁を飛ばした。 崩れ落ちる細い身体を抱え膝に乗せ、今度はハーレイがベッドに腰掛けた。 息を弾ませ、力無く寄りかかってくるブルーに鏡を見るように言う。 ゆるゆると視線を向けると、そこには見覚えのない光景が映っていた。 暗い照明が見慣れた家具を上手に隠したのか、或いは別の表情を与えたか。 中世のあばら家とはいかないが、どこかのホテルで密会する男女のようで。 背中から自分を抱え込み、右手をスカートの中に潜り込ませ、胸元から差し入れた 左手で胸を弄るハーレイは、まるで二人で即興で作った物語から抜け出てきた "使用人"そのものに見えた。 「良く出来ました、お嬢さま」 「せんせ……ハーレ…イ…」 「すっかり欲情しましたよ。  あなたが欲しい…ここに入れたい…今すぐ…」 すっかり猛り切ったハーレイ自身が、ブルーの後穴に押し当てられる。 それだけでまたブルーのものも立ち上がった。 「ああっ…も、いいから早く、早く入れて…っ!」 金髪を掴んで引き寄せる。 自分も首を大きく捻って強引に口づけた。 貪るようなキスに、ハーレイが応える。 「―――っ!…仰せのままに―――――」 年が明け大学が始まってすぐ、彼女の元に1通のメールが届いた。 プライベートなアドレスだが、ブルーにだけは教えてあったものだ。 送付先は見覚えの無いアドレスだったが、迷わず部長は開いた。 『専属の"男娼"ならいいさ  たった独りのものになるのも悪くない』 その文章ににやりとする。 添えられた写真データはひとつだけ。 これもクリック。 目にした途端、彼女は高らかに笑い、部屋を転げ回った。 予想以上だよ! さっすが先生だ! 数分後、2通目のメールが来て顔色を変えるまで、その笑い声は続いたのだった。
----------------------------------- こんなことが出来るのも 僕たちだから こんな風に楽しめるのも 僕たちふたりだから 20150103
---------- 20150111 追記 趣味に走ってしまった… ハレさん受難話♪