サーサーという水音で目が覚めた。
一瞬雨を疑ったが自分が今居る場所を認識し、同室者のシャワーの音だと気が付く。

ベッドで上半身を起こした。
全裸の身体に昨夜から今朝にかけて数え切れないほど爆ぜさせられた精は無いが、
軋む痛みと見えるだけでもかなり付けられた吸い痕の赤が、荒淫を物語る。
意識を失ってからも責めは続いたのだろう、腕にも記憶に無い赤い華が散っていた。
身体を動かすと、全身至る所が痛む

「―――ぁ…痛っぅ…」

後孔に走る痛みは鋭く、腰は鉛でも入れられたように重い。
ベッドに腰掛ける頃には軽く息が上がっていた。

壁に手をつき立ち上がる。
キースの精が零れ落ちた。
昨夜は何度だ?5回?6回?
信じられないとブルーは頭を振る。

キースが部屋にいる時間は、等しく自分が苛まれている時間だった。
それは日を追うごとに激しさを増し、気を失ってからも自分を抱き続ける
キースに恐怖すら覚えるほどで。
回復する間もなく嬲られる身体には、はっきりとした疲労が溜まっていた。
クローゼットに向かう途中、鏡を見れば目の下にはうっすらと隈が浮き出ている。


彼が居ない間に眠ればいいのだが―――もう少しなのだ。
それに、時間も無い。
休んでいる訳にはいかない。


よろよろと辿り着いたクローゼットから白いシャツを手に取ったところで、
冷ややかな声を背中から浴びせられた。

「誰が服を着る許可を出した?」
「…今日はノアに降りるのだろう?」
「…寂しいのか…?」

笑いを含んだ声に、ブルーは馬鹿馬鹿しいとだけ答え、止めた手を再開する。

「昨日、私は元帥に任ぜられた」
「元帥…?」

怪訝そうな声と共にブルーは振り返った。
見慣れない白い服のキースを見て、嗤う。

「この間2階級特進で大佐になったばかりだろう?―――メギドを失った"功労"で…!」
「……………」
「死んだ兵士だけが許される特進をさせられた上、今度は元帥か…!
 生きて帰ってくるなというメッセージか?それとも―――――」

体制の崩壊が近いのかな。
読めない表情のキースは、何も答えない。

「暗殺や謀略………そんなものを許すSD体制も終焉が迫っているという事だな…」

どうなんだ、元帥さま?
揶揄する言葉に、ふっと薄く笑うと「そうかもしれないな」と呟く。
思わぬ肯定に驚いたブルーに近づき、顎を取ると壁に身体を押し付けた。

「だが、それは貴様に言われる事柄ではない…!」

反抗的に煌いた紫の瞳。
何度虐げても踏み付けても、決して消えることの無い強い意思。
それはキースを喜ばせると同時に、酷く癇に障るものだった。

屈服させたい。
跪かせたい。
泣いて許しを乞わせ、縋りつかせたい。
そんな強い欲望がキースを支配する。
細い顎を掴む指に、力が込められる。

すると、ブルーの瞳が色を変えた。
鮮やかな赤。
四六時中抱き責め続けた結果、ブルーの身体はキースが触れた途端
体液を零すようになっていた。
恐らくは身体を保護する為の無意識の反射なのだろうが、ブルーを苛むには
格好の材料だった。

「私に触れられるとすぐに欲情するような、淫乱なおまえに―――!」

キースはブルー自身を掴んだ。
既に固くなり始め、蜜を溢れ出させている部分。

「今すぐ欲しいものをやる!」

「ちが…っ」と声を上げたブルーの太股を掴み上げ、素早く取り出した自身で
立ったまま貫いた。















― 帰還03 ―














再び気が付いた時には、全裸で壁に凭れていた。
残滓は乾き、腹部や太股にこびり付いている。

ブルーは立てた膝に額を乗せた。
体位が変わった所為で動いた臀部に、流れ出る嫌な感触が広がる。
気持ちが悪いが、もう一歩も動けなかった。

時計を見れば、キースが戻ってくるまでもう2時間を切っている。
すぐにまた、あの快楽の地獄が始まるのだ。
ネットワークに入り込むまでの所要時間と、送り込むタイミングを考えれば、
シャワーを浴びて服を着る間すら惜しい。

どうせ脱がされるのだ。
ならば着る必要など無い。

ブルーは壁に後頭部を当て、宙を見つめた。
脳裏に全く別の空間が浮かぶ。
そこへ、意識を飛ばした。



エンディミオン全体の光の流れが見える。
ネットワークに繋がれていない部分は存在しない為、艦全体が光り輝くようだ。
更に遠くに飛ぶ。
ノアの遥か上空に、集結しつつある各方面の艦隊が雲霞の如き群れを為す。
艦の間も光が断続的に飛び交っている。
その一つに意識を飛ばした。

目も眩むほどの光の渦。
大量の情報を圧縮して送信している為、紛れ込むのは容易い。
別の艦にあっさり入り込んだブルーは地上を目指した。
一直線に向かうとトレースされた場合逃げ切れないので、遠回りになるが
地上とは全く関係ない部署を通過する。

様々な部署を経て、ブルーは地上へ発信する最終の回線に潜んだ。
タイミング良く発信された船からの定時連絡の尻尾を捕らえる。
一気に地上の回路に降り立った。

軍の監視システムやバッジシステムなど今のブルーには何の障害にもならない。
短時間で民間のネットワークに飛び出すとスピードを上げ、あるシステムを目指す。
ブルーの目指すもの、それは小さい輸送会社の通信システム。
今シャングリラがいる座標の先を、この会社の輸送船が通過しているのだ。

位置特定のための信号と、簡単な指示書を送る予定であることを掴んだのが、昨日。
その僥倖に眩暈がした。
キースの予想外の"行為"に予定が狂ったが、何とか間に合いそうだ。

軍のコンピューターから、彼の頭から奪った情報を送らなければ!

このノアを攻撃させてはならない。
キースは最初から捨てるつもりなのだから。 
この星は戦うことなく陥落する。
攻撃すれば、人間との溝を深めるだけだ。

それに、サイオン攻撃の効かない兵士の存在。
これは皆の安全に直結する。
特に、最前線で戦っているであろうジョミーやあの子たちには、命に関わる情報だ。

何としても届けなければ…!
例え―――例えこの身が辿り着けなくても……

ギリギリ間に合った。
通信が発信されるのを待つ。
1分が、1秒が長かった。

光が―――放たれた。

身体が無ければ、共に飛んでしまいたかった。
そうすればあの懐かしい場所に帰れる。
温かい腕の中で抱き締められる事が出来る

実体などなくても、それはとても幸福なことだろう―――――

ブルーは必死で己の衝動を抑えた。
情報は飛ばせたのだ、それで満足すべきだと。

彼はきっと気が付いてくれる。
その為に、あの暗号を使ったのだから。
大丈夫だ、大丈夫………

光が飛び去った方向に背を向けた。
戻らなければならない場所を思い描く。
ふわっと浮上する感覚の一瞬のち、ブルーの身体は光の渦に呑まれていた。

彼が消えた地点には、沢山の小さな水滴が漂っていたのだった。
















白い服のアニアン元帥は、戻るなりブルーを抱いた。
数時間前の後始末も出来ていない、全裸の細い身体をベッドに組み敷く。

「待ちきれなかったのか……こんな格好で」
「………お前が出かける直前までしていたから―――んっ…!」

口答えなど許さない。
乱暴に唇を重ねた。
突っ込んだ舌で口蓋をまさぐり、ブルーの身体を震えさせる。

「…んう…う…ぁふ…んん…」

舌先による口の粘膜への刺激は、ブルーの下腹部に直結した。
立ち上がり、身体の動きに合わせて揺れる。
既に溢れさせたもので濡れ、光っていた。
それを鷲掴みにし、上下に扱く。

「ひぃあ…っ!ぁぅああ…あぁああああ…いぁっ!あっ!」

強い快感に捩る顔を押さえ、口づけを続ける。
開き悲鳴を上げる唇を噛み、吸った。
悶えるブルーに囁く。

「良さそうだな、とても」
「ああっ…うあ…あああっ…!」
「ひくひく震えて……もうイキそうなのか…?」
「あ!…も……ああ……う!…い……ぃ…っ!」

ブルーは生理的な涙を流し、限界が近い事を訴える。
キースは手の速度を速めた。

「ぃああああっ!はぁあああっ!」

鋭敏な快感が身体を突き抜け、白濁が飛び散った―――そう感じた瞬間、
キースの指が今にもはち切れそうなブルー自身の根元を締め付けた。

反り返りベッドから離れた背中が、どさっとシーツ落ちる。
涙に濡れ、美しく色を変えた真っ赤な瞳がキースを映した。
縋りつく視線は雄弁だが、その唇からは押し殺した息と僅かな声が漏れるのみ。

「…………あ……ぅは…ん…っ…くっ…」

吐き出せたはずの欲望が、ブルーの中を暴れまわっているのだろう。
びくっ、びくっと身体が跳ねている。

「イキたいか…?」

縋るような瞳のまま、唇を噛み締めたブルーは首を横に振った。
吐き出す対価として求められるものが、耐え難い。



一言言えば楽になれるのに。
それ程までに、嫌なのか。
善がるブルーに一度は落ち着きかけた燻ぶる炎が、再び勢いを取り戻す。
苛苛する…



そうか。辛いぞ。
そう言って、ブルーの根元に伸縮性のあるバンドを巻いてきつく止めた。
自分も服を脱ぎ、ベッドサイドから取り出したものを手に、浅い息を繰り返す
細い身体に跨った。

「セルジュに打たれたのは、ここか……」

冷たい無機質な機械で、尖りきった胸の突起を押し潰す。
ブルーは息を止め、体内に薬液を打ち込む道具から顔を逸らした。

「確か2発だったか……」

つつ…と先端をずらし、心臓の上で止める。
覚悟を決めたようにブルーは大きく息を吸った。

紅潮した頬、手のひらや指が触れるたびに震える白い肌、止めてあるのに先端から
じくじくと溢れてくる透明な雫。
身体のすべての部分が己の決意を裏切っているというのに。
ブルーの唇は、開かない。



何故だ…?
どうして従わない…?

一番欲しいものだけが、意のままにならないなんて。
望むもの以外は全て、手に入るというのに。

だからこんなに苛苛するのか。
押し潰せない程、消し去ることが出来ないほど燻ぶる心。
自分の感情がコントロール出来ないなんて―――
この私に限って、そんなことはありえない…!



激情のまま引き金を引いた。
3回。

「―――ぅあっ!!」

キースを乗せたままのブルーの身体が大きく跳ねた。
額には見る見る汗が噴出し、ガクガクと震えだす。

キースは手にしていたものを放り投げると、上半身を倒し首筋に顔を埋めた。
緩急をつけて吸い、舌で舐め上げる。
汗の塩けが混じるが、ブルーのうなじは甘い。
嘗め回す。

過ぎる快感が苦痛なのだろう。
胸を押し返す両手を、銀糸の上で一纏めに括った。

「いやぁ…っ!ひあぁああああああっ!んあ…くぅあああ…っ!!」

ブルーは狂ったように顔を振る。
その顎を掴んだ。

「言え…!」
「あ……い…や……!んんんっくうぅ!」

ぼろぼろ涙を零すが、求める言葉を口にしない。
その口に指を突っ込んだ。
噛み切ろうとでも言うのか、歯を立ててくる。
無理やりこじ開けて、唾液を掬い取る。
太股を立て、膝を開かせ、その間に身体を押し込んだ。
びちゃびちゃに濡れた指を2本、秘所に突き立てる。
激しく動かしながら、出し入れした。

「はあっ!!いあっっ、くぁあああっ!!」

赤く色付き膨れた飾りを口に含み、歯を立てる。
白濁さえ混じる液を垂れ流すブルー自身にも愛撫を加えた。
扱き、括れを擦り、鈴口を抉る。

「いやっ!やっ…!やめ…てっ!」

悲鳴が響く。
既に強い光を失った瞳は、焦点が合わない。
キースは舌と両手を動かし続ける

「ひぃやぁあああっ!はうあっ、くぁうあああああっ!!」

唾液が開きっぱなしの唇の両端から溢れ、身体の震えは止まらない。
ただひたすら声を上げ続けるだけ。

薄い胸から顔を上げたキースの声が、ブルーの耳に突き刺さる。

「何かいう事があるだろう…?」
「―――あ……あ……」

ほら。
指を3本に増やし、グズグスに融けているブルーの秘所をかきまわす。

「ひっ!い…やぁ…っ!ああああああっうぁああ…っ!!」

ほら。
先走りか漏れ出る精か分からない液体に塗れたブルー自身を更に強く握り、上下させる。

「き…っあああああっ、くあぁあああっっ!」
「ほうら、ブルー……言えよ」










「あ―――あ…………ア…イ…シテ…ル―――――
 あい…してる……あいしてる―――愛してるっ!
 愛してる愛してる…っ!!」



一度堰を切った言葉は止められない。
大声で泣きながら、ブルーは叫んだ。

だからイかせてっ!イかせてぇっ!!

昨夜も、何度も何度も強いられた言葉だった。
口にするたびに、何かが自分の中から削り取られていく気がして。
だから、決して言いたくなかった。
でも、身体の欲求からは逃れられない。
追い詰められて、どうしようもない場所まで追い遣られて、そうまでされないと
言えなかった。

キース…っ、お願いっ!!
これっ外して…っ!
もう嫌だ…っ

自分が何を喚いているのか、全部理解は出来なかった。
身体の責め苦から逃れるためなら、何でも言えた。

イかせてよ、もうイきたい…
堪えられない、イきたい…

手首の拘束が外されれば、縋りついた。
身体の熱で、気が狂いそうだった。

いや、狂っていたんだろう。
這い蹲り、自分から口にした。
キースの強張りを。
一心に舐めた。

脳裏に浮かぶシャングリラが、遠くなった気がした。










己の足の間で4つんばいになり、銀の頭を上下させるブルー。
既に何度も欲望を吐き出し、下腹部は汚れていた。

キースは目を細めた。
満足だった。
満たされた―――――はずだった。

満たされ消える筈の苛苛が積もる。
理由は分からない。
キースの中の炎は消えずに、燻ぶり続ける。

銀の髪を掴み、ぐいと持ち上げた。
真っ赤な瞳は、涙に濡れていた。

胸に抱き寄せ、そっと口づける。

「明日、ゼウスに連れて行く」

それで、地球へ行く。
腕の中でぴくんとブルーが動いた。

「私がお前を連れて行く」

そこがミュウの墓場だ。
私がミュウを根絶やしにする。

聞こえているのだろうに、ブルーは身動ぎもしない。
キースは大人しく抱かれたままの顎を抓み、上向かせた。
キスを待っているかのように瞼は閉じ、薄く唇を開いている。

ブルー、お前を連れて行く。
そう呟いて、キースは唇を塞いだ。





その下で、ブルーの拳がグッと握られたことに、キースは気が付かなかった。


















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