三







粘膜の柔らかさと熱さ。
生まれて初めて触れた自分の胎内。

口の中に似ている、とぼんやり晴は思った。



ぺちり。
尻を叩かれた。

「指を動かすんだよ」

さっきあたしがしたように、出し入れしてごらん。
満倉は晴の手を動かした。

クチ…。
水音が響く。
だがそれは、晴には聴こえない。
だから―――恥ずかしさも感じない。
ぎゅっと目をつむったまま、晴は熱に浮かされたように、激しく指を出し入れしていた。

「…ん……ふ……ぅ……ぅ」

声の出せない晴の零す息に、ほんの僅かな音が乗る。
満倉の唇が大きな弧を描いた。

頬で身体を支えている為に、歪んだ唇。
それが開いて、光るものさえ見えた。

晴は今、快楽に溺れている。

さっきは、自分を跳ね飛ばそうと僅かに動いた晴の筋肉。
己の指を呑み込ませながら身構えた満倉だったが、腕も足も飛んでは来なかった。
自らの意志で、反抗しようとした身体を押さえ込んだのだ。
晴は進んで、満倉の"調教"を受けるつもりなのだ。

これは早く仕上がる。
そう踏んだ満倉は―――決めた。

晴の前に回り、しゃがみ込む。
ぺちぺちと頬を叩き、意識を向けさせた。
ゆっくりと開いた瞼の下から濡れた黒羽色の瞳が現れ、満蔵を映す。

「…気持ち良いかい…?」

晴はコクコクと頷いた。
出したい?と問えば、やはり頷く。
だが、身体を支える必要の無くなって空いている筈の左手はひっきりなしに先走りを
零す勃起した自身に触れることなく、握り拳を作って床に押しつけられていた。
拳は細かく震えている。
必死に堪える理由―――それは「握れ」と言いつけられていないから、だろう。

本当にいい子だ。
満倉は笑った。
すっと立ち上がる。

「もうお止め」

その言葉に、数回水音を立てた後、晴は指を抜いた。
顔を床に付けて尻を突き出した格好から、ノロノロと腕を動かし元の四つんばいになる。
獣の姿勢になって初めて気づいたのか、晴は口元の涎を拭った。
そこから零れる息が、荒い。

満倉は大きく波打つ晴の腹に足を当て、力を入れた。
ごろんと仰向けに転がす。
晒された腹部も背中同様うっすらと筋肉を纏っていたが、それは上下に揺れていた。

その下―――。
完全に勃起した陰茎も揺れている。
先走りは茎を伝い、黒い茂みを濡らしていた。

張りつめたものを、満倉は足の先で突く。
晴がびくんと震えると、先端からコプリと別の涎が溢れ出した。
床から伸びる、どこか縋るような視線に笑って応える。

「かわつるみをおし」
「……?」
「何だい、聞いたこと無いのかい…!じゃあ、これなら知ってるだろ―――千摺りだよ」
「―――!」
「自分で摺って、出してみな。出来るだろ?」

晴は頬を真っ赤にして、顔を振った。
人前でする事ではない。

「恥ずかしいとでも云うのかい?!今自分がしていたことを思い出してごらんよ」

それは確かにそうなのだ。
素っ裸で尻の孔を晒して、あまつさえ己の指で弄ってみせて。
そんな格好で快楽を貪った、人前で。

でも、やはり出来ない。
満倉の前では、否、誰の前でも―――晴は顔を振った。

「―――まだ、お前は分かってないようだね」

満倉は晴の鼻先で屈むと、膝を付いた。
まだ落としていない前髪を掴んで持ち上げる。

「お前と蒼は違う」

その名前に晴は顔を上げた。
ぐいと身体を寄せ、唇が触れ合う程近くで云う。

お前と蒼は違うんだ。
同じことは出来ない。

分からないかい?

蒼には、あの顔と身体がある。
それがあの狸のお気に入りの所以だろう。
最も、それが良いか悪いかなんて分からないけどね…。

あの子は涙の一つも見せて、泣いて足を開けばいい。
それで客は満足する。
そう、綺麗な女と同じだ。

太夫じゃない女郎は、どうして客を取ってると思う?
客の求めに応じて、媚びを売ってるのさ。

どんな格好だって痴態だってしてみせるよ。
恥ずかしいなんて言ってられないからさ。
生きていく為に。
おまんまに有り付く為にね。

お前、この世界で生きていくつもりなら、どうすれば良いか分かるだろ?
蒼の替わりになりたいのなら、蒼よりもお前を抱きたいと思わせなきゃならないんだよ。
あんなに綺麗な顔と身体よりも、お前のこのごつい身体が旨そうだって、ね。

今日は、見ないでいてやる。
ただし、そのまま裸で、この明るい広い部屋の真ん中で、するんだ。

半刻で戻る。
それまでに、ちゃんとイくんだよ。
分かったね?










音を立てないように、格子をずらした。
満倉は、1寸ほどの間隔で開いた格子から、部屋の中を見るように隣の男に促す。

「あれか………」
「ああ、そうさ」

部屋の真ん中で仰向けになり、身体の中心で手を動かす少年。
大きく開いた口と、波打つ腹が少年の快楽の大きさを表していた。

「気持ち良さそうじゃねーか…」
「ふふ…、大分弄ったからね」
「お前、楽しんだな?」

答えず、満倉は笑う。

「で、どうするんだい?」
「水揚げだが、ちぃ〜とばっかし高いだろ?」
「そうかい?」
「顔も身体も上等の部類じゃない」
「顔は兎も角、身体は分からないだろ?」
「そりゃあそうだ」

男は声を立てて笑い、視線を戻した。
上下する手が早くなり、晴が更にぎゅっと目をつむる。
白い歯が唇を噛んだ。

「…………っ、―――ぅ!」

晴の手が動きを止め、己をきつく握り込む。
白いものが溢れ、その手を伝った。

「は……は…」

目を開いて荒い息を吐く晴を見て、男が云う。

「ホントに声を出さないな」
「出ないんだよ。口は全く利けない」
「こっちの云ってることは解るのか?」
「それは問題ない。良く唇を読むよ」
「ふうん……」

そうかい。
男は腕組みをして、目を細めた。

「―――あんたの、好みだろ?」

アレは。
満倉は顎をしゃくった。
男は腕組みをしたまま、ふうんと息を吐く。
一旦目をつむり、切れ長で漆黒の瞳を隠した。

「―――よし、決めた!」
「成立だね」
「うんにゃ。これだけ出す」

男は満倉の腕を取り、手のひらに指で数字を書いた。
その金額に目を剥く。

「値上げしてどうするんだい?!」
「それで2回分だ」
「あん?」
「2度目はお前の縄付きだ」
「縛れってのかい…!」

呆れたように云う満倉に、男は格子の向こうを見ながら笑う。

「あの浅黒い肌に、似合いそうだろう…?」

赤い縄が。
男の言葉に、満倉は肩を竦めて見せた。

それが合図だった。
男と満倉は同意したのだ。

晴の水揚げが決まった。


































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