二






翌日。

殆ど寝付けず、睡眠不足のまま床を後にした。
白い米のご飯と香の物、それに汁椀という朝餉を済ますと満倉に呼ばれた。

「夕方までは、普通に働いてもらうよ」

その言葉に頷く。
耳が聞こえない分、人の唇の動きに慣れるのは早い。
ことに満倉のそれは、紅の塗られた真っ赤な色とまた、はっきりと動くので晴には分かりやすかった。
裏の蔵に連れて行かれる。
蔵の裏には川が流れており、そこを使って船で薬の搬入をしているようだった。
既に5艘ほどの船が岸に綱を繋いでいた。

「姐さん、新入りですかい?」
「ああ。良い身体だろう?よく働くよ」
「そのようですね。こりゃ働きモンの身体だ!」

1人が陸に上がってきて、晴の背中や腕に触る。
ぺこり、と頭を下げた晴に「じゃあ、こいつから運んでもらおうか」と船を指差した。
だが、返事がない。
露骨に顔を顰めた男に、満倉が言った。

「身体はいいんだが、耳が聴こえないのさ」
「ええ?!それじゃあ―――」
「顔を見てゆっくり喋ってやれば分かる。ちょっと面倒だが、やってやっておくれ」

へえ。
男は不承不承な返事をすると、晴の顔を覗き込んで荷を運ぶよう言う。
今度は頷くと、身軽に船に飛び乗る。
岸との高低差は大人の背丈ほどもあるというのに、船に飛び乗った晴はよろけることなく
荷に手をかけた。
ひょいっと担ぎ上げ、船から岸に移り軽やかに階段を上って来る。
それを腕組みして見ていた満倉の目が細くなった。
だが、それ以上何も言わずにくるりと身体を翻す。
黒い着物の裾から、白い足袋がちらちら覗いた。



未の刻(凡そ午後2時)を過ぎたころ。
蔵の整理に目処がつき、一息ついていた晴を満倉が呼んだ。

「今日の所はこれで仕舞いだ。お前には別の"仕事"がある。これで―――」

濃い黄色の薬紙に包まれたものを手に押し付ける。
―――腹の中を綺麗にしておきな。





厠から湯殿を経て部屋に戻ってきた晴に、満倉が声をかけた。

「全部出して、綺麗にしてきたかい?」

唇を読んだのか、それともこれから訓練される事から想像したのか。
ほとんど耳の聞こえない筈なのに、晴は小さく頷いた。

「そうかい。じゃ、先に済ませようか…裸になってそこで四つん這いになりな」

尖った顎をしゃくった先は、板張りの広い間だった。小さい格子窓がひとつきりで薄暗い。
だからなのだろう、昼だというのに蝋燭が燈されていた。

これから毎日ここに通うのだろうか…。
そんなことを考えながら、晴は帯に手をかけた。

手早く脱いだ着物を畳んで隅に置く。
そんな様子に、満倉が微笑む。
躾の行き届いた子は、閨の作法の仕込みもそう難しいことではない。

獣のように這う晴の足の間に立った。
背中から見下ろすと、改めてその身体の美しさに気がつく。
広い肩に張り出した肩甲骨。
直線的な男の身体つきだが、背骨やあばらがまだうっすらと透けて見えるくらいの筋肉しか
ついていない。
もう少し年を重ねれば、分厚い筋肉がこの綺麗な骨格を覆ってしまうことだろう。
それはそれで美しいのだが、少年独特の線の細さと男臭さを同居させる今の晴の身体からは
得も言われぬ色香が漂っていた。

美味しそう…。
満倉は笑った。

足で脹脛を押し広げ、手で頭を下げさせる。
尻を突き出す格好にさせられ、晴は身を捩った。
その褐色の尻を叩く。

「いい子におし!何も痛いことをしようってんじゃ無いんだ」

身体を震わせながらも、晴は動くのをやめた。
昨日見たとおりの、まだ誰も咥え込んだ事の無い綺麗な秘所が息づいている。

満倉は手を伸ばした。
入り口に指で触れると、腰が逃げる。
尻を軽く叩くと腰骨を押さえて動かないように固定した。
指先をぺろりと舐め、窄まりをなぞる。

「……!……」

羞恥からか、晴は震えながら息を吐く。
満倉は柔らかい肉を軽く押し、捏ねた。

はぁ…!
声にならない吐息が、何度も漏れる。
まだ快楽なぞ感じないだろう。
ただただ恥ずかしく、気持ちが悪いに違いない。

「でも―――すぐさ…」

そう呟くと、壷に入った丁字油を掬う。
体温でとろりと柔らかくなったものをよく指に馴染ませた。
その中指で晴の硬い入り口を撫でる。
双丘の間が蝋燭の光を反射して、てらてらと光った。

―――誘ってる、男を…。

満倉は、ぐいと指を押し込んだ。

「―――!!!」

一気に真ん中辺りまで進ませると、指を曲げ内側から入り口をなぞる。
敏感な部分だ。
満倉は爪で傷つけないよう、指の腹で内壁を撫でた。

「…!、……っ、…ぅ……」

何かを押し殺すような息が漏らして晴は震える。
女の指が蠢くたびに、身体の奥で何かが生まれていた。

強い圧迫感や異物感は勿論で、それらからは気持ちの悪さしか感じない。
だが、次第にその不快感の向こうで別なものが姿を覗かせ始めていた。
身体の熱が上がる。

晴はだんだん熱く大きくなるものに耐え切れなくなり、顔を落とした。
四つん這いなのだから、自然股間が見える。

そこには―――膨らんで頭を擡げだしていた。

息を呑む。
自分のものが固くなり出したのを、信じられない思いで晴は見た。
そして、気づいた。
自分の身体の奥から湧き出してきたものは、快感だったのだと。

「―――…っ!」

満倉が再び指を進めた。
中指が根元まで押し込まれる。
くるりと回すと、満倉はゆっくり出し入れし出した。
得体の知れなかった筈もの―――快感が晴を呑み込む。

「…う…ぁ!……ぉ…ん……っ!」

ほんの微かな声を乗せて、息が漏れた。
背が撓り、丸みを帯びる。

くちゅ、くちゅ…。
音を立てて指を出し入れしながら、満倉は晴の足の間を覗いた。
それはしっかり勃ち上がり、先端から光るものが滲み出している。

敏感なのも、身体を買われる者としては大事な資質だ。
これも良い反応だ。
とても…良い。
満足げに笑うと、満倉は一気に指を引き抜いた。

懐紙で丁字油を拭いながら、額に汗を光らせた晴の正面に回る。
顔の前でしゃがみ込み、唇を動かして見せた。

今度は自分でやるんだ。
自分の指で、良い気持ちになるんだよ。

そう言って立ち上がる。
愕然と見上げる晴の首を上から押さえ、頬が床に付くまで下げさせた。
身体を支える必要の無くなった右手を取り、足の間から後へと向かわせる。
嫌がる素振りを見せる腕を掴む細い手は、意外な力で目的の場所まで運んだ。

「―――!!」

晴の手は、ぬるりと滑る双丘の谷間に触れさせられた。
中指を抓んだ満倉の指が、それを中へ押し込む。
十二分に塗り込められた油が晴の秘所を滑らかにし、指はあっさり呑み込まれた。

逃げ出したかった。
こんな女なぞ、跳ね飛ばすのは造作も無いことで…。
だが、晴はそれをしなかった。

脳裏には蒼の顔が浮かんでいた。































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