03








ちゃり…。
ちゃりっ、ちゃり…。

音を立てているのは、ブルーの首と両手首を繋ぐ鎖。
長さは30センチほどしかないのに、彼は必死で下へ向かわせようとしている。

「ハー…レイ…っ…!」

切なげな声で私を呼ぶのも何度目か…。
数え切れない回数、それを無視した。

何とかして触れようと身体を丸めてしまうブルーの細い肩を、私は押さえる。
両肩をベッドに押し付け、縮こまってしまう身体を開いた。

ブルーが必死に手を伸ばそうとしているのは、先走りを零し濡れそそり勃つ自身。
決定的な刺激を求めて、震えている。

胸だけを弄った。
舌で舐め、唇で吸い、歯を立てる。
そればかりを繰り返し、もうどれだけ経つのか。
鮮やかな二つの朱の突起は、尖りきり私の唾液に塗れ光っていた。

「お願いだ…から…っ!触って…!!」

ハーレイっ!
下ろせない手を身体を捩り、足を擦り合わせる。
だが、すっかり天を向いた自身に刺激を与えることは出来ない。
ブルーは悶えて、身体を震わせた。

「どこに…ですか…」

私はその身体に覆い被さる。
答えんと開いた唇を塞ぐ為に。

「…んっ!」

両の手を再び胸に這わせた。
汗ばみ、熱が上がったままの肌を滑らせ、辿り着いたのはつい先ほどまで嬲っていた場所。
先端を抓み、強く捩じった。
ブルーはびくびくと跳ね、背を反らせる。
望まない快楽をやり過ごそうと頭を激しく振った。
私から逃れた唇が大きく開く。
悲鳴が上がった。

「も…いや…っ!!…触らないでっ!」
「どちらなのです…?」

触って欲しいんですか、それとも止めますか…。
腕を頭の上に上げシーツに縫いとめると、暴れる頭を押さえ頬に手を当てる。
濡れる肌に唇を触れさせながら、そう囁いた。

「だからっ、こっちに…!」

ブルーは腰を上げた。
小さな茎が震える。
私は見えないふりをして、指の動きを再開させた。

「や…っ、ちが…っ!」

ブルーの腰がベッドに落ちる。
その腰が横向きに角度を変えた。

「こんなの…いや…だ…っ…ぁ…ああああ…っ」

はち切れそうな茎を私の腰に擦り付ける。
自ら腰を振って…。
粘着質の淫らな音が、下から聴こえてくる。
くちゃ、くちゃ…。
その音は次第に大きく忙しなくなり、そうしてとうとうブルーの身体が強張った。

「はぁう…あああああっ!」

見開いた眼から涙が溢れる。
幾度も擦らないで、ブルーは精を吐き出した。

その後、シャワールームに連れて行き、手の拘束は解かないまま獣のように犯した。
壁に手を付かせ、立ったまま後ろから。

「あんな…犬みたいな真似をした淫乱なあなたには、これがお似合いだ」

自分で溢れさせた精液を掬って蠢く秘所に塗りつける。
それをゼリー替わりにして、貫いた。
もう許してと、泣きながら乞わせるまで、私はそれを続けた。

後始末を済ませ綺麗にアンダーを着せてベッドに横たえると、ブルーはすぐに眠ってしまった。
その寝顔を眺めていると、何故…という想いが蘇ってくる。

イかせるのは、こんなにも容易いのに。
苦痛と暴言と蔑む瞳さえあれば、ブルーはあっという間に硬くし、果てるのに。

頬をなぜる。

何故…。
どうして…。
それらを伴わなければならないんですか、ブルー…。

私がどれほど辛いか―――あなたは分かっていらっしゃるのですか…。












初めてブルーと交わった翌日、私は再び彼の部屋を訪ねた。
決して望んだ訳ではない性交だったけれど、だからこそ、そのままにしておけなかった。

私は、ブルーを愛していたから―――。
昨日の夜、彼の熱さを感じながら、初めてそれに気がついた。

あんな真似をされても、その想いは変わらなかった。
むしろ、強まったと言えるかもしれない。
彼が他の誰かに抱かれるくらいなら、自分が―――。
そう……方向は歪んでしまったけれど。



扉の前に立っただけで、それは開いた。
ベッドの傍らに立っていたブルーが、口を開く。

「また、相手してくれるのかい…?」
「…………あなたがそれをお望みなら」
「―――!」

驚いたブルーに私は言う。

「あなたが望むなら、わたくしは何でも致しましょう。あなたが本当に望むなら…」
「……ハーレイ…」
「ああいった嗜好がある者がいることは知っています。ですが…」

あなたは本当にそうなんですか?
心の底から、あんな行為を望んでいる?
本当に?

「……………」

畳み掛けるような私の問いに、ブルーは答えない。
すっと、床に視線を落とす。

「普通の、ノーマルな――というのも同性同士で可笑しいですが――セックスを
 試したことは?」
「……………」

やはりブルーは答えない。
私は自分の想いを口にした。

「私はあなたを愛している」
「―――っ!?」
「愛しています、ブルー」

真っ直ぐに正面から彼を見て、私は言った。

私で…試してみませんか?
あなたを、抱かせて下さい。
愛しいあなたを。





私は身体を寄せ、腕を回し抱き寄せた。
頬に手を沿え上向かせると、キスを落とす。
自分からする、記憶にある限り初めての行為に、震えた。

訳も無く怖いと思った。
だが同時に、心地良さと気持ち良さと、文字通り天にも昇るという気持ちを味わった。

上がる熱のまま彼を押し倒し、覆い被さる。
貪るように唇を吸い、舌を入れた。
ぎこちない手つきで愛撫し、何度も迷いながら服を捲り、胸を露にする。
現れた真っ白い肌と鳶色の二つの飾りに、眩暈がした。

誰に教えられた筈も無いのに、それを口に含む。
吸い、舌先で転がし、舐めた。
硬く尖ってくるものに満足し、再び唇を重ねる。
深く深く味わって、顔を上げた。

そこには、熱の欠片も無い、紫の瞳があった。
独り熱に浮かされた私を映して。

「……ブルー…」
「すまない、ハーレイ…」

はやり、駄目だ。
そう云いながら、私の手を己の足の間にいざなう。
そこは柔らかいまま、体積を増してさえいない。

「すまない…」

ブルーは謝罪を繰り返した。
認めたくない私は、猛烈な勢いで彼の下穿きを剥ぎ取る。
足を開かせると、萎んだままのブルーにむしゃぶりついた。
懸命に舌を動かし、擦り、吸い上げさえした。



しかし―――それは勃ち上がることは無かった。



身体を離しベッドに腰を落とした私に、同じように起き上がったブルーが
私の顔を見て息を呑む。
もう一度同じ言葉を口にした。
零れた涙を拭い、私は言葉を搾り出す。

「…謝らないで、下さい…」
「君が悪いんじゃない。僕が…いけないんだ…」
「…………」
「決して君が嫌いなわけじゃない。でも…駄目なんだよ」

僕の身体は……。
そう言って自嘲気味に笑った、その顔に―――私の中で何かが弾けた。

彼の手首を掴み、押し倒す。
ベッドに背中を打ちつけ、痛みで顔を歪めるブルーのシャツを乱暴にたくし上げた。

白い肌に赤い爪痕。
自分が与えた擦過傷にも興奮を覚えた。

頭を抜き、ぐちゃぐちゃにしたシャツで手首を拘束する。
先ほどは壊れ物のように扱った、胸の突起を抓んで捩じった。

「―――!?ハーレイ?!止めろっ」
「止めろですって…?」

鼻で笑い、彼の身体の変化をわざと口にする。

「もう、勃ってるじゃないですか?先走りまで溢れさせて…!」

加減無く掴んで、扱いた。

「ああっ!」
「善いんですか?」
「ちが…っ」
「なんて人だ、あなたは―――!」

私はブルーの膝裏を掴んで、胸に押しつける。
彼は抵抗するが私を止めることなど出来ない。
サイオンさえ使わなければ、力はこちらが上なのだから。

そう―――彼はサイオンを使わなかった。

晒された秘所が、赤く色づいて蠢く。
誘っているように、私には見えた。

誘われるまま、劣情のまま、貫いた。
高く一声啼いて、ブルーは吐精したのだった。









それから、ずっとずっと続いている。
呼ばれれば訪れ、抱いた。
縛り、嬲り、時には叩き、望む言葉を吐き、蔑む。

ずっとそれを繰り返してきた。
長い間、ずっと。

身を切られるように辛いけれど、でも、彼は私のものだった。
私一人のブルーだった。
そんな時間が永遠に続くのだと思っていた。



彼が現れるまでは―――。





















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