目の前に醜いものが突きつけられていた。
手足の自由はきかない。
身を捩ることさえ叶わない。
何故なら、ハーレイは今天蓋付きの立派な寝台に、全裸で大の字に縛り付けられ、
胸の上には主の客人が乗っているのだから。

障害のレースにでも出てる気分だ!
こいつの身体、馬みたいだぞ!

あんたは乗馬するとき全裸なのか、口に出さず毒づくハーレイの顔に、上機嫌で
喋る客人の唾が降り注ぐ。
さっきからガブ飲みしている高いワインの香りのお陰で、その酷い口臭はいくらかは
掻き消されている気もするが、吐き気を催すレベルには違いがない。
こいつとセックスする女はキスしないに違いない、ハーレイは思った。

何ぼーっとしてるんだ
さっさとご奉仕しろよ!
女のを舐めるよりいいだろ?

部屋にいる男たちが囃し立てる。

そんな小さいのじゃ嫌だとさ
こいつの見てみろよ、勃起したら馬並みだろ
女どもが夢中になるわな!

広げられた太腿の間でだらりと下がるものをつまみ上げられ、引っ張られる。
痛みに顔を顰めると、馬乗りになっている男のもので頬を叩かれた。
抵抗しても無駄な事を知っているハーレイは、大人しく口を開き赤黒い肉棒を咥えた。





ハーレイが最初に売りに出されたのは、10才になっていたかどうかの頃だった。
本当の両親は記憶に無く、物心ついた頃から、サーカスの下働きで
散々こき使われた後のことだった。
色が黒いだけでこれといった"身体的特徴"もなく、またあまり芸の上手く無い
ハーレイを団長は早く厄介払いしたかったらしい。

それに、その頃が売り時であったのは間違いない。
初めは結構高価がついた。
褐色の肌には珍しい金髪、しかも目鼻立ちの整った顔で身体も悪くない。
彼は初めから性奴隷として売りに出されたのだった。

それから何度も競りに出た。
手枷足枷付きの全裸で台に上がる。
長い棒で一物を持ち上げられ、いい仕事をしそうだとまず一笑い。
次に後ろを向かされる。
そこには剥き出しの丸太が用意されていた。
膝裏を蹴られしがみつかされる。
突き出した尻を割られ、いきなり指を突っ込まれた。
ハーレイは痛みに声を上げた。
もっともこれはお約束で、毎度声を出すように舞台袖で言い含められるのだが。

初モノだ、病気もない!
どうです、この値段なら安いものですよ!
使い捨てても惜しく無いでしょう!

使い捨て―――――。
そう叫ぶ競売師の声が、今でもハーレイの耳から離れない。





使用人とは名ばかりの男娼、そうやって生きてきた。
腹の突き出た男のものを、首を上げて舐め、吸い上げることなどハーレイには
造作もない事だった。
括れに舌を這わせると、男がビクリと震える。
流石、上手いじゃないか。
そう呟きながら、ハーレイの頬をなぞった指で長く伸びた金髪を掴むと、
喉奥まで突っ込んだ。
苦しくて嘔吐くと、しっかりやれと更に深く飲み込まされた。
何度も繰り返すうちに男が飽きたのだろう、後ろに声をかける。
途端、ハーレイの大きな身体が跳ねた。
括りつけられてすぐに尻に押し込まれた棒が、何の前触れもなく動かされたのだ。

ハーレイの腰の下には枕が挟まれ、尻と敷布の間に隙間が作られている。
棒を激しく動かすため、それが出たり入ったりする様を眺めるために。
そう、部屋の中には大勢の男がいた。
シャツは羽織る程度、下穿きもろくに履いていないものがほとんどだ。
全てハーレイの使える主の客であったから、全員貴族である筈なのにその姿には
気品の欠片も無い。
口々に下卑た言葉を放ち、ハーレイの上に乗った男と、肢の間で棒を弄る男を
囃し立てた。

もっとエグってやれよ!
まだ足りないとさ
いやいや、イイ顔してるぜぇ
感じちゃってるのかよ、色っぽいじゃないか
お前、やっぱり男も相手してるのか!
あとでそっちも可愛がってやるさ
おい、早くしろ
閊えてるんだからな!
そりゃお前の立派な腹だろ
喧しいわ、俺はお前と違って早く無いんだよ!

聞き取れたのはそのくらいだった。
今やハーレイは汗を流し、苦しげに顔を歪めるしか出来ない。
喉の奥まで加減なく肉棒で突かれ、尻の中も滅茶苦茶に掻き回されていたのだ。
苦しくて痛くて堪らない。
涙が出た。
それをまた囃し立てる声、声、声。
だが与えられる刺激に、ペニスが生理的反応として大きくなり始める。

おいおい、こんなんで興奮するのか!
マゾだな
お前の女房も連れてくると良かったのに
こんな姿見せられたら、熱なんて一瞬で冷めるぜ!
はっ、色男も形無しだ!

そう、こうやって痛めつけられるのは、口淫を強いる男の妻の所為であった。
"パーティ"で"相手"をしたこの男の妻が、ハーレイに入れ上げてしまったからだった。
単純な独占欲や嫉妬だけでなく、仲間内からの嘲笑もあって、すっかり頭に血の上った
男が嬲るために声を掛けて、あっさり実現した"パーティ"。
話に乗った他の男たちには特段理由も無く、ただの暇つぶしに過ぎない"パーティ"。
けれどそれが分かっていても、使用人にすぎないハーレイに断ることなど
出来ないのだった。
立ち上がった自身が叩かれ、力任せに扱かれた。
痛みに呻くと、更に嬲られる。

尻にも突っ込むなら、縛り直した方がいいな。
その言葉に呼ばれた使用人が、目を合わせる事無く作業を済ませて行く。
昨日までの自分と同じように。
獣の姿勢を取らされ、暴れないように手足が再び拘束される。
最後にぱちんと尻を叩いたのは、この屋敷に長く使える初老の使用人だった。
かつては自分と同じ"役割"だった男。
「死ぬなよ」か「やけを起こすな」か。
そんな気力もないさ、とハーレイは静かに嗤ったのだった。























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