彼を、見た。 何度も、何度も。 あの狭い"水槽"で揺蕩うというより 泳ぐという言葉が相応しいくらい闊達に動いていた。 その姿は美しくて。 俺は眩しいものでも見るように、目を細めた。
―― my better sweet 02 ―― どれくらい時間がたったのだろう。 玩具にされる身体から意識を飛ばして、ひたすら天井を眺めていたブルーは気がついた。 自分が独りな事に。 頭を回らす。 途端に泣き喚く声と、笑い声、それに囃し立てる声が耳に飛び込んできた。 元老たちが、ジョミーに群がっている。 「あ…がぁっ!ぐっぇえぅ…!!」 「ほうら、入ったぞ」 「何だ、抱きついたりして。甘えん坊だな、小僧!」 椅子に座った太鼓腹の男に無理やり跨らされ、力なく縋りつくジョミー。 割られた双丘の間に、赤黒いものが覗く。 男の太い幹を伝って、鮮血が零れていた。 太陽の光のような髪は汚れ、その輝きを失っている。 涙と、涎と、男たちの精だ。 白いものは顔や身体にもこびりついていた。 身体を揺すられる度に上がる悲鳴に、男たちは笑いあう。 そんなにいいのか! 男が好きか! だったらもう一本やるぞ? 咥えてみるか! ひたすら顔を振り、痛みで言葉にならない声を上げ続けるジョミーを貫く男も、 身体を撫で回したり、己の精を細い白い身体に塗り伸ばす者も皆、笑っている。 酷く愉しそうに。 そんな光景にブルーは身体が震えた。 恐怖などではない。 腹の底から込み上げて来るものは、怒り。 どす黒い殺意を伴って、それは全身を駆け巡った。 力の入らない足を引き摺り、這い擦ってジョミーの許ににじり寄る。 その背中を、エドワードが踏みつけた。 「何処へ行く…?」 体重を掛けられ前に進むことの叶わなくなったブルーは顔だけを捩り、睨み付ける。 見上げる瞳は、今にも炎を吹き出しそうに赤い。 「ほう…流石だな。いい目をする」 嬉しそうなエドワードは顎をしゃくり、ジョミーを見るように促した。 見てみろ。 あっちはもう焦点も合ってない。 若いからか。 まだまだだな。 再び射るような視線を向けるブルーに言った。 助けたくは無いか…? あの可哀想な少年を。 貴様があまりに反応が無いから、だぞ。 あの少年が1人嬲られているのは。 お前のように声も立てず、泣きもしなければ、愉しかろうはずも無いだろう…? 「くああああああ…ぁ………!」 絹を裂くような細く高い悲鳴を残して、ジョミーが崩れ落ちる。 意識を失ったらしい。 元老の1人が、エドワードを呼んだ。 「もう一度、起こせ」 「わしも、まだだ!」 別の男も声を上げる。 応えたエドワードは、手の中の遠隔装置をひらめかす。 それが何であるかを知るブルーが息を呑んだ。 その目の前で、スイッチを押した。 首輪が光り、ジョミーの身体が跳ねる。 しかし、覚醒した様子は無い。 ぐったりとしたまま、動かない。 「もっと強い電流を流さんか!」 エドワードは足下に視線を落とした。 どうする? グレイの目は細められ、薄い唇も弧を描いている。 ブルーは小さく、だがしっかりと頷いた。 エドワードは満足げに笑った。 「こちらも、まだ楽しめそうですよ」 身体を折り曲げ、銀糸を掴むとブルーの細い身体を乱暴に起こした。 テーブルまで引き摺っていき、天板に上半身を投げ飛ばす。 打ち付けられた痛みに顔を歪めたブルーの背に圧し掛かり、囁いた。 おまえ、初めてじゃないだろう? ここも……感じるな…。 細い指を1本、ブルーの鬱血した蕾に侵入させる。 くいっと曲げ、入り口付近を中からなぞった。 「―――ぅくっ!」 浅く息を吐き裂傷の痛みと不快感に耐えて更に歪んだ顔に、言葉を続ける。 あまり裂けていない。 あれだけ遠慮なく犯されたのにな。 力を抜くタイミングを身体が覚えていたか…? ぐいっと奥に突き入れ、かき回した。 白い背中が震え、瞬間的に汗ばむ。 「…あ!…はっ…ぅ…っ!」 声を殺すな。 感じたままを顔に出せ。 そうしないと、元老の目がお前に向かないぞ。 いいのか…? 「それはもういいっ!この小僧だっ、早くしろ!」 イラついた声はジョミーを抱き起こそうとする男のもので。 ブルーは振り返り、ぎっとエドワードを睨んだ。 だが、すぐに視線を逸らすときつく眼を瞑る。 きぃ…。 エドワードの目の前で、テーブルを爪で掻く様にこぶしが握られた。 乱れた銀糸が2、3度振られる。 そして―――。 「…ぁ…ああ…ん…、はぁ…あっ…」 艶のある声と共に、テーブルから上がったブルーの顔は赤く上気していた。 いい子だ。 エドワードは一気に指を3本に増やした。 それに合わせて、嬌声も大きくなる。 「んは…ぅあ……あ…ひぅ……」 ブルーの中に注ぎ込まれた白濁が、エドワードの長い指によって音を立てる。 次第に大きく響く水音と、上がる声の艶やかさに元老たちが近寄り始めた。 ジョミーは打ち捨てられ、床に転がっている。 それを認めたブルーは胸を逸らせた。 欲情した己の顔を高く掲げる。 開いた唇から零れる唾液と、それを掬い上げんと伸ばした赤い舌が、彼らに見えるように。 「気持ち…良さそうだな…、ええ?」 「ん…ん…」 ブルーは頷いて見せた。 次の瞬間、身体が跳ねる。 エドワードの指が、もっとも敏感な部分を嬲ったのだ。 テーブルの下で白濁が飛んだ。 「ぁああああっ!」 「おお。尻だけでイくのか!」 「とんだ淫乱だ!」 エドワードはブルー自身から滴る液体を指で掬うと、赤い瞳の前に差し出した。 意図を察知したブルーはそれを舐め取る。 それだけではない。 自ら咥え、舌を絡めた。 「こっちでも愉しめそうだ」 1人がエドワードを押し退け、ブルーを仰向けにさせた。 テーブルに抱え上げるとそのまま圧し掛かる。 分厚い唇で吸われれば、ブルーは口を開いて応えた。 「お待ち下さい」 「邪魔をするなっ」 「いえ。これではあまりに代わり映えしない。すぐに飽きてしまいますよ」 やんわりとだが、否の返事をさせない。 彼らの身分を考えればかなり無礼な物言いなのだが男たちは従った。 言われるがままに衛士たちが並べた椅子に腰掛ける。 皆全裸なのに、誰一人下腹部を隠す者も無い。 異様な光景が広がる。 彼らにとって、自分たち以外は人間ではなかった。 だから、羞恥もない。 犬や猫に裸を見られているのと同じなのだろう。 醜怪な身体を晒す元老たちを見てエドワードは「馬鹿が」と吐き捨てた。 それは勿論口の中だけで、当の本人たちには届かない。 口元の笑みを絶やさず、ブルーに言った。 「ご奉仕しろ」 無表情のブルーはテーブルに手を付いて身体を起こすと、床に素足を下ろす。 体重を掛けた膝が、がくんと崩れた。 床に両手両膝を付いて荒い息を吐く。 達した所為もあるのだろうが、力が入らなかった。 「仕方が無い。レベルを下げます」 折れそうに細い首に巻かれた銀の首輪が僅かに光った。 全身に纏わり付く、見えない鎖がいくらか軽くなったようだ。 息を整え、ブルーは立ち上がった。 幾度もふら付きながら、車座になった元老たちの中に入る。 うち一人の足の間に跪き、太股に手を置く。 躊躇うことなく股間に顔を埋めた。 幹の部分に手を沿え、先端に一つ口付け、含む。 舌でぐるりと窪みをなぞると口を離し、まだ半勃ちのものを満遍なく唾液で濡らしていく。 横に加えてスライドさせたかと思うと、舌を出して犬のように舐め上げた。 鼻でしか呼吸出来ない荒い息遣いの合間に、鼻から抜ける声が混じる。 ブルーは完全に勃ち上がったものをぐいと持ち上げると、幹の下に顔を近づけた。 大きく口を開け、だらしなく下がったものを咥える。 音を立ててしゃぶる様に、見下ろしていた男が唾を飲み込んだ。 「…すごい…ぞ…」 うしろの窄まりの際まで舌を這わせると身体を直し、ブルーは本格的に口淫を始める。 先端から飲み込むと、舌や唇だけでなく頬の内側や上顎まで使って、全身を動かして 擦り上げていく。 程なく、男が低く呻いた。 ぶるっと身体を震わせ吐き出したものを、ブルーは嚥下した。 ささやかな咽喉仏がこくっと動く。 「ぅ…はぁ…」 ブルーは大きく息を吸った。 だがまだ終わりではない。 隣の男の前に進む。 既にはち切れんばかりに勃っているものに、同じように舌を這わせ始めた。 一巡する頃にはブルーの息は上がり、汗が滴っていた。 口だけではない、長い幹を全身を使って刺激し吐精させる為、身体が悲鳴を上げている。 食べ物ではないものを大量に飲み込んで、気持ちも悪かった。 肩で息をするブルーに容赦ない声が掛けられる。 「次はどう致しましょうか?」 「もう、入れたいもんだな」 「具合もいいんだろう?」 あの金髪ほど硬くはありませんが、よく締まりますよ。 エドワードの言葉に、一同の相好が崩れる。 それは決してにこやかなものではない。 獲物を前にして、舌なめずりする獣の顔だ。 「その前に一度"掃除"を致しましょう」 「なら、我々は休憩をしようではないか」 「次に備えてな!」 立ち上がり始めた男たちに、エドワードは告げた。 「それも良いでしょうか、こちらも中々のものですよ」 「"掃除"するのだろう?」 「我々にトイレまで付いてこいとでも言うのかね!」 「冗談ではない」 歩き出した弛んだ背中に尚も声を掛ける。 「これを使います」 煩げに振り返った男たちの足が止まる。 ほお…。 感嘆したように声を上げるものまであった。 「こいつを、吊るすのか?」 「ええ」 「わしは汚いものは見たくないぞ?」 「ご安心を。そちらの方は既に済ませておりますから。出るものは白い液体だけですよ」 連れてくる前に、念入りに排泄させました。 腹を押さえて、ヒィヒィ鳴いておりましたよ。 エドワードの台詞にどっと笑い声が起こった。 それをブルーは静かに訊いてた。 こいつらは、人間じゃない。 過度に甘やかされ、特権階級に胡坐を掻いた化け物。 人間じゃない。 人間じゃない。 人間じゃない。 自分に言い聞かせるように、何度も繰り返すけれど。 けれど、湧き上がる怒りと軽蔑は人類そのものに向いてしまう。 ピクリとも動かないジョミーは、床に転がされたままで。 ブルーは頭を一つ振る。 諦めるな。 まだ、希望はある。 今はまだ、それは遠いけれど。 到るまでには苦しい、きつい坂道を登らなくてはならないようなこともあるだろうけれど。 僕たちには上るための足がある。 まだ、翼はもがれていないのだ。 諦めるな。 自らを鼓舞するように繰り返したブルーの視線の先には、けれど、それを打ち砕かんとするものが 用意されていく。 蔦のような曲線を描き、床から立ち上る細い金属は、最上部にフックがあった。 その脇に一抱えもある白い盆のようなものが二つ置かれる。 一つは空で、もう一つからは湯気が立ち上る。 その手前には、ガラス製の大人の腕ほどもある―――注射器。 ああ……。 ブルーは声を漏らした。
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