聖なる贖罪



 愉しげな歓声や思念がシャングリラに溢れている。

 ブリッジにもそれは届いて、ブルーは一人メインスクリーンの白い雲海を見つめながら
口元を綻ばせた。

 今日は、聖なる日。神の御子が生まれた日。

 昔々、世界中の子供達…に限らず大人達もが華やいだ気持ちで心待ちにしていた日。
 宗教という括りを外して一人歩きしてしまった聖なる誕生日は、一年を締めくくる最大の行事として、
本来の在るべき意味など忘れ去られてしまっているだろう現在でも人々の生活の中に存在しているようだ。

 自分達にも、そんな日があっても良いのではないか……。

 追われる日々を重ね、雲海に息を殺して潜み、人類軍の索敵から脅える様に身を隠す毎日。
 せめてクリスマスくらいはと、ブルーはこの日シャングリラのクルー全員に午後から休暇を与えた。

「無茶ですソルジャー、そんな……」

 導師達は勿論ブリッジクルーや他のセクションの責任者達も、はじめブルーからの提案に首を縦には
振らなかった。

「無理じゃないと思うよ。ステルス・デバイスをレベル4で設定、固定して、雲の濃い所を探して
 艦を停泊(と)めて、あとはオートモードで警戒体制を整えておけば大丈夫じゃないかな。
 ブリッジには僕とキャプテンが上がるから」

 けれど…と言い掛ける声を優しく制する。

「それにね、この日とその前後は人類軍からの索敵行動は一切ないんだ。面白いだろう。
 ここ数十年分の記録を見たけど、一度も……ね」

 だから、多分大丈夫。まぁ、何かあったらその時はその時で……。

 いつもと変わらぬ、どこか楽天的なブルーの言葉の穏やかさと、何よりも彼の後ろに控える普段は
慎重の上に慎重を着せているような真面目なキャプテンもが頷いている様を見て、それなら…と
漸く彼らも受け入れた。
 少し不安気な表情を残しながら、その下に喜びと期待の色を覗かせながら。

 では、何か、僅かな異常でも見られたら必ずスクランブルをかけてください。

 念を押しながらも導師達は二人の心遣いに深く心から感謝し、若いクルー達は思いもかけない
イベントの準備に心を躍らせる。

「ささやかだけどね、僕とキャプテンからのクリスマスプレゼントだよ。皆楽しんでくれ給え」

 子供達がどんなに喜ぶことでしょう…。

 ブルーの手を取り頭を垂れるヒルマンの肩を優しく叩き、皆を見渡し、ブルーはハーレイと
目を合わせて微笑んだ。





「お待たせしましたか」

 振り返るブルーの瞳が柔かに笑む。
 少し遅れると言って先に自分をブリッジへと行かせたハーレイが漸く上がって来た。
 見れば片手にはグラスを二つ。そして大きなバスケットをもう片方の脇に抱えて、そこから
覗いているのはシャンパンのボトル。

「ブリッジで飲むなんて、許されるのかな」

「今日は特別な日ですから。一本ぐらい大丈夫でしょう?」

「一本…ならね……」

 ブルーが紫色のマントの中で後ろに回していた右手を出すと、そこには同じシャンパンのボトルが
握られている。

「さっきね、こっそり失敬してきたんだ。悪いソルジャーだよね。でも、グラスにまでは
 気が回らなかったよ」

 ふふっ…と悪戯に小首を傾げて笑うブルーに、回し飲みも悪くないですがね、とハーレイも
また笑って返す。

「貴方が悪いソルジャーなら、私はもっと悪いキャプテンですよ。
 艦がひっくり返るかも知れません」

 ん?と問うようなブルーの瞳がハーレイの動きを追う。
 ブリッジの中央のキャプテンシートの脇の少し死角になる所に腕を伸ばして何かを持ち上げれば、
更にもう一本シャンパンのボトル。
 三本も飲むのかい!?とブルーが吹き出す。

「大変だ。明日シャングリラは無事な姿でいられるかな」 

「まぁ、神のみぞ知る……という事で……」

 澄ました顔をしながらハーレイは片目を瞑る。
 真面目なキャプテンの顔から少しプライベートなそれに趣を変えた彼に、ブルーは可笑しくて
堪らないと声をたてて笑った。


 キャプテンシートの前の段差に二人並んで腰を下ろし、まずは乾杯を…とハーレイは慣れた手つきで
ボトルの栓に手をかける。
 独特の心踊る軽やかな音が二人きりのブリッジに響き、白い泡と金色の液体がグラスに注がれる。
 小さな無数の気泡が光を弾いてきらきらと輝き、眺めるブルーの赤い玻璃細工のような瞳がうっとりと
細められた。

 下の公園部からパンパンと軽い破裂音が聞こえてくる。誰かがクラッカーを鳴らしているのだろう。
 そして続く子供達の歓声と大人達の華やいだ笑い声。
 嬉しそうにそっと耳を澄ますブルーの微笑みと、彼を見つめるハーレイのどこまでも優しい眼差し。

 視線を合わせてグラスを掲げる。

「この善き日に」

「この善き日に……グロリア…」

 戯れに神の栄光を称えてみる。

 普段の日々で神様など意識する事はない。
 まして、今日までの苛酷な運命の中で、この身がその御腕に抱かれているのなどと思える筈もない。
 それでも、今この穏やかな時間を手にする事が出来たのは、あやふやな輪郭しか持たない、けれど
大いなる存在とやらが今だ人類の生活や記憶の中にささやかにでも息づいているからなのだろうか。
 だとすれば、この時だけでも「天にまします」その人に感謝の念を捧げてみようか。

 ブルーはそんな思いを生まれては消えてゆく泡の中に閉じ込めて、久しぶりに味わう酒精と共に
白い咽喉奥に流し込む。
 沁みわたる甘い香りを身体で愉しむブルーの脇でハーレイがバスケットの中身を出し始めた。

「ねぇ、何が入っているんだい?」

「皆から貴方への贈り物ですよ」

 果物の盛り合わせや、チョコレートや甘いお菓子類と、塩味の効いたクラッカー…たぶんこれは
ハーレイの為のモノだろう…が、ブルーの前に並べられる。

「そして、これは子供達から」

 最後にそっと取り出された皿の上には切り分けられたケーキがのっている。白いクリームがたっぷりの、
大の甘いもの好きのブルーには堪らないものだが、その上の苺の数にブルーは目を丸くした。

「大好きなソルジャーに、ソルジャーが大好きな苺のプレゼントだそうですよ」

 ぎゅうぎゅうに苺をのせられたケーキはすっかり歪な形になって、お世辞にも格好の良いモノとは
言えないけれど、それでも何とか自分の苺をソルジャーのケーキの上にのせようと先を争い
悪戦苦闘したのだろう子供達の様子が目に浮かぶようで、のりきらなかった苺がクリーム塗れに
なりながら皿の上に置かれていたりして、ブルーは少し困ったように眉尻を下げて深く深く微笑む。

「これじゃぁ、あの子達のはただのクリームケーキじゃないか」

「いいんですよ。貴方が喜んでくれさえすれば」

「……うん…嬉しいよ。こんなに嬉しい事はない……」

 グローブを外し、指でクリームを掬って舐める。そして、ケーキの脇でふてくされた様に
転がっている苺を摘んで口に入れた。

「甘い…美味しい…」

 そしてもう一粒。

 空いたグラスにシャンパンを注ぎながら、ハーレイの視線がブルーに釘付けになる。
 唇についたクリームを舌で舐め取る様子がどこか淫らしくも見えて、こんな些細な仕草にさえも
敏感に反応する己の身の奥に巣食う獣を、自分の色欲の深さを心の内でひっそりと嗤う。

「君も一つ、どう?」

 ブルーが余り甘い物が得意ではない恋人の為に、摘んだ苺についているクリームは自分で舐め取り、
これなら大丈夫だろう?とハーレイの口元に差し出す。

 艶やかな唇と、瑞々しい果実。

 そして、自分を映す濃い血色の瞳。


 目の前の赤のトライアングルが、ハーレイの獣の性を無邪気に揺さぶり、誘う。
 堪らず自分に向けて伸ばしているブルーの細い手首を掴み、ぐっと引き寄せる。そしてブルーの息を
感じる程に顔を寄せて囁いた。

「私はこちらを頂きますよ」

 貪るような口付け。
 驚いてハーレイの名を呼びかけるブルーの薄く開いた唇を甘噛みし舌を挿れ、歯列を割って口中をなぞる。
 甘酸っぱい香りが舌先から伝わり更に求めてブルーの逃げる舌を追いかけ、捕まえて吸い上げた。
 嬲るように動く舌と手首を掴むハーレイの掌の思いがけない熱さに慄き、思わず力の入る
ブルーの指先で熟した果実は潰れ、滴る果汁が長い指から掌を伝い、青く血管の透ける手首へと
薄赤い流れをつくる。
 息の乱れたブルーの唇を開放したハーレイは、掴んだ細い手首の赤い雫を舐め上げ、歪い果実を果汁
に染まる指ごと啜るようにして口に入れ咀嚼し嚥下する。
 どこかサディスティックな色を、まるで見せ付けるような行為と彼の紺青の瞳の中に見つけて、
ブルーは捕えられた獲物のように身を震わせた。

 けれど、これは恐怖ではない。

 知らず上下した咽喉に自分が何を期待しているのかを知って、ブルーは誤魔化すように
ハーレイを睨みつける。

「…ん…もうっ…グラス一杯で酔ったのかい、キャプテン?」

「勿論。私はいつも酔っていますよ。貴方に……ね…」

 その一言に言い掛けていた抗議の言葉を飲み込み、頬を赤らめるブルーと自分との間を
隔てているバスケットの類をすっと脇に寄せて身を詰め、そのままブルーを横から抱くように
引き寄せる。

「…ちょっ、……キャプテンッ」

「今は二人きりですよ。肩書きではなく……」

「だって、誰か来たらどうするのさっ」

「さぁ、どうしましょうか」

 狼狽えるブルーにはお構いなしにハーレイは抱き締めた華奢な身体を更に強く抱いて、
彼の柔かな銀の髪に、額に、瞼に、頬に……と口付けを落としていく。
 節ばった指はブルーの身体のラインを優しくゆっくりとなぞり腰の辺りを弄り、膝から
太腿の内側を幾度か撫ぜれば、噛み締めていた唇からは怺え切れずに甘い声が切れ切れに
漏れる。
 
「ん…っ…駄目っ…だって……ウィルッ」

「身体は駄目とは言ってませんが?」

 両脚の付け根にそっと置かれた、武骨な大きな掌の中でブルーの分身はその形を変え始めていて、
クスリと笑うハーレイにブルーが恥ずかしそうに彼に背を向けようとする。
 けれど抗う力はほんの少しだけで。
 筋肉質な腕の中に自分を抱いて愛の言葉を囁く彼の低く落ちついた声音とは逆の、だんだんと
速く大きなる胸のリズムにブルーの息も身体も熱くなってゆく。

「…や…ぁっ……も…馬…鹿……」

 補聴器を外し、耳孔に舌を尖らせて捩じ入れ犯すように音で鼓膜を刺激すれば、ブルーの身体から
力が抜けてゆく。
 マントを外しベストの前を開き、黒のアンダーのファスナーを一気に下ろすと、まるで陶器の
滑らかさそのものの白い素肌が露になる。
 黒と白とのコントラストが眩しい程に美しい。ハーレイの瞳が細められる。
 震える白い首筋に舌を這わせ小さな咽喉仏に口付けし、胸の突起を舌で玩びながらハーレイの
手は器用にもブルーのブーツを脱がせる。
 ベストごとアンダーを背中まで引き下ろし、腕を抜いたところで抱き上げキャプテンシートに座らせて、
片腕で膝裏を掬うようにして腰を上げさせ、僅かな抵抗を示している合わせた両膝を難なく割って
着ていた物は全て取り除く。
 シートの前に放り出されたソルジャー・スーツが形を失い、くたりと天井を見上げている。
 
 何一つ身に着けていない白い裸身。
 ソルジャーという外殻を取り上げられて、生まれたままの姿で恥ずかし気に身を震わせる華奢な身体と、
その中心でささやかな下生えの中から勃ち上がるブルーの分身がふるふると揺れる様を見て、
ハーレイは自分の雄が今までにない程に昂ぶるのを腰奥からの疼きの中で感じる。

 ブリッジで彼を抱く。

 シャングリラを家とする全てのミュウの生命を預かる神聖な場所で、暗闇に佇む我々に見えない
明日の道行きを照らして示す、かけがえのない光の標を汚す。

 何という罪深さだ。許されるべき行為ではない。

 それでも……。

 それでもいい。

 明日、この身が天から放たれる裁きの矢に射抜かれ、生命を落とすのだとしても、
 今、この目の前の青い光の衣を纏う清麗な天使を抱いてしまいたいのだ。


「さ…むい……よ…ウィリアム……」

 目を閉じ、長い睫毛を震わせている羽を持たない天使がハーレイを呼ぶ。

「今すぐ熱いと啼かせて差し上げますよ」

 ハーレイの言葉にブルーは目許をさぁっと朱色に染めながら、けれど白く長い腕を褐色の首に
絡みつけて、早く君の熱を分けてと耳元で囁き誘った。

「……ん……は…やく…抱い…て……」
 
 素早く上着を脱ぎ、覆い被さる様にハーレイは逞しい褐色の上半身をブルーの身体に重ねた。
 誰かが来るかも知れないという緊張と、艶めいた光を放ち横たわる快楽の波に溺れてしまいたい
欲求とが、互いの身体を通して伝わり合い交錯し合い、二人の熱に拍車をかける。

「…あっ……ふぅっ…んんっ……」

 折るように身を屈めて愛撫するハーレイの腰にブルーは長い脚を絡め、指で彼の髪の感触を
愉しみながら白い咽喉を晒す。
 首筋を食むように愛撫され、胸の小さな赤い実を啄ばまれ甘噛みされてきつく吸われれば、
白い腰が快感に跳ねて背中は撓る鞭のように反り返る。
 節ばった指と大きな掌に扱かれ弄られるブルーの分身は硬く張り詰め、根元から擦り上げられ、
白い濁りの混じりはじめた溢れる愛液がハーレイの掌を汚す。
 指の腹で先端を苛まれる度に微かなグチュグチュとした淫猥な音を身体で捉えて、実は大きく
響いているのではないのかと、誰かがどこか物陰で聞いているのではないかと、ブルーはそんな怖れに
囚われる。
 けれどそれすら淫らな快感の糧となり全身を駆け巡る甘く強い疼きにブルーの息は詰り窒息しそうになる。

「も……ダメ…はやく…きて」

 腰を浮かせ、絡めた脚を外して自分で膝裏を抱え、後ろのひくつく蕾を晒す。
 珊瑚色の閉じられた外襞がハーレイの目の前で緩み窄まり、熱い肉の楔に押し開かれる
悦楽(よろこ)びの瞬間を待ち焦がれている。

 なんと淫らな……清らかな肢体で惑わす、まるで妖婦だ……

 貴方の全てが私を狂わせ溺れさせ虜にさせる……


「まだ……、もう少し怺えて……」

 ブルーのまだ硬い後孔を潤ませようとハーレイはシートの前に膝を付き、その閉じた花弁に
舌をのばす。襞の一つ一つを丹念になぞり小さな蕾が傷つかず花開くようにと弾力のある中心に
少しずつ舌を挿れながら湿らせて慣らしていく。
 ブルーの陰茎を伝って零れる愛蜜でふくよかな双果がツヤを放っている。
 それにそっと手を添え、中の宝珠を探り指で摘むように転がせばブルーの下肢はビクビクと痙攣して、
膝を抱えていた手が頭の上でシートの背もたれを強く、白い指がさらに白くなる程に強く掴みハーレイから
逃げるように身体を摺り上げる。

「…うっ…んんっ…ね……ウィルッ……も……ね…ぇっ…!」

 切ない涙を浮かべるブルーの白い滑らかな肌は紅潮し、身体の中心から噴き出し全身に放たれる
快美感にひりつく咽喉で、何度もハーレイの名を呼び彼を強請る。
 このまま己の滾った肉杭を勢いのままに埋め込んでしまいたいとハーレイも思う。けれどブルーの身体は
まだ充分に開かれていない。

「仕方ないですね。では子供たちに手伝ってもらいましょうか」

 咽喉の奥で笑いながら、ハーレイは下に置かれたケーキ皿に腕を伸ばすとクリームをたっぷりと
指で掬って、何?と喘ぎながら薄目で見つめるブルーにその指を見せてやる。
 官能の熱にうかされ潤んでいたブルーの瞳が大きく見開かれる。

「なっ……やだっ……!……んんーーーっっ!」

 慌てて脚を閉じ、逃げようとするブルーをいとも容易くひっくり返してシートの上でうつ伏せに
すると、解れかけた蕾の中にクリームごと指を捩じ挿れる。
 少し膝を立て、腰を上げる小さな華奢な身体が短い嗚咽のような息を吐く。

「…あっ…ふぅっ……んっ…んんっ……」

 内襞に擦り込むように指を蠢かし狭路を押し開いてやれば、味わうように絡みつく内壁の熱さに
溶けたクリームが後孔から溢れて震える内腿を伝い、シートに白い染みをつくる。
 顔を寄せてそれを舐める舌先は濃厚な甘さの中にブルーの体液の僅かな苦味を捉えて、
ハーレイの背中にゾクゾクとした淫猥な戦慄が走った。

 極上の甘露……これは罪の味だ……

 甘く強い香りを花弁から放ち、群がる虫達を溶かして喰らう食虫花のようにブルーは
溢れる蜜を薔薇色の内壁を覗かせる秘穴から溢れさせる。そしてそこに顔を押し付けて
愛液を啜る自分の浅ましく下卑た姿を嗤いながらもハーレイはそれを止めようとはしなかった。

「……ぁあっ……ウィ…リ…んぁぁっ…ッルゥ…っ!」

 グジュグジュと卑猥な音を立てながら飲み込んだ指を貪るブルーの熱さに、ハーレイも己の
熱芯の昂ぶりを怺えて抑える事がもう出来なくなっていた。
 掻き回している指は既に三本に増えて、それを動かす内壁も充分に解れ、今すぐ熱い楔が欲しいと
ビクビクと収縮しては急かして強請ってくる。
 片手でブルーを後ろから抱き締め、もう片方で下衣の前を寛がせると、狂暴なまでに硬く反り返った
雄を蕩けた秘所にあてがいながら白い背中に胸を重ねて彼の耳元で囁いた。

「今度は私を味わって…ブルー……」

 熱の篭る息にブルーの背中が僅かな強張るのを肌で感じながら、ハーレイはゆっくりとブルーの中に
挿っていく。
 張り詰めるだけ張り詰めた昂ぶるハーレイの雄に一瞬脅え躊躇うように後孔にキュッと力が入る。
けれどすぐにそれは解けて、ブルーはしなやかな腰をうねらせ待ち焦がれていた熱の塊を迎え入れる。
 ブルーの内襞はハーレイの緩やかな抜き挿しの動きに合わせてギュッと絡みつき収縮しては、
更なる内奥へと誘い込む。
 獰猛な雄を抑えつけるような狭路からの圧迫感は痛みに近い快感となり、ハーレイの額に浮いた汗が
ブルーの背中に零れ、露のように転がる。

 後ろは灼熱の太い肉の楔に穿たれ、前は大きな掌の中で擦り扱かれ、こみ上げる官能の熱波に
翻弄されてブルーはシートの背もたれに縋り付くようにして上体を支えている。
 絶えず唇から漏れる甘く掠れた快美な艶声は、この聖なる日、許されざる罪深き淫逸に耽る
堕天使の奏(うた)う、まるで背徳の讃美歌のようで、高く低くブリッジの空気を振わせてゆく。

 熱く濡れた肉襞の奥をハーレイの漲る雄に噛み付くように屠られ、ブルーの背中は折れそうな程に
反り返る。怺え切れない耐えられないと細い首を左右に振れば、乱れた銀の髪の緩く弧を描いた毛先が
小さく光を反射する汗の飛沫を放ち、それはまるで罪によって取り上げられた純白の翼の羽毛の
代わりのようにも見えた。

「あっ…あぁ……もっ…ィルッ……ッリアムゥッ」

 シートを掴む指はとうに力を失い、下ろした腕の中に顔を埋めて前後に身体を強く揺すられながら、
ブルーは陶酔の極みを迎えようとしている。押し寄せる官能の熱波に下肢は痙攣を繰り返し、その度に
ハーレイを咥え飲み込んだ後孔も内襞もキツく彼の肉杭を締め上げる。
 甘いハスキーボイスの切ない啼き声を感じながらハーレイはブルーのねっとりとした淫水に塗れた
分身を擦り上げ先端の敏感な切れ込みを指先で強く捏ねまわす。
 その刺激にブルーの咽喉は甲高い悲鳴のをあげて仰け反り、大きく全身を戦慄かせて熱い精を
ハーレイの掌の中に勢いよく吐き出した。

「…ひぃっっ…あぁっ…あっ…ああぁぁっ……!」

「…っくぅっ……ブ…ルー……んっ…ブル…ッ……」

 唸る獣のように低く呻き声をあげ、ハーレイもまた二度三度と一際激しく抉るように灼熱の塊を
ブルーに撃ち込むと一気に引き抜き、その白い美しい背中に己の欲望の証を解き放つ。
 声も出せずに喘いでいるブルーと、その華奢な身体を後ろから強く抱きしめ小さな耳朶に細い首筋に
口付けるハーレイは、互いの荒い呼吸を胸で背中で感じながら顔を寄せて、何度も深く唇を合わせて
乱れる熱い息を食み合う。
 白と褐色の肌を艶かしく絡め合う罪深き咎人の甘く淫らな情事の余韻が、暫くの間、静かな
機械音だけが響くブリッジに漂っていた。





 激しい情交の後、ぐったりとキャプテンシートに身を預けているブルーは、脱がされた時と同じく
ソルジャースーツをハーレイに着せて貰っていた。

 だるくて動けない。
 腰から下が痺れて、まだ力が入らない。
 咽喉がカラカラで痛い位だ。

 まるで恭しく膝をついているハーレイが、彼の頭の上であれこれと文句を言うブルーにブーツを
履かせている。

 こういう所は昔と何も変わらない。

 ブルーがまだその身の内に残る甘い細波に溜息をつきながら、ハーレイの髪の毛を摘み、
引っ張り、掻き回す。
 そんな彼の指先にクスクスと笑いながら着せたベストの前を合わせていた時、誰かがブリッジに
上がってくる気配がした。
 一瞬、二人の動きが止まる。

「あの……ソルジャー…?」

 男の子の声が姿の見えない二人を探している。
 シートの中で小さくなるブルーにマントを手渡して、既に衣服を身に着けていたハーレイは
彼を隠すように立ち上がり何事もない様子で声をかけた。

「やぁハロルド、何か用かな?」

「あの…、ソルジャーは…いないの?」

「ん?ソルジャーは…いらっしゃるよ。勿論」

 慌てながら、もたもたとマントを身に着けようとしているブルーを(早く)と思念で急かしながら
ハーレイは突然の訪問者に歩み寄った。
 こういう時、長過ぎるマントは不便だとブルーは心の内で舌打ちをしながら漸くマントを纏うと
シートの下にあった補聴器を装着(つ)けて髪を直し、力の抜け切っていた腰と膝に気合を入れて立ち上がった。

「どうしたんだい?」

 子供相手でも後ろめたい動揺を隠し、普段以上のソルジャー・スマイルを湛えれば、目の前の
ハロルドは用事を忘れたように彼の微笑みに見惚れている。

「ハロルド?」

「あっ…あのねっ…ソルジャー、ケーキ食べた?」

「うん、頂いたよ。君達からの贈り物だもの」

「苺は?…ケーキの横にあったヤツ」

「ああ、一番最初に食べたのだね。とても甘くてね、美味しかったよ?」

「ホント?良かった!」

 ぱあっとハロルドが笑顔になる。

「あれさ、ボクのだったんだ。ボク一番最後でがんばったんだケド、ケーキにのらなくて…」

「だから心配になった?」

 ブルーが膝をついてハロルドと視線を合わせた。
 普段は忙しくてあまり話も出来ない、大好きな大好きな、とても綺麗なソルジャーをすぐ目の前にして
ハロルドはドキドキしながらも、彼の顔をまじまじと見つめると少し不思議そうな顔をする。

「ソルジャー、泣いてたの?熱があるの?顔が赤いね」

「えぇっ…そう…そうかな。熱はないし、泣いてなんか…いないよ?」

 狼狽えながら微妙に上擦った声で答える後ろでハーレイが咳込むのを聞きながら、ブルーは彼に
SOS信号を思念で送る。

「さぁ、ハロルド。心配事がなくなったら下に戻ろう。皆が探しているかもしれないぞ」

 キャプテンの大きな手がハロルドの小さな肩を促せば、彼は素直に従いながらも、まだブルーの様子を
気にしている。そんな彼にハーレイはそっと耳打ちをした。
 途端に彼は、ああと納得したように頷いて振り返るとブルーに無邪気な笑顔を向ける。

「メリークリスマス、ソルジャー・ブルー。シャンパン飲み過ぎた事ナイショにするね」

 何か冷たい物でも用意してきます…と、ハロルドと一緒に下りていくハーレイを見送りながら、
まだ上気している頬を指でなぞり、情交の名残に潤んでいるのだろう瞳を瞬がせて、子供って
侮れないよねと溜息と共に呟いた。

 宴はまだ続いている。
 子供達の歓声も、大人達の楽しげな笑い声も途切れる事を知らず、華やい空気がシャングリラ全体を
優しく包んでいる。
 彼らの歌っている讃美歌が微かに聞こえてくる。

 キャプテンシートにブルーは深く身を預けて座っている。長い脚を組み、手すりに肘を乗せ
て軽く握った手はこめかみをあてて、下の様子に耳を澄ませている。

「主は…来ませり……」

 歌声につられる様に、口を付いて出た言葉にブルーは笑う。


 いつか罰を受ける日がきてもいい。
 罪深く穢れた身だと蔑まれてもいい。
 浅ましい欲の塊だと唾を吐かれても構わない。

 こんな日もあったのだと、彼が覚えていてくれさえすれば……

 それでいい。


「ウィル…」

 小さく、愛しい人の名を呟く。

 もうすぐ彼はここに戻ってくる。そうしたらまたダラダラと甘えて困らせてやろう。
 仕方のない人だと言いながら、きっと微笑って抱き締めて口付けしてくれる。

 甘えさせて
 抱き締めて
 優しい口付けでこの身体を満たして


「主は……来ませリ……」

 もう一度呟いたブルーの唇が幸せそうな笑みを形作る。
 リフトの動力音がハーレイがブリッジに上がってきたと教えてくれる。

 今、彼の手には何があるのだろう。

 願わくは、とブルーは祈る。
 昔ハーレイに、ある意味無理矢理飲まされた、恐ろしく不味いハーブティーではないようにと、
どうかそれだけは勘弁しておくれと、近づく彼の足音に震える程の幸せを感じながら、
ブルーは密かに祈るのだった。
















---------------------------------------------------- 20071226 『Wチェリー☆パイ!』のQ太郎さまから頂戴しました! ブリッジで、シートで…っ!(><) えっちぃ〜で幸せそうな二人で、クラクラですvvv ありがとうございました!