あの…いたいけな生き物に全てを背負わせるのですか…? 純粋で、子供のような男に、何故…? 人間はこんなにも穢れていて、 混沌としていて、 本人すら解らない闇を抱えているのに…。 その過去も、現在も、まだ見えぬ未来でさえも――― その全てを背負うのが、どうしてあれなのです? 何故、彼を選んだのですか………マザー……
「そいつらを俺に預けてくれないか?」 モニター越しの男の提案に、キース・アニアンは怪訝そうな顔をした。 「貴様に、何の用がある?」 「捕らえたミュウの頭2匹を俺に貸してくれ」 男は同じ内容を繰り返す。 キースの眼がすうっと細くなった。 この男の担当を考えても、必要性を認められない。 改めて問うた。 「何故だ?」 「お前を元帥にするための足掛かりにする」 「―――なんだと?」 「映像で見る限り、極上の餌だろう?あの低脳どもの前にぶら下げるには」 この男のもう一つの役割に思い至って、キースの顔が歪む。 「お前の所ではもう大した用もないのだろう?だったら―――」 何をする、とは聞けなかった。 答えを聞きたくない。 あの、おぞましい行為を―――――。 二人に群がる男たちを脳裏に浮かべかけ、頭を振った。 「………好きにしろ、KM」 モニターの中の男の口角がきゅーっと上がる。 ―――アイサー。 敬礼した男の映像は、キースにまるで鏡でも見ているような錯覚を起こさせた。 いや、そう思わせているのだ。 この男はわざと自分の仕草を真似る。 自分が嫌悪する感情を抱くことを知っていて、あえて…。 この男、エドワード・ケイエスといい、首都星ノアの更生施設の所長という肩書きを持つ。 深いグレーの瞳に縁の無いクラシカルな眼鏡をかけ、伸ばしたのアッシュグレイの髪を後ろで緩く束ねていた。 一見研究者風だが、体格は軍人であるキースと全く同じ。 身長や体重はミリ単位、グラム単位ですら変わる事がない。 つまり、実戦に耐える筋肉を服の下に隠しているのだ。 自分と同質の声を持ち、瞳や髪の色は異なるが顔の造作は…キースには全く同じに見えた。 しかも、名前まで…。 エドワードというのは本当の名ではない。 それを知る者はキース・アニアン以外には、ラボの研究者とマザーのみ。 これの名は―――キース・アニアン。 自分と同じ。 ただ、この男にはKM-tp0249.という枝番号がつく。 自分には無い、番号。 マザーは『あれは実験体なのだ』と言った。 ならば―――ならばこの自分は…? キースは自嘲気味に笑う。 『お前とは違う。完全体のお前とは』 その言葉に縋った自分を。 そう…あれもマザーイライザの申し子、しかも自分と同時期に作られた、数少ない同属。 兄弟とでも呼べばいいのか。 無理だ、と唇を噛む。 あの声も姿も見たくない。 目にする、耳にする度に、神経を直接掻き毟られるような不快感に襲われるのだから。 この男の全てが気に触る。 声を聞くことさえ厭わしかった。 くそっ。 低く呟いて、キースはコンソールを叩いた。 ブリッジを呼び出す。 「首都星、元老府に奴らを下ろせ」 そう命じて、返事も聞かず回線を切った。 デスクの上で手を組み、額を乗せると深いため息をつく。 だが、すぐに手をひらめかせ別の部屋に音声回線をつないだ。 マツカ、コーヒーを持って来い。 その声はいつものキース・アニアンのものであった。 ―― my better sweet 01 ―― 首都星ノア。 その中心部、人類の意思決定機関の元老府の一室。 元老の殆どが集まる部屋は、目を引く巨大なテーブルと丸いスクリーン以外は 存外質素であった。 色合いも銀の鈍色が基調となっており、派手さは無い。 実用的とも言えなくは無いが―――――。 味気ないものだ。 そう呟いたエドワードに続き、捕虜が運び込まれる。 白い服を着せられた少年が二人。 粗末な衣装は元老たちには見慣れないものだった。 目を引くのは、そこから覗く細い四肢。 少年特有の、性差を感じさせない中性的な真っ白い手足は力を失い、 ぐったりとしていた。 両脇を衛士に支えられ、何とか歩いている。 屈強な体躯を持つ彼らとの対比が、二人を更に弱弱しく見せていた。 エドワードが手をひらりと動かすと、衛士たちはテーブルに付く元老たちの前に二人を投げ出す。 鈍色の床に倒れ込んだまま、呻く二人は身体を起こすことすらままならないようだった。 床を掻く様に僅かに手足を動かす。 「これが、そうかね?」 「はい。ミュウどもの長です」 「サイオンは?」 「薬物投与と首の抑制装置で完全に封じてあります」 ご安心を。 エドワードはうっそりと笑って見せる。 その言葉を聞いて、席を立った元老たちが二人を囲んだ。 「ほお…、これが」 「触っても大丈夫かね?」 「勿論。実証済みです」 「ということは、"初物"ではないのか。つまらんな」 そう呟いた、でっぷりとした初老の元老にエドワードは向き直り、胸に手を当てると 恭しく頭を下げた。 「偉大なる元老の方々を危険な目に合わせるわけには参りませんから。  "事"に従事した兵士の幾人かは命を落としております」 「こやつらを犯している最中にか?」 「はい。あまり投与量を多くして反応が無くてもつまらないでしょうから、  その適量を判断するために色々試しましたので」 「ふん。では、すっかり慣れておるじゃないか」 「いいえ。必要最低の回数に致しました。まだ痛がり良く泣きます。  それに拡張等の調教も施してはおりません。愉しんで頂けると思いますが…」 1人がエドワードに近寄り、腕を伸ばして顎を掴む。顔を下げさせると、挑むように言った。 「貴様も…愉しんだのかな?」 "調教師"殿も。 笑ったまま、エドワードは答えない。 「まあいい」 尖った顎を放るように掴んだ手を離すとエドワードに興味を失った男は、 服を脱がし捕虜を嬲りだした他の元老に混じるため踵を返した。 細い身体に覆い被さり始めた元老たちに、エドワードが言葉を投げる。 「そのミュウ共はサイオン抑制薬物のために言葉は失っております。許しを請い、  慈悲を願わせる事は叶いませんが、いい声で啼きますし、何より素晴らしい身体です。  ご堪能下さい」 可愛がって貰うがいい、ミュウ。 エドワードは心の中で、そう呟いた。 力なく、それでも逃れようと動くブルーの細い足首を一人が掴んだ。 ぐいと広げる。 別の男は何の躊躇いもなく、その最奥の窄まりに太い指を突っ込んだ。 「ぐっ…ぁが……っ!」 「ほう。確かにきついな―――ほら、力を抜かんか!」 大きな厚い手で、ぴしゃりと尻を叩く。 ブルーは身を捩って逃れようとしているようだが、薬の所為なのだろう、満足に動くことが出来ない。 男の指の蹂躙を為すがまま受けるしかなかった。 唇を噛んで苦痛から生まれる声を殺しながら、何とか頭を巡らす。 右上、1メートルほど離れた場所でジョミーも同じような陵辱を受けていた。 「ひあ、や…あう…ぐ…っ、ああ!」 激しく頭を振り、悲鳴を上げている。 その頭を捕らえて屈みこんだ男が、金糸をぎゅっと鷲掴みにすると股間をジョミーの 顔に押し付けた。 「咥えろ」 ジョミーは更に激しく顔を振る。 ブルーは自身の痛みも忘れて、にじり寄ろうと身体を起こした。 上半身を上げたため少し浮いた頭が、床に押し付けられる。 「お前も、だ」 頭を掴まれ、グロテスクなものを唇に押し付けられる。 ブルーもジョミーと同じように顔を逸らした。 逃げる顎を掴んで、唇を力ずくで開こうとした男の肉の乗った厚い肩に白い手が置かれる。 「お止しになった方がいいですよ。当たり前ですが、歯がありますから」 ジョミーの口に突っ込もうと躍起になっている男にも、エドワードは声をかけた。 「まだ調教していないと申し上げたでしょう?躾がなっておりませんから  噛み付きますよ」 二人は不満そうに「ふん」と鼻を鳴らすと、「何とかならんのか!」と荒げた声を上げた。 「…どうしても奉仕させたいのですか?」 「口を犯せなければ、愉しみが半減だ」 「そうとも!こいつらは女ではないのだからな」 「ふ…。仕方がありませんね」 エドワードは、後から入室してきた衛士が運んできたワゴンから何かを摘むと、 組み敷かれているジョミーに近づいた。 長い指で両顎の間接を挟み、簡単に口を開けさせると手にしていたものを嵌め込む。 「ぅぐっ!―――おぁあっ!ああおっ!!」 開口具だった。 医療用ではなく特殊なものなのか、シリコンのようなものですっぽり前歯を包み込んでしまう。 「あがっ!んあっ!」 ジョミーが噛み締めるといささか形が変わるが、潰れてしまうことはない。 これでどうですか?と視線で問い、くるりと背を向けるとブルーにも同じ事を施した。 男たちは目を合わせるとにやりと笑い合い、ほぼ同時に猛る己を突っ込んだ。 いきなり咽喉の奥を突かれ、ブルーとジョミーは苦しげな声を上げる。 両手は別な男に掴まれ、足も同じように強制的に広げられ、秘孔を嬲る指の数は増えていた。 胸も股間も他の男の手が這い回っている。 苦痛と嫌悪感に苛まれながら、二人は身を捩ることすら満足に出来ないでいた。
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