「……んっ……ぁ…ん………く…………」

キースの膝の上に正対する形で抱えられ、足を左右に開かされて。
上下に揺すられる細い身体。
白い腕は肩から下がったまま、その先に拳を二つ形成していた。
動きに合わせて吐息は漏れるが、未だに声を上げないブルーにマツカは
恐怖心すら覚える。

初めは二人を見るのが嫌だった。
キースに命じられているから仕方なく立ち会う。
顔を逸らして…直視出来なかった。

マツカ…!
すると必ず、叱咤を含んだ声音で呼ばれた。

「見なくても……出来ます…!」
「貴様がそれほど高性能とはな。知らなかったよ」
「――!」

この手の会話をこの1ヶ月何度したか。
キースの時間のある限り、ほぼ毎夜繰り返される"尋問"。
マツカはその全てを見させられたのだった。















― 理由02 ―















今日も薬物が使用されている。
ベッドサイドの机には体内に射入する拳銃型の器具。

効果のさほど強くない催淫剤。それも適量。
連日使用しても人体に害は無いとされている。

けれど。
一度だけ使われた記憶のあるマツカはその効能を思い出し、身震いした。

浮遊感と高揚感。
それに、痛痒感
どこでも、肌に触れられると全身が泡立つほどの快感が走った。

それが欲しくて、鎮めて欲しくて……
理性など何の役にも立たなかった。
触ってくれと、入れてくれとキースに懇願した自分。
足に縋りついたに違いない。
涙さえ流していたろう。

思い出したくも無かった。

この少年――容姿はどう見ても少年以外の何者でもなかった――との差。
雲泥、天と地…いや、もっともっとか。
自分の弱さを差し引いても、この驚嘆は変わらないだろう。



今、マツカは二人を見ている。
真っ直ぐに。
その瞳にあるのは………



全身を汗に光らせ、奥歯を噛み締めた苦悶の表情のブルーと、全裸ながら
対照的なキース。
大人になる前特有の細さばかりが目立つブルーから見れば、軍では細身でも
キースの身体は筋肉質の一人前の雄のもので。
"逞しい"とすら思えた。

その身体の上で、ブルーはひたすら耐えていた。

「はっ…………く………っっ!……」
「いい加減、啼いたらどうだ…?」
「…だ…れが…っ……!」

途切れながらも、しっかりと応えを返す。
赤く"両眼"を光らせて。

埋め込まれた義眼。
腰を掴んでいた左手で、それに触れる。
冷たく硬質な肌触り。
その感触をキースは好んだ。

ブルーはいつまでも離れない手を、顔を振って外す。
その顎を力任せに掴むと、キースは押し倒した。
酷く打ちつけらた背中の痛みに、顔を歪ませる。

その勢いのまま、膝裏を掴み肩に担いだ。
ぐいっと腰を引き付けると、強くグラインドさせる。
深い所を突かれて、ブルーの口が大きく開いた。
でも、息を吸っただけで閉じ、キースの望んだ高い声は上がらなかった。

眉根を寄せ、唇を噛む。
溢れ出そうになるものを必至に堪える表情は、
何度見ても堪らないものがあるが―――――

キースは壁際のマツカを見る。
視線が合うと、薄茶色の髪が横に揺れた。


まだ、駄目か………ならば。


一気に腰を動かした。
ブルーの意識を飛ばす為に。

















次にキースが訪れたのは、その日から10以上も夜を越えた晩。
夕飯のトレーを持ったマツカを従えて現れた長身に、ブルーは少し驚いた表情を
見せた。

「調子はどうだ、"ソルジャーブルー"」
「手厚い監視のお陰で、すこぶる良好だよ」
「それは……良かった」

にやりと笑ったキースに、ブルーは眉を顰めた。
気にせず、怪訝そうな白皙に云う。

「腕を出せ」
「………やれやれ。まだ諦めていないのか」

差し出された細い手首を取り、器具を肘の内側に押し当てた。
小さい作動音と共に、薬液が体内に打ち込まれた。
痛みは無い。

いつもは数分すると次第に身体が熱くなってくるのだが―――――
ブルーは、すぐに身体の中心から込み上げてきたものの熱さや大きさに
目を見開いた。

はあ…っ、はあっと肩で息をして、手を付いていたシーツをぎゅっと掴む。
前も―――後ろも、疼く。

急速に上がる、熱。
触れて欲しくて、入れて欲しくて。
激しく抱かれてたい……

誰に…?
一体誰が欲しい…?

上げた視線の先には、足を組んで椅子に座る黒髪の長身。
赤を基調にした制服に黒い靴、漆黒の髪に縁取られた白い整った顔の中で一際輝く
アイスブルーの瞳。

これまで散々自分を嬲った男。
銃を向け、躊躇いなく引き金を引いた男。
ミュウの―――――恐らくは最大の敵。

目を細め、憎しみを込めて睨んだ。

なのに。
キースの顔はほころんだ。

「欲しいのか…?」

低い声。
ぞくっと、ブルーの背筋に走るもの。
蒼い瞳に可笑しむような、哀れむような色を認め、気が付いた。
自分がどんな顔をしているか―――――

ブルーはぎゅっと目を瞑った。
縋るような眼差しをしてしまう瞳と、全身を覆いつつある疼きを押さえようと。

「本当に淫乱だな。誰でも良いか、ブルー…」
「……だ…誰が………貴様…な…ど……!」

俯いたまま、それでも言葉を返す。
掠れて、苦しげな声。
ブルーの身体は震えていた。

「じゃあ…誰なら、いいんだ…?」

その声に含まれていた会心の笑み―――ブルーはキースの思惑に気付いていたか。
薬に苛まれる身体に引き摺られた思考では、無理だったのかもしれない。



脂汗をかいた額の奥、ブルーの脳裏に浮かんだ姿は、褐色の肌の思い人。



「…ハー…レイ……」

呟いて顔を上げた。
その先に、求めて止まない人物が居た。
キースの居た椅子に、足を組んで座っている。

「ど…どうして…?」

呆然と見つめるブルーの視線の先で。
在り得ない影は、言葉を発した。

「…ソルジャー…」

聴きたくて聴きたくて、堪らなかった声で。
その声で、もう一度呼ぶ。

ハーレイは立ち上がり、ブルーに近づいてきた。
見慣れた優しい笑顔。
ゆっくりと歩みベッドサイドに立つと、「…ブルー」と呟く。
大きな手が伸ばされ、知らずに涙を流していたブルーの頬に触れた。


瞬間―――――ブルーがその手を払った。


触れられた瞬間、肌が、全身がこれは違うと叫んでいた。
これは違う!と。

「おまえは…貴様はキースかっ!」

ハーレイの姿は消え、その向こうから不敵に笑うキースが現れた。
けれど、その姿はすぐにハーレイの身体に覆われる。

「ブルー、どうされたのです?」
「―――――!止めろっ!」
「私が…お分かりになりませんか…」

寂しそうに微笑む姿に、ブルーは息を呑む。

「また…私を置いていかれるのですか…」

苦しげに右手で胸を押さえる。
紛れもない、ハーレイの姿に―――――ブルーは逃げ出した。



















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