02








「どうして……入ってきた……」

肌に男たちを張り付かせたまま、ブルーは再度言った。
私は抑揚のない声で、答える。
白痴な者ででもあるかのように。

「船体状況で…どうしても早急に…お知らせしなければならない…ことがございまして……」

…そう。
ブルーが応えた途端、群がっていた者たちは崩れ落ちた。
ぐったりした男たちをかき分けてベッドから下りると、ガウンを羽織る。

続けて。
そう言って私に背中を向けた。

私は、やはり感情が欠落した声で促された内容を話し出した。
あんなに混乱していたのに、ゼルからの報告を簡潔に伝える事が出来る自分が信じられない。
黙って聞いていたブルーは、実に冷静に判断を下し私に指示を出した。

そんな彼を目の当たりにして、目撃したにも関わらずその事を拒否したくて堪らない私の頭は、
襲っていた者がボンヤリしていたなど自分の見間違いかと思い始めていた。
しかし、ベッドには横たわる3人の身体がある。
一体、何が起こったのだ……。
混乱したまま、私は頭を下げた。

「では、ゼルに伝えます」
「…ああ」

夜分にすみませんでした。
それで退室すれば良かったのだ。
そうすれば…………。

だが、私は一歩踏み出してしまった。
内から湧き上がる"それでいいのか""このままにしてしまって良いのか"という声に従って。

「ブルー、何があったのです?」

本当のことを知るのが、怖かったくせに。
尊敬し、敬愛する彼があんな………。
間違いであって欲しくて…。
怖くて怖くて堪らなかった筈なのに、歩み出していた。
踏み出すべきではない場所へと。

「問題があるなら、話して下さい」
「……君には関係ない」

躙り寄る私から逃げるように、彼はベッドに進む。
私は強引に腕を取り、振り向かせた。

それが間違っていたのだ。
今なら解る。
彼を理解した、今なら。
この後、ブルーにあんな行動を取らせてしまったのは、この時の私だったのだ。

ガウンからのぞいた華奢な襟元の赤い斑が目に入って―――――思い出してしまった。
部屋に入った瞬間目にした、淫らに身体を紅潮させ、喘ぎ快楽に酔った彼の姿を。



そして―――――軽蔑したのだ。
しかもそれを彼に、ブルーに気づかれてしまったのだ。



ブルーが"行為"を求めて人を呼ぶのは、決して頻繁ではない。
己の中の、どうしようもない感情が溢れ出てしまった時だけ。
それがどれほど浅ましい姿かを知っている彼は、ギリギリ…いや限界を過ぎても我慢しようとする。

だから。
それが決壊してしまった時は、本当にもう、駄目な時なのだ。



なのに、その行為を中断させた上に更に堪えようとしていた彼に、私は………煽る真似をした。



君が悪いんだ、ハーレイ…君が…。
そう呟いたブルーが、ぐっと身体を寄せる。

「僕の……邪魔したんだ、付き合って貰うよ」
「―――!」

両手で頬を挟まれ、口づけられる。
思わず、私は顔を逸らした。
バランスを崩した私に、ブルーがのし掛かる。
ベッドに押し倒された私に彼は跨った。
乱暴に下履きを取り去り、剥き出しになった私の中心を咥える。

「…ブルーっ…!」

生まれて初めて他人から与えられた刺激に、私自身は抗う間もなく瞬時に立ち上がってしまう。
腰から背骨を駆け上がった強い快感と、射精を望む身体に恐怖を感じた。

「…やめ…っ……―――!?」

ブルーを押し返そうとしたが、腕が上がらない。
腕だけじゃない。足も首も。全てが自分の意志では動かない。

これ…まさか、ブルーが…?
私の視線を受けて、ブルーは苦く笑った。

「君が…悪いんだ…」

全部。
ブルーが覆い被さってきた。
背を丸め、後孔に固くなった私を押し当てる。

「嫌だ…止め…下さい…っ!」
「…………………ぅ……ん…っ」

震え懇願する私を無視して、ブルーは腰を沈めた。
熱い体内に呑み込まれる感覚に、私は爆ぜた。

「―――ぅああっ!」
「んっ!ぁは…っ!!ぃ…ぅあああ…」

搾り取るかのように蠢く内壁に、私の中心はあっという間に硬度を取り戻してしまう。
身体を起こしたブルーは、腹部に手を突き激しく腰を上下した。
彼も同じように直ぐに白い精を吐き出す。

それを幾度繰り返したろう。
ついに意識を失ったブルーは、私の胸に崩れ落ちてきた。
軽くて薄くて、小さいとても小さい身体。
けれどそれは今、恐怖の対象でしかなかった。

ようやく身体を取り戻して、彼の身体の下から這い出す事が出来た私はがくがくと震えていた。
急いで服を着、ドアに向かう。

逃げるように。
逃れるために。

翌朝ブリッジで会った彼は、いつもと変わらなかった。
肩に力が入り、周りにバレる程緊張していた私が、拍子抜けするくらい普通だった。
そして、昨夜彼の部屋にいた者たちも―――――。

彼らは昨夜の記憶を無くしていた。














「ブルー……ブルー…」

白い身体を揺する。
このまま眠ってしまわれたら、明日の朝が大変だ。
外の部分の始末は出来るが、内部のものは私ではむつかしいから。
もう一度呼ぶと、ブルーの瞼がうっすらと開いた。

「……ぅ…ん……」
「眠ってしまわれては―――私が致しましょうか…?」
「…いや、いい…」

ブルーはゆっくり起き上がった。
ふらつきながらもバスルームに向かう。
その横顔は影を纏うものの、憑物が落ちたように穏やかだ。
つい先程までの様子が嘘のように。



鏡に映った姿は、本当に淫らだった。
紅潮したうなじ、その下の真っ白な胸には私が付けた吸い痕と噛み痕が散る。
それら痕よりも更に赤い2つの突起は、唾液にまみれ光っていた。
恥ずかしいげもなく大きく開いた太股にも幾つもの華が咲いて。
その中心の尖りはひっきりなしに先走りを溢れさせ、私の指にあわせて
びくんびくんと震える。
中指と人差し指を呑み込んだ秘所まではっきり見えた。
出し入れし、抉るように回転させる。
動かす度に彼の中が、ほんの少しだけ現れ、目に鮮やかな赤を晒した。
淫靡で美しい色を。

同じ色はそのずっと上にもあって、私の滾りに絡みつく。
真っ赤な唇と舌。
くぐもった声を漏らして、懸命に舐め銜えるブルーの両眼も同じ色に変わっていた。
汗ばむ額や頬に張り付く銀の髪が艶めかしくて―――――私は言ったのだ、彼を辱め貶める言葉を。





本当は、とても美しいと思っていたのに。
愛おしくて堪らなかったのに。

愛していたのに。
誰よりも。
ずっと、ずっと昔から。





嫌で嫌で、堪えられない程嫌な行為。
でも私はそれを繰り返す。
他の誰かに彼が抱かれる事はもっと嫌だったから。

だから、私はあの悪夢のようなその翌日の夜も、彼の部屋を訪ねた。
―――ブルーは、私を招き入れた。
















----------------------------------- 20071118