真影










――――目を覚ませ



何処か遠くから聴こえる声。
抑揚は無いが、投げやりで、蔑むような響きを持った下卑た男の声。



――――おい、ブルー!



ぴたぴたと頬を叩かれ、仕方なく瞼をこじ開ける。
自分のものなのに、それは酷く重い。

理由は左手首に巻かれた無機質な鋼の環だった。
サイオン抑制装置―――――ミュウを"檻"から出す時に、その力を押さえ込むための
機械だが、あまりの強力さに付けた者の意識を朦朧とさせる。
少し気の弱い者では、装着した瞬間気絶するような代物だった。

ブルーの細い手首にはその環の他にもう一つ、巻かれているものがあった。
天井から下げられた細く黒い拘束帯。
両の手を一つに括り、高く頭上に掲げさせている。

それ以外に身に着けるものの無い少年を。
全裸のブルーを。

「中々、好い声で啼くようになったじゃないか……」

頬を叩いたのは、うっすらと無精髭を生やした男だった。
確か40前だった筈だが、髭と疲れた表情の所為で実年齢よりもずっと年上に見える。
視界に入った、前を肌蹴たシャツの襟が薄汚れていた。

部屋にはこの男一人だけのようだ。
自分に群がった、他の男たちはもういなくなっていた。
その名残りでべたつく臀部が、冷たい。

ここはミュウを調べるための部屋。
実験対象を乗せる診察台のようなものと、数々の機器があるだけの、
窓もない無機質な空間だった。

霞がかかったようで形にならない思考が漂う頭で、ブルーは必死に意識にしがみつく。
まだだ……まだだ、もう少し―――――!
けれど、白銀の頭がふらり、ふらりと大きく揺れる。

「もう限界かぁ」

男は時計を見て言った。

「ひい、ふう、みい…と、わっかを着けてもう5時間か」

サイオン抑制装置の使用は2時間が限度と決められていた。
それを越えてしまうと、脳に重大なダメージを及ぼす虞があるからだ。
2時間で終わる実験ばかりでは無く改正の声も少なくないのだが、実際のところ
限度時間まで持つ者は殆どいないし、貴重なサンプルを少しでも長く使うためには
致し方ないと諦められていた。

ブルーは実験の名の下、この男を含めた6人の人間に4時間以上も
嬲られ続けていたのだった。

男は銀の髪を掴み顔を上げさせると、至近距離で怒鳴った。

「おまえが、このくらいで音を上げるような、そんな玉かぁ!」
「…………う――――」
「ああ?」
「………う…る……さい……」
「――!いいぞ!それでこそブルーだ!!」

嬉しそうに笑った男は、髪を掴んだまま乱暴に口付けた。
気が済むまで口内を舐り尽くす。
両手を掲げたまま台に馬乗りなっているブルーは抵抗する体力も無いのか、
されるがままだった。

「け、苦げえなあ。誰だ口ん中に出した奴は」

男は手の甲で口を拭うと、にやりと笑った。

「何だおまえ、素直に口開いてたのかよ?誰だか知らねえが、そいつの咥えさせられて
 終わるまで舐めてやってたのかぁ?よっぽど旨い'キャンディーバー'だったんだな」

ブルーはぎっと嘲り笑う男を睨んだ。

「それともアレか。あっちの良さに目覚めちまったとか。突っ込んで欲しくて欲しくて
 堪らなくて、自分から咥えたのか?そういや、いい声上げてたよなあ」

白銀の下、両眼が赤く燃え立つ―――――その瞬間、左手首から凄まじい電流が走った。
あまりの激痛に、台の上でブルーの細い身体が大きく跳ねる。
瞬間硬直した身体は次第に脱力し、赤い瞳は力を失って元の紫に戻った。

「ブルー、学習しろよ。次は無いぜ」

男は笑ってそう言った。

一度目は警告、二度目の警告は無い。
次に流れる電流は確実に心臓を止める。


これがある限り、僕たちは逃げられない。
この地獄の中で、繰り返される苦痛に耐えながら、遠くない死を待つのみ――――ー


男は台の上でがっくりと頭を垂れるブルーに満足すると、もう一度時計を見やった。
軽く舌打ちして呟いた。

「もう始業って奴も出てくるか。仕方ない」

天井から下がった拘束帯に手をやり、ブルーの身体を20センチほど浮き上がらせ
固定した。
大きく足を開いて台に跨っているため全体重が両手首にかかり、ブルーはまだ少年汚面差しを残す顔を顰める。
その空いた空間に、男が身体を滑り込ませた。

相対する形で向き合うと、抗う体力も残されていない細い身体の白い腹から胸、首、頬へと両手を這わせた。

胸の突起や、脇腹、うなじ等に触れる度、ブルーは身体を震わせた。
こんな状態でも快楽を拾う、己の身体のおぞましさに。

男はブルーの白い頬を挟み、先ほどと同じように口内を味わった。
乱暴な舌が歯列をなぞり、応えようとしない少年の舌を引きずり出そうと舐る。

「……ん…ふ……ふ………ん」

どちらのものとも分からないくぐもった声が漏れる。
二人の目は開いたまま、男は愉快そうに笑い、少年は睨み続けている。

不意に、ブルーの目が見開かれた。
あう、と声を上げる。

「つ!ああっ………!」
「これじゃ、入らんな」

いつの間にか男の右手がブルーの臀部を割り、中指を秘所に突き入れていた。
きつい締め付けと、乾きつつある他の男たちの精が入り込む指を妨害する。

「締りの良いのは大歓迎だが、このべたべたはいかんな」

まだ、ローションが必要とはな。
感心したようにいい、男は辺りを見回すがそれらしいものは無い。

諦めてブルーの双丘を掴み広げた。
固く締まったままの蕾に、己の昂ぶりを押し当てる。
ブルーは、次に訪れるであろう痛みに、ぎゅっと目を瞑った。

「…………あるじゃねえか」

男は侵入を止め、押し当てていたものを外した。
変わりに、再び中指を挿入する。

「……ん………は……はっ…あ……」

容赦なく侵入してくる指に、苦しそうに息を吐く。
与えられる感触のおぞましさに、ブルーは小刻みに身体を震わせた。
最奥まで入り込んだ指は、何の前触れも躊躇いも無く、内壁を擦り上げた。

「ふわっ!ああああ!あああああああ!」

急激な快感が込み上げ、ブルーは身体を捩った。
逃れようとする身体を抱き止め、男は射精を強制するポイントのみを刺激し続ける。

「ひっ……!あっあっ……あああああっ…う…あ………」

強引に煽られ昇り詰めさせられるブルーの手が、己の手首を拘束する黒い帯を掴んだ。
天井を仰ぎ、背を反らせる。

「あ……うあああああああああああっ!」

二人の身体に挟まれた、ブルー自身から白濁が飛び散った。
これまで長時間散々嬲られた後だけに、勢いは無い。

それを男は指で掬い取ると、指を引き抜いた秘所にこすり付けた。
間髪を入れず、己の昂ぶりを押し込む。
そして、激しく突き上げた。

「ひ…あ……あっ…!ああ…うあ……い!…あっ…あ……」

身を引き裂かれそうな痛み。
そして、次第に自分を呑み込もうとする快感がブルーを苛む。

秘所から生み出される快感は、このような"実験"を重ねるたびに大きくなり、
ここ数回は必ず、しかも最中に気を失う程強いものになっていた。



まだ、まだだ――――!



身体を揺す振られながら、苦痛の声というよりも喘ぎ声と言った方がいい、
艶を乗せた声を発しながら、ブルーは自分に言い聞かせる。



もう少し、あと少し―――――!



けれど、昇り詰めさせられたばかりの身体は、もう理性の言うことを聞かない。
男が動くたびに背筋を駆け上がる甘い電流に、腰はいつの間にか勝手に動き出し、
男の手を必要としない程淫らに蠢く。

「んああ……ああ…ん………」
「本当に…ふ……いい声だ」
「…いああ…い…うっ!…あ…あっ……!」

最早快楽に身を委ね、貪る様に腰を振る。
男は、反抗的に睨みつけていた顔から蕩けそうな表情に変わった、そんなブルーの頬を撫でて微笑んだ。

「それでこそ、ブルーだ…!」

首を傾げて、大きく開いた唇を塞ぐ。
3度目の口付け。
男の舌に、ブルーのそれが絡みつく。

「んふ…ふ…ふ…んん」

口元から、腰から濡れた発せられる、濡れた水音が実験室に響いた。

そうして。
ブルーが顔を捩り、口を開放する。
ああっという声と共に、身体をのけ反らせた。

男は、その身体を腰に回した手で固定し、彼の中で暴れ尽くした己の分身を押し当てる。
一番深いところで爆発させた。

「あああああああああああああああっ!」

更に高い声で、啼いた。
まだ快感が身体を蹂躙しているうちに、ブルーの視界は暗転した。