ベッドから駆け下りたブルーの手首を、ハーレイが掴んだ。
ぐいと引き寄せると後ろから抱きかかえる。

「放せっ!」

ブルーは慣れたハーレイの腕の中で暴れた。
頭を左右に激しく振り、手足を振り回す。

「放せ、放せっ!―――――放せぇ…っ!」






両腕に力を込めたキースは、笑った。
ブルーがここまで取り乱した反応をするとは。

嬲り抜いた1ヶ月の間に、色々事を試した。

媚薬と呼ばれる類の薬物。
これは今も使っているが。

勿論道具も使った。
こちらはあまり効果が無く、むしろマツカに激しい動揺を与える結果になり
すぐに試すのを止めた。

ブルーが最初に受けた暴行の資料。
これは映像も残されていたので、流しながら抱いた。

そして、この研究員たちはブルーが最初に殺した相手だろう。
手を汚したときの事を思い出させもした。

その全てにおいて彼の反応は淡白だった。
殆ど無いに等しい程度であったのに――――――!

壁際で全身をぼんやりと光らせるマツカに目配せすると、キースは逃れようと
必死でもがくブルーの身体をぎゅっと抱き締めた。















― 理由03 ―















暴れる小さな身体を抱え上げ、ハーレイはベッドへと運んだ。
丁寧にそうっと下ろす。
解放されたブルーは後ずさり、壁に張り付いた。

「よ…寄るな…っ」
「ブルー……私が分からないのですか?私です……」
「違うっ!おまえはハーレイじゃないっ!」
「……ブルー…」

悲しそうな表情で、ハーレイはベッドサイドに立ち尽くしている。
唇を噛み締めたその顔は沈痛といってもいい位、悲しさや悔しさを表していた。

違うと解っていた。
抱き締められた感じも、いや触れる瞬間から身体が覚えているハーレイではなかった。
けれど、あの顔であの声で名を呼ばれたら……
ブルーは震える指を伸ばした。

その手をハーレイは捕らえ、引き込むようにしてベッドに押し倒す。
圧し掛かり、服を剥ぎ取ろうとした。

「止めろっ!」

その声に、引き裂く音が重なる。
ブルーの服が破かれた。

やっぱり違うっ!
ブルーはハーレイの腹部を蹴り大きな身体から逃れると、ベッドから飛び降り
シャワー室に走りこんだ。
素早く鍵をかけ、一番奥でしゃがみ込む。

どんどん。
扉を叩く音。
そして―――――名前を呼ばれた。

「ブルーっ、ここを開けてください!」
「もう止めろっ!」
「さあ、開けて。顔を見せてください」
「やめろ…っ!」
「…ブルー……ブルー、お願いです…」

ブルーは勢いよくシャワーを出した。
声を聴きたくなかった。
隅にしゃがんで、両耳を押さえる。

すると―――――直接頭の中にハーレイの声が響いてきた。

『ブルー…ブルー』

ひっと息を呑み、ブルーは頭を抱え込むようにしてきつく耳を塞いだ。
頬を伝うのはシャワーの温水か、それとも。

『ここを開けて…』

『あなたが心配なのです』

『何をそんなに怖がるのですか、私です』

『…ブルー…』

ブルーの両腕が耳から外れ、自らを抱くように身体に捲きつく。
きつく、きつく。

『私が分からないのですか…ブルー?』

『あなたをこんなにも待ち焦がれていた私を…』

『ずうっと…待っていたのです…』

『ブルー…逢いたかった…』

『…ブルー…ブルー…ブルー…ブルー………』

ブルーの小さな身体が、立ち上がった。
震えている。
両手は捲きついた先の腕に爪を立てていた。
それぞれの二の腕から血が流れていた。

五感の全てが、あれは"あやかし"だと訴えている。
頭でも解っていた。
あれはマツカが見せる幻。
実体はキースなのだと。

でも。

身体の奥底から、求めていた。
心が叫んでいた。



ハーレイが欲しい。
ハーレイが恋しい。

恋しい。
恋しい。

欲しくて、欲しくて………我慢出来ない。



扉を開ける。
焦がれて止まない姿。
優しく微笑んでいる。

ブルーは外へ出た。
そのすぶ濡れの身体を、ハーレイは抱き締めた。

「…ブルー……っ!」

耳元で押し殺した声。

逢いたかった、恋しかった、欲しかった。
ずっと待っていた。
あなたを。

ブルーには、そう聞こえた。

「…ハーレイっ」

広い背中を精一杯両手を広げて抱き締める。
抱き締め返されて。

ブルーの頬に涙が伝った。






















「はあっ!んんっ…あ……ああ…っ!」

"特別室"に響くのはブルーの声。
大きく足を開いてうつぶせた身体に、キースが圧し掛かっていた。
左手でブルーの腰骨を掴みぴったりと密着して、身体を揺すっている。

ベッドに押し付けられている銀糸の脇に付いたキースの右手に、ブルーは自分の
右手を重ねていた。
その手をぎゅっ、ぎゅっと握る。
伝わってくるのは快感に溺れる心地好さと、幸福感。


ああ、ハーレイ
気持ち良いよ
幸せだよ

もっと
もっと


それはほくそ笑むキースの心ですらも暖かくする程で。
せがむ様に動くブルーに合わせて、腰を振る。

「…んん…あ…んあ…ハーレ…イ…う…はあああ…!」

高くなる声。
首筋に口づけたキースはマツカを見た。
目を閉じ眉間に皺を寄せて、汗を滴らせている。
見られていることに気付いて、思念で答えた。

『モビーディック、彼らがシャングリラと呼んでいる艦の内容は随分分かりました』
『複数のタイプブルーについてはどうだ』
『…待ってください…もう少しで…見えそうです…』

キースの脳裏に赤く燃えるナスカが映し出されていた。
禍々しい赤を背景に輝く青い光―――――これは、メギドの炎か…。

マツカの情報ではまた、自分が次にどうすればいいかも分かる。
かつての、本物のハーレイとの情交の画もふんだんに伝わってくるのだ。

キースは腰を止めぬまま、左手を細い腰骨から身体の中心に移動させた。
固くなり涙を零すブルー自身をそうっと掴み、上下に扱く。

「ひ…っ!…い…あ…あ……ああっ!…うあ……は……」

震えが大きくなり、左目から大粒の涙が零れた。
体内のキースを締め付ける。
更に手を動かすと、ブルーは背中を逸らせ白濁したものを吐き出した。

まだ達していない自身をずるりと引き抜くと、ブルーは身体を捩って口づけをせがむ。
キースの首に腕を回し、引き寄せた。

「……ん……んん……ふ……」

唇を離さないまま、ブルーは座ったキースの膝の上に跨った。
手を沿え、自分の秘所に導く。
ゆっくりと腰を落として、飲み込んだ。

『声を…聴かせて…ブルー…』

キースの"声"に素直に従う。
キスをやめ、両肩に手を置き自ら動いた。

「はああっ…ああ……い…あ…っ!」

キースは両手で胸の突起を弄り、うなじを吸う。
すると締め付けが増し、キースの背中を吐き出したいという欲望が駆け抜けた。

「…もう…ブルー……」
「ひあ…!…う!……あ…っ…うん…ハーレイ……」

両手で双丘を掴み、左右に割り貫く自身に押し付ける。
もっとも深い場所に潜り込まれた事による快感が、ブルーの身体を大きく反らせた。

「ああああああっ!ふ…あ…あああああああああ…っ!」

髪を振り乱し、絶叫する。
キースも堪えることなく激しく突き上げた。

「ああああああああああああああああ……っ…!」
「…くっ…!」

ほぼ同時に二人は吐精した。
その瞬間、ブルーはキースを見て微笑み、口づけた。

『愛してる』
『もう離さない』

それを真正面から受け止めたキースの顔から、笑みが消えた。

















----------------------------------- 20070806