扉が開いた音は聞こえたろうに。
部屋の奥、足を組んで椅子に座ったまま、ブルーは動かない。
膝の上に両手を重ね、見るとはなしに斜め上に顔を向けていた。

白い服のほか、身に付けるのは首の周りの細い銀の輪だけ。
靴も履いていない。
色を添えているのは、色味の異なる二つの宝玉。
右は深紅で、左は黎明の空の色。

「ブルー…」

名を呼べば、緩慢な動作でこちらを見た。
怖れることなく、キースと視線を合わせる。
「何をしている」と目で云えば、軽く目を伏せると仕方がないと
いった風情で嘆息し、椅子を立った。

ぺたりぺたり。
裸足の足元から音を立てて、入り口までやってくる。
キースの傍に立ち、顔を上げた。
これからされる事は理解しているのに、その白皙には何の感情も浮かんでいなかった。

いつものように出迎えた捕虜に、キースは口づけた。
いつものように。














― 刻印01 ―















顔を離す。
散々舐った唇が、光っていた。

マツカに外で待つように告げると、扉を閉める。
完全に閉まるのを待たず、細い肩を壁に押し付けた。
マツカに、ブルーの不快げに顰めた眉が見えたかどうか。

「大佐…っ!―――――」

その後の言葉は扉に遮断され聞こえない。
キースは服の上からブルーの胸を撫で、触れた左の突起を抓んだ。
ブルーは顔を逸らす。

小さく柔らかかったものが、固くささやかな自己主張をする頃には、逸らした顔は
やや紅潮し、開きかかった唇は浅い呼吸を繰り返していた。
顎を取り、上向かせる。
まだ左の瞳は紫のまま、けれど、その瞳は濡れていた。

キースは裾を捲くり上げ、右手で直に突起に触れた。
ブルーが息を呑む。
ほんのりと色を変える瞳。
だが、まだ左右の差異は大きい。

左手で頬からうなじ、右の突起を掠めて、起立しつつあるブルー自身を掴んだ。
苦しそうに歪んだ瞳がさあっと、色を変えた。

「……は…ああ…っ……!」

白い下穿きの上から揉んで、扱いた。
ブルーの白い肌は朱を纏い、細い身
体が震えた。

「あ……あ……は…っ!…ああ…う……んっ…」
「……脱げ」

耳元で低く言えば、赤い瞳にちらと浮かぶ反抗的な光。
でも、ブルーは身を屈め自分の手で下着と下穿きを取った。
脱いだものを脇に放り、壁に背を当て顔を上げる。
アイスブルーの瞳を見上げた。

赤く色を変えているのは、性的に興奮していることを示すものだったが、
そこに熱は無い。
感情の無い瞳。

キースはそれから視線を外すことなく左の細い太股に手を掛け、持ち上げる。
滑らかな丘を掴み引き寄せると、猛る自身を押し込んだ。

「―――っ!はっ………あ…っ……!」

ブルーを壁に押し付け、立ったまま貫く。
幾度も突き上げているうちに、辛うじて床に接触していた右足も宙に浮いた。
深くなった結合に、ブルーの声が高くなる。

「あああっ…はうっ…いああ…うぅ…ぅああ…っ!」

両足を高く掲げ、キースの腕の中で揺す振られた。
無理な体勢で不安定に動かされるため、ブルーの両手は制服を着たままの
広い肩を掴む。
すっかり起立したブルー自身が、キースの腹部で擦られ、それも快感を拾っていた。


程なく―――――ブルーは大きな声をあげ、同時にキースは彼の中で吐精した。









引き抜かれ、両足を床に戻される。
壁に凭れて立つブルーの両膝は、達した直後という事もあり力が入らない。
ベッドの方向に一歩歩き出して、崩れた。

その身体を、抱えるように支えたのはキースの腕だった。

「何だ、お気に召さない顔だな」
「……放してくれ」
「這い蹲るつもりか…?」
「………………」
「なら、もっと気に入らない事をしてやる」

膝下に腕を通し、抱え上げる。
軽く身を捩るも、無駄を知るブルーは暴れる事はなかった。

抱えたままシャワー室に入り、スイッチを入れる。
濡れそぼっていく銀糸と表情の乏しい、人形のような美しい顔を近くで見た。
雫が涙のように眦から頬へと伝う。

『愛してる』
『もう離さない』
そう囁かれた時も、その美しさに息を呑んだ。

以来、拒まなくなった。
無論歓迎されている訳ではない事は、この無表情といってもいい位感情を現さない
顔が示している。
腕の中で色を変えていく瞳、欲情に飲み込まれ変化していく表情、それもキースを酔わせた。
美しいものだ、と。

でも、覇気が無い。
怒りに燃え立つ瞳を最も美しいと感じていたキースは、それを口頭で指摘した。
戦士として、情けなくは無いのかと。
答えは「おまえの気に入るような事を何一つしてやるつもりは無い」。
散々嬲られてベッドの上で起き上がる事すら出来ない状態で、ブルーはそう云った。

言葉では"している"くせに………!
望んだような台詞ではあったが、表情は変わっていない。
美しく気高くて、けれど、生気のない顔。
今のような…………

キースはブルーを下ろし、自分もシャワーを浴び始めた。
髪を洗い、汗とブルーの精を流す。
同じ事を小さな身体にも―――――
露骨に嫌な顔をしたブルーに、後は自分で流すように言うとキースは先に出た。




20分後、二人はエンディミオンの通路を歩いていた。
先頭にマツカ、次にブルー、殿をキースが務める。
ブルーの背に当てられたその手には、銃が握られていた。

すれ違う者は一様に驚いた表情を浮かべた。
この捕虜が何者であるかを知らぬ者はいない。
首に捲かれている銀の輪が彼のサイオンの発動を抑えると理解していても、
檻から出すなど信じられない暴挙であった。

それに―――――彼の着ているもの。
自分たちと同じ国家騎士団のものでこそ無いが、黒を基調とした人類統合軍の制服…!
ミュウが、退いたとはいえその長が…!

しかも、怖ろしいほどに、映える。
輝く銀の髪と白皙の美貌が、黒と銀に引き立てられて―――――
惹きつけられ目が離せない。

そんな視線の中をゆっくり歩いて、着いた先は射撃場だった。
言い含められていたマツカも入り口で振り返り、本当に良いのかと戸惑った顔を見せるが、
それに顎をしゃくり、中に入るように促す。

「貴様に"爪"を与えてやる」

一番奥のブースで、手にしていた拳銃を渡した。
ブルーはずっしりと重い銃を見つめ、「何故だ」と問う。

「云ったはずだ、楽には死なせないと」

希望を持って、志半ばで倒れるがいい。
それには闘う爪も必要だろう。

「私が―――――こうするとは思わないのか…?」

銃口を真っ直ぐにキースの額に向けるブルーに、マツカが慌てて二人の間に入る。
その身体を押しのけて、キースは銃口を眉間に押し付けた。

「思うさ。だがな、それでは弾は出ないぞ、"お姫様"」

素早く手首を掴み後ろを取って、首と腕を捩じりあげる。
痛みに震えるブルーの耳元で囁いた。

「今まで貴様には必要が無かったのだろうが、教えてやる。
 この安全弁の外し方からな」

銃を取り上げ、突き飛ばすように解放した。
かちりと弁を外し、手渡す。

「今の貴様では、私は斃せん。何故だか分かるか、ブルー?」
「…………………」
「死を前提に行動する者に、常に生を最優先に動く者は殺せない。
 死に物狂いの攻撃など、防ぐのは容易いものだ」

唇を歪め、蔑むように嗤う。
その笑顔に、ブルーも笑った。

「…………そう…だな」

的に向かって半身になり、拳銃を構える。
軽く息を吸い、引き金を引いた。

響き渡る銃声。
その音は、ほぼ毎日聴かれることになるのだった。




























----------------------------------- 20070812