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序章


雪が舞い散る。
すべてを管理されたプラント内において、降雪という現象はクリスマス前から年明けのみ見られるものだ。

レイの見舞いを終えたタリアは、出入り口で待っているはずの姿を病院前の小さな庭で発見した。
黒髪のその男は空を見上げていた。ベージュのコートのポケットに左手を入れ、右の手のひらは空に向けている。淡く微笑んでいるようだ。

(ギルバート?!)
彼も同じように雪を手のひらで受け止めていた。
タリアに見られていた事に気がついたギルバート・デュランダルは照れ笑いしながら何か言った。付き合う前の、まだお互いに大学生であった頃の記憶だ。
雪と戯れるデビッド・ホークとギルバート・デュランダルがよく似ている事に気がついたタリアは、はっとした。顔形ではなく、ちょっとした仕草が酷似している。
先週着任したばかりの部下で、自分の監視を主任務とする男なのに一挙手一投足が気になる。その理由がこれだったのか、と。



あのギルバート・デュランダル前評議会委員長の"公認の愛人"、共に独り身であったにも関わらずそう呼ばれ、また今でもそう認識されているタリアは、かの戦いの後、軟禁に近い扱いを受けてきた。
レイによって強引に引き立てられるようにメサイヤを脱出したが、右腕を失った。
長期入院を余儀なくされ、その間ミネルバのクルーはおろか、家族親族の見舞いですら数えられる程度しか許可されなかった。
退院後は独断で艦を離れた事に対する聴聞を経て降格処分を受けた。副官のアーサーを含めた他のクルーには重い処分が下されない事を見届けてから、タリアは除隊を申請した。
数日後。
下された辞令には『除隊を許可する』の文字に代わり『装備部装備課第3室長を命ずる』という文言。地上勤務の閑職だった。



それから2年、タリア・グラディスの除隊申請が認められる兆しはない。


(2005/12/18)






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