僕たちはそんなに大それた事を望んだろうか……

大きすぎる望みだったろうか……

望んだ事は、ただ―――――









with all much together









静かだった。
あの戦闘は、つい数時間前のことなのに。

嘘みたいだ。
呟いてみた。

展望室に小さくこだまする。

嘘だったら良かったのに。
もう一度、響く。

帰ってくる返事は無い。
この部屋に居るのは、僕だけ。




『君が独りなんて珍しいね』
さっきキャプテンハーレイにそう言われた。

アルテラが聞いたら目を丸くした事だろう。
そう、僕は彼に話しかけたんだ、自分から。

嘘!
嘘ばっかり!
頭の中でアルテラとタージオンの声がする。
コブが聞いたら、きっと目をパチパチしたんだろうな。

嘘みたいだけど、本当なんだ。
僕は自分から、あのキャプテンハーレイに声を掛けた。
凄く毛嫌いしていた彼にね。

どうしても知りたいことがあって、ヒルマンに――ごめん、教授って呼べって言われたっけ
――教授に訪ねたんだ。
そうしたら、それはキャプテンが知ってるって。
他に方法は無いのかと食い下がったんだけど、『自分の知る限り彼が最適だろう』っていうんだ。

仕方なくブリッジで話しかけた。
皆、吃驚した顔をしていたよ。
一番驚いたのはやっぱり彼で、その第一声がさっきの言葉だったんだ。

『すまない。酷い事を言ったね。謝るよ』
すぐにそう言って、頭を下げた。

他人の心に敏感すぎる上に、何の衒いもなくそんなことをする!
だから、あなたが苦手なのに―――!

眉を顰めた僕を、彼はこの展望室に連れ出した。

『アルテラとコブ、それに弟のタージオンは気の毒だった』
『…………僕はあなたに教えて貰いたい事があるんです』
『何だい?』
『―――ソルジャーブルーの事です』

彼はすうっと息を呑んだ。
僕の口から彼の名が出たことが、よっぽど意外だったんだろう。

それはそうだ。
僕はメギドを防ぐ彼の後姿しか記憶が無いし、その接点すらキャプテンは知らないんだから。

『僕は彼に訊きたい事がある。だから、彼のことを教えて欲しい』
『…………どうして私に?』
『ヒルマン…教授が、あなたに"見せて貰う"のが最適だろうと』

そうか、って彼は笑った。

『私は記憶のシェアが得手ではないので、君が欲しい記憶だけを見せる事は
 多分出来ないだろう……見たくないものまで見せてしまうかもしれないよ?』
『僕のほうで選ぶから大丈夫です』
『……欲しいものは?』
『ソルジャーブルーの戦闘を…』
『―――わかった…』

もう一度笑うと、キャプテンは手を差し出した。
それは、ちょっと嬉しそうな笑顔だった。

色んなものを分けてもらって手を離す。
時間にして10分くらいだった。
そう、10分もかかったんだよ!
かなりな量だったよ。
300年間の記憶ってのは、凄いね。

欲しい答えはやっぱりすぐには見つからなかったけれど、その取っ掛かりになるようなものは
沢山あった。
それらを反芻する。
ソルジャーブルーの戦いは殆どが単独で、そりゃたった一人のタイプブルーだったんだから
当たり前なんだけど―――――寂しく厳しいものだったよ。
でも、キャプテンはどうやってこの記憶を得たんだろう?
彼から貰ったにしては視点が説明つかないものもあったから、ちょっと訊いてみようとしたら
―――――抱き締められた。

『君たちは、まだこういうことが必要な年齢だった』
驚いて声も無い僕に言葉を続ける。
『忘れていた。いや、考えないようにしていた』

抱き締められた腕にぎゅっと力が込められる。
『……本当にすまない』

1分ほどで解放したキャプテンは、まだ呆けたままの僕の頭をぽんぽんと叩いた。

『本当に大きくなったな、タキオン。今夜はこの場所を譲ろう。気が済むまでここに居て
 "話"をしたらいい』

ただ、あまり夜更かしはいけない。
ゆっくり眠るんだぞ。

小さい子供扱いのまま、彼はこの展望室を後にした。
普段ならこんな扱い許せないんだけど、一言も返せなかった。

何でだろう?
理由も分からないまま、僕は食堂に向かった。
飯なんか喰えるはずないのに、急に物凄くお腹が減ったんだ。

食堂ではトォニィにもツェーレンたちにも合わなかった。
あんな後で腹が減る僕がおかしいんだろう。

食べ終わって、足が向いた先はやっぱりここで。
そんなに遅い時間でもないのに、誰も居なかった。

お前らが散った宇宙を見上げる。

アルテラはトォニィが"連れて帰ってきた"からもういないよな。
まだ、そこに居るのか、コブ、タージオン?
早く帰って来い!といいたいけれど、ここはお前らが戻ってくる場所なのかな?
戻ってきてもいい、戻りたいと思う場所なのかな?
もし、死んだのが自分だったら、ここに帰って来たいと望むだろうか…

戦いを強いられた、この場所に?
化け物と蔑まれた、この場所に?

そう、これもあなたに訊きたい事の一つです、ソルジャーブルー。

たった一人のタイプブルー。
皆と同じに過ごせたはずが無い。
白い目で見られたこともあったでしょう?
仲間じゃないといわれた事もあったでしょう?

なのに、どうして戦い続けたのですか?
戦い続けられたのですか、たった一人で?

どうやって、皆に慕われる存在になれたのですか?




僕たちと、どう違ったんですか?




訊きたいことはもっとあります。

戦艦を仕留めるにはやっぱり接近しないと駄目ですか?
落とすには中から爆発させた方が確実ですか?
動力源を素早く見つけるコツは?
それとも先にブリッジを潰した方が早いですか?


それから、それから………


今、ジョミーは駄目なんだ。
ちっともこっちを向いてくれない。
傍にすら近寄れない。
だから、あなたに尋ねます。




あの、サイオンの効かない相手にどう戦ったらいいですか?
これ以上仲間を失わないでいるには、どうしたらいいですか?
皆で生き残るためには、どうしたら………
どうすればいいですか……

僕はただ皆と一緒に居たかった。
ずっと。
ずっと。
それを望んだ途端、いっぺんに3人も居なくなった。

僕の望んだ事はそんなに大それた事ですか?
こんなに酷い目に合わなきゃならないほど、身に過ぎる望みだったですか?





ただ一緒に居たいと思っただけなのに………!





あなたなら解りますよね?
教えてください……!





展望室は静まり返ったまま。
当たり前だ。
死んだ人間に訊くなんて、正気じゃない。
分かってるよ。
分かってる…

でも、寒いんだよ。
周りにお前らが居なくて、寒いんだ。
他の皆まで居なくなったら、もっと寒いじゃないか。
そんなの嫌だ。
我慢出来ない…!

何でもいいんだ。
これ以上誰も死なないなら。
皆で一緒に居られるなら、僕は何だってする。

この寒さを感じないでいられるなら―――――

僕は自分の腕で自分を抱き締めた。
ぎゅっと、強く。
すると、さっきのキャプテンの腕の感触が蘇る。

この暖かさは……
懐かしい記憶……

父さんに抱かれた時と同じだ。
母さんもそうだけど、父さんも沢山沢山抱っこしてくれた。

タージオンは憶えているだろうか、この暖かさを。
知っていただろうか、この優しい感触を。
もし、知らないで死んだのなら―――!

僕が教えてあげればよかったんだね。
兄さんなんだから。
僕が抱き締めてやればよかった…!
時間はあったんだから…!

戦う事しか教えてやれなかった、駄目な兄さんでごめん……




暖かいものが頬を伝う。
泣いている、僕が。
理由なんか、いっぱいありすぎて分からない。
みんなの白い目も、アルテラもコブもタージオンも、父さんの腕も、全部だ。




もう嫌だ!
ここから居なくなりたい!
タージオン…!
僕も―――――




僕は何も見たくなくて目を瞑る。


ふわっと暖かいものに身体が包まれた。

『泣かないで、兄さん』
『あんたらしくもない』
『…………』




『ほら、目開きなさいよ』
『…兄さん』
『…………タキオン』




目を開けると、ぼやっと光る3人が見えた。
笑ってる…?




『こんなボロボロ泣いて』
3人はおかしそうに笑っていた。

少し離れてその後ろに、同じように青く光る人。
ああ、あなたが連れてきてくれたんですね。

あなたも微笑んでいる…?
あなたから伸びる青い光。
暖かい思念が僕を包んで、身体にも入ってくる。

これが、あなた……
ソルジャーブルーの……




『あたしたちはずっとここに居る』
『兄さんたちと一緒に居るよ』
『……うん』

『―――だから、生きて―――』




最後の言葉を乗せた声は、穏やかな男性のものだった。
ぼくの記憶に無いけれど、キャプテンから貰ったものには溢れていた優しい声。

「わかった」

僕は声に出して言う。
もう3人、いや4人の姿は見えないけれど。

彼らがそこにいるのが分かるから。
皆一緒だ。
ぎゅっと拳を握る。
そう、一緒に居る。




トォニィの許に戻るべく、僕は歩き出した。
















---------------------------------------------------- 20070903 もっとぬくもりが欲しかった もっと時間が欲しかった 皆で笑い合う時間が でもそれはもう叶わない ならば僕は僕の出来ることを それを懸命に行うだけだ 後で笑われないように…ね…