なぜ
生きているのだろう



なぜ
死を選ばないのだろう


自ら心臓を止める
そんなにむつかしいことでは無いはずなのに





独り

たった独りで………何を為そうというのだろう















― 理由 ―















キースの云う"特別室"。
ここには窓もない。

在るのは外界と繋がる唯一の扉が一つだけ。
その扉が開くのは1日に3度か4度。

マツカと呼ばれた、時折ハーレイが淹れてくれたハーブティのような色素の薄い
髪と瞳の青年が食事を運んでくる時。

それと、キースが自分を嬲りに来る時。

それだけ―――――





それ以外は――――――無音だ。
話し声はおろか機械音も、誰かが通路を歩く足音も聞こえてこない。
じっとしていると、聞こえてくるのは規則的に動く自分の心臓の音だけ。

ベッドの上で膝を抱えて蹲るブルーは、俯いてため息を付く。

こんなことは初めてだった。
生まれてから14年間の記憶は失われて久しいが、それ以後の300年間にも及ぶ
短くは無い時間の中でも経験が無い。





完全なる静寂と、絶対の孤独。





一瞬の時間にも、とてつもなく長くも感じた15年の眠りの間でさえ、
ブルーは孤独ではなかった。
周囲には常にざわめきがあり、自分を気遣う思念を感じる事が出来た。

それ以前の、ソルジャーとして過ごした時間。
戦闘後や仲間との諍い、それに、避けようの無い仲間の死……
時には1人になりたいと考える事も当然あった。

事実ブルーの部屋、青の間にはその為の仕掛けも存在した。

外界と室内を完全に遮断する。
同時にそれは、"万が一の時"部屋内部を封じ込めるという役割も有していたのだが。

ブルーは幾度もその仕掛けを用いた。

考えを纏める時。
瞑想する時。
祈る時。

病気の時にも。



そして、"ハーレイとの時間"の時も。



そんな時でさえ、仕掛けの外側には気遣う気配があった。
エラに、ヒルマン……ブラウも少なくなかった。
ゼルはちょっと遠くから"見ていた"ようだし、リオやシドな
ど若いミュウの時もあった。
もっとも、感じられた気配の大部分はハーレイだったのだけれど。





膝を抱えたまま、ブルーは目を閉じる。
浮かぶのは、自分の右目で見た最後の光景。

メギド。
キース。
煙。
銃弾。

蒼い閃光。

自分のリミッターを外し、極限までサイオンを放出した事は
後悔していない。
そうしなければ破壊出来なかったから。
あの悪魔を。
あの―――存在してはならないものを。



けれど。
この喪失感は………

サイオンを失ったこと。
仲間から離れ、独りで在ること。

それがこんなにも辛い事だったなんて………!



ブルーの唇から声が漏れる。
堪えようと唇を噛むが、溢れ出るものを抑える事が出来ない。





寂しい寂しい寂しい。





ブルーが決して言葉にしない思いが、熱く熱を孕んで込み上げる。
涙と嗚咽という姿をとって。



改めて思い知らされる。
自分はソルジャーとして在らされたのだと。
護ろうとしていた者たちに支えられていたのだと。
包まれていたのだと。

どんな時にも決して独りではなかったのだと。



孤独を思い知らさせる。
これが、自分の耳を聞こえるようにさせたキースの狙いである事も
解っていたけれど。
ブルーは、顔を上げることが出来なかった。














響く微かな電子音。
鍵が開いたのだ。
もう今日の食事は全て済んでいる。


あとは―――――


ブルーは顔を上げた。
その瞬間を待ちわびる自分が居た。














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