一





訪ねて来た女に面識は無かった。
だがあの鬼子母神の元締の口利きというのもあって無碍にも出来ず、おりょうは座敷に通す。

背が高く、異様に色の白い女だった。
黒地に銀の刺繍の施された、色使いこそ派手ではないが手の込んだことの分かる高そうな着物を
纏っている。
その唇は紅を注していないにも関わらず、酷く赤い。
座るなり、その人を喰ったような色の唇が動いた。

「晴を私に預けませんか?」

単刀直入な物言いに、ぎょっとする。
だが、おりょうとてこの家を切り回しているのだ。
気丈さで負けるつもりは無かった。

「藪から棒になんです?」
「あの晴を、1ヶ月私に預けないかと申したのです」
「いきなり何を仰るのかと思えば―――」

馬鹿馬鹿しい。
一笑する。
だが、女―――満倉の太郎と名乗った―――はおりょうの高笑いを無視し、すうっと目を細めた。

「実はワタクシ、先の月の元締の処の"集まり"で拝見したのですよ」

こちらの坊ちゃんをね。
満倉の言葉に、おりょうの顔が固まる。

「立派な坊ちゃんじゃありませんか。その美しさと度胸に感服致しました。これで手良唐さんも
 安泰でしょう」
「………ありがとう、ございます……」

血の気の引いた顔で、おりょうは頭を下げた。
この女も"ご同業"なのだ。
しかも、一味の。
あの集まりに呼ばれるのだから、どの家かは分からないが首魁なのだろう。
頭を垂れるしかない。

「あの様に立派に"勤め"を果たされるのも素晴らしいとは存じますが、すべてお独りで相手されるのは
 限界がございます。お分かりでしょう?」
「……………」
「男どもの欲は果てがありません。今は突っ込まれて上げる啼き声だけで済んでいますが、そのうち
 痛みに啼く声も聞きたくなるでしょう。血を見たいと言い始めるでしょう。
 元締はそんな男ではありませんか?」
「……………」
「だれかが代わる事が出来るのではありませんか?縛られても、叩かれても平気な者が…」
「……………」
「お身体とて、あまり丈夫なのではありますまい―――蒼どのは」

ですから、晴を私に預けてみませんか?
繰り返す女に、おりょうはとうとう顔を上げた。

「その様に恐ろしい顔をなさいますな」
「これが地でございます」
「ほほ、ご冗談を。手良唐のご内儀どのはお美しくて、天女のように優しいと評判ですよ。
 なにせ、哀れな捨て子をお引取りになった上に、その子を跡取りになさるほどですもの」

今度は隠すことなく内心を表情に出し、ぎっと睨みつけたおりょうの眼前に、満倉の顔があった。
いつの間に―――!?
驚き目を見開いたおりょうに、更に顔を近づけ、囁く。



所詮、妾の子でしょう?
あなたがお乳をあげたわけでもありますまい?
どちらが可愛いのです?
大事なのです?

蒼と天秤にかける必要がありますか?



おりょうの顔から表情が消えた。
あやかしとは、魔とは、こういう声だったのか。
ぼんやりとそう思った。













満倉の薬問屋に着くなり、店の奥に連れられた。
神棚を背に座った女は火鉢の前で長い煙管を手すると手紙を渡し、晴に読むように促す。
読み進むにつれ表情が変わっていく。
驚き、困惑―――そうして読み終わる頃には、その顔はとても静かなものになっていた。

かつん。
煙管を淵に当て、滓を落とす。
女が言った。

「晴、服をお脱ぎ」

蒼がどんなことをしていたのか、知っているだろう。
お前が変わりたいと望むなら、服を脱ぎなさい。

晴は黙って帯を解いた。





全裸で手を引かれて、連れて来られたのは湯殿。
女も襦袢一枚で中に入ってきた。

動かない晴に、湯船から桶で汲んだ湯をかける。
肩から、背中から。
少し熱めのお湯がしなやかな肌を滑り落ちる。

洗ってやるから、動くんじゃないよ。
女の手が、晴の身体の淵に沿って滑る。

頬から太い首、意外と華奢な鎖骨。
すでに胸は厚いが、体毛は無い。
滑らかな胸筋を掌で撫で、その上のささやかな飾りを摘む。
ぴくっと晴が身体を動かした。

ふふ…と含み笑いをし、手を下に滑らせる。
綯った縄のような見事なうねりを見せる腹筋に指先を這わせた。
その中心の窪み、縦に長い臍には親指を入れる。
親指はずらさないまま、十分ではないが既に揃っている茂みを撫でた。

「殆ど、大人だね」

こっちはどうだい。
足の間に垂れ下がる、晴の陰茎を掴んだ。
先端が手からはみ出している。
その大きさに、満足げに微笑んだ。

「もう、剥けてるじゃないか。独りで弄ってるのかい?」

耳元で問えば、晴の顔が朱に染まる。
緩く掴んだまま扱くように何度も上下させた。
すぐに硬さを増し始める。
晴が、震える息を漏らした。

その奥にある袋も洗った。
掌で揉む様にしてやれば「…ぅ…」と小さく声を上げる。
陰茎は、角度を上げそそり勃っていた。

幼い子に"いい子いい子"でもするかの如く先端を撫でると、女は手を後ろに回す。
張り出した肩甲骨を撫で、背骨の凹みをなぞった。

どこもかしこも、筋肉が覆っている。
先日の蒼とは大違いだった。
既に雄の身体になっている。

全ての陰間好みが、蒼のような"子供"好きな訳ではない。
豊かな尻を犯したいと、乱暴にしてみたいと願う者も多い。
そういう者にとって、晴の身体は理想的だった。

しかも、この豊かな尻は処女なのだ。

高く売れる。
女は思った。

だがそれ以上に―――自分のものにしたいと思った。

掌で緊張で硬い尻を掴む。
谷間を割ろうとするが、力が入っていて容易には入り込めない。
足を開くように命じた。

開いた双丘に手を差し入れる。
最奥を指で触れた。
晴が身体を震わせる。

柔らかそうだ。
女は直接見たくなった。
唇を耳に寄せ、名を呼ぶ。

「晴、湯船に手を付きな」
「―――!」

晴―――。
少し大きな声で言えば、大きな身体はゆっくりと折れていく。
足を開いたまま、尻を突き出す格好で木の淵を両手で掴んだ。

双丘を割る。
色づいた窄まりが、忙しない呼吸に合わせて蠢いていた。
その先で、勢いを失った晴自身が下がり裏側を見せている。

間抜けだけれど、可愛らしい。
女は微笑む。

襞を丹念になぞれば、晴は震えるように息を吐き不快感に耐えているようだった。
中心に指先を当てた。

「…く…っ…」

尻がまた硬くなる。
期待してるのかい?
そう揶揄すると、一気に中指を突き入れた。

「うわ…っ!」

指を折り曲げ、入り口付近を中からなぞる。
回転させれば、晴の声は大きくなった。

「痛かないだろう」



もっと痛かっただろうよ―――蒼は。



晴はぴたりと動かなくなった。
指を出し入れしても声を上げない。

「そう、いい子だよ」

女は呟いて、指を抜いた。
油汗を滲ませる背中をぽんぽんと叩き、少し大きな声で告げる。

今日はこれで終わりだよ。
身体を綺麗にして、明日に備えな。

湯殿に響いた声に、晴の身体は崩れたのだった。
























----------------------------------- 20080224