―――I'll be watchin' you 







シャワー室を出たブルーは、大きな姿見に向かった。
部屋はバスローブ一枚でも寒くない。
ハーレイが温度を上げたのだ、ブルーの為に。

鏡に手を付き、己を見つめる。

あの船の中でも、こうして鏡と向かい合った。
服を着て、或いは全裸で。
向かい合う自分は、殆ど顔を歪めていた。
心の身体の痛み、或いは悦びに。
あの男に無理やり与えられたものに、泣いたのだ。



―――キース・アニアン。



ブルーは思う。
あの男は何だったのだろう。

これまで見て感じてきた、どの人間たちとも違っていた。
理解出来ない、そう思った。

だが同時に――とても奇妙だけれども――非常に近しいものも感じた。
共感とでも言えばいいか。
それは、言葉にするのはとてもむつかしい感覚だった。

自分とは立場も考えも全く異なる、正反対とさえ言えるのに…。
あの男は、何なのだろう…。



「…ブルー…」

ハーレイの大きな身体がぴたりと背中に寄り添う。
笑って、会話して、食事をして、時折抱き合って。
彼はそうやって、ただただ傍にいる。

「何をお考えなのですか…」

サイオンをほぼ失ったブルーとの能力差は完全に逆転し、思考を読もうと思えば
いつでも出来るのに、ハーレイはそれをしない。

だが、解るのだろう。
ブルーの全身は柔らかくて温かい、でも眼に見えないものに包まれた。

大丈夫だよ。
そう言って振り返れば、唇を塞がれた。

「…ん……」

差し込まれた舌に、ブルーは自分のものを絡める。
合わせて動かせば、腰の奥から湧き上がる"ざわめき"。
それに従って、ハーレイの髪を掴んだ。

ぎゅ…と指に力を込める。
すると、その力に比例するかのようにハーレイの舌は激しさを増した。
擦り合わせていた先端が、ブルーを絡め取り強引に自分の口内へと引きずり込む。
限界まで伸びた舌を強く吸われ、唾液が口角から零れた。

「…ん…ふっ……んん…っ」

ざわめきは背筋を這い上がり、ブルーを震えさせる。
びくびくと小さく跳ねる身体に愉悦を覚えながら、ハーレイはゆっくりと唇を離した。
くちっという音を立て離れた二人を、透明な一本の糸が繋ぐ。
瞼を上げたブルーは、欲情を隠さない瞳をハーレイに向けた。

「…は…ハーレ……」

呻くように名を零した唇をハーレイは覆う。
先ほどよりも激しく貪った。

「…んふっ…ん…っ……くぅ…んっ…!」

下半身から力が抜け落ち、完全に身体を預けるブルーを抱え、ベッドに向かう。
そうっと下ろし、うつ伏せにすると、バスローブを肌蹴させた。

惨く酷い、醜くて、美しい傷痕が現れる。

体重を掛けないように細い身体の両脇に手を付き、覆い被さった。
ゆっくりと頭を下げる。
ブルーの背中に広がる火傷に舌を這わせた。

ぴちゃ…ぴちゃ…。
舌先で、傷をなぞる。

これは、あの日から決まったブルーとハーレイの儀式だった。





舌を這わせながら、ハーレイは思う。

こうやって、全てを舐め取ってしまえたら―――
傷を、記憶を、想いを。
あの男に繋がる全てを消してしまえたら。
時間を戻して、無かったことに出来たなら……!

烙印を消さないと決めたのは、ブルーだった。
ブルーの身体が手術に耐えうるどうか確証が無いこと、また、
決して多いとは云えない彼の時間を治療に費やすのはどうかといった
ドクターの意見もあったのだが、最大の要因は積極的ではない
彼の態度であった。

ブルーはキースに某かの感情を抱いている。
だから…。
内面を覗いたハーレイはそれに気づいていた。

本当は、目にするのも嫌だった。
綺麗に消し去ってしまいたかった。
全部…。

だが、ブルーがそれを望まないのなら―――ハーレイは全てを受け入れる。
そう…決めた。
選んだのだ、自分で。





舌を動かす度、ぴくっ、ぴくっとブルーが震えた。
ハーレイの舌は、全ての傷痕を舐める。
思いの丈を込めて、優しく。
手でも愛撫を加える。
ブルーの身体の下に手を入れ、胸の突起にも触れた。
抓み擦り捩じれば、ブルーの息は次第に荒くなる。
鼻にかかった掠れた声が、ブルーの口から零れ出してきた。

ハーレイはブルーの腰を持ち上げ、尻だけを高く掲げさせた。
羞恥に震える双丘を割り、奥に息づく蕾に舌を伸ばす。

「…んんっ!」

シーツに押し付けられた唇から、くぐもった嬌声が起こる。
ミルクを舐める猫のように、何度も、何度も同じ箇所を舐め上げた。

「んぅ…ぁう……は…ぅう……あ…」

断続的に喘ぎ声が響く。
それに合わせて収縮を繰り返す襞の中心に、ゼリーを掬った中指を当てた。
舌による愛撫は止めないまま、すぼまった瞬間にくいと押し込む。

「はあ…!」

ブルーは身体を起こし、背を反らした。
汗ばんだ背中に口付けると、ハーレイは細い足の間に手を伸ばす。
そそり勃ち、呼吸に合わせ上下するブルーを掌で包み、扱く。

「ひ…っ!ああぁ…い…ぅ…ハー…レ…!」

ブルーは頭を激しく振り、髪を乱れさせた。
ひっきりなしに声を上げて、腰を身体を揺らす。

「あ…は…い…いぃ…、あは…うん…うう…―――はぁ…っ!!」

包皮を剥いて、中の桃色の柔らかい先端部分を抓んだ。
涙を流すスリットを擦る。

「も…ぃ……、い…く…ぅっ!」

促すように少し強めに扱けば…。
ブルーは呻いて―――高く声を上げた。





ころんと仰向けに倒れ、震えて荒い息を繰り返すブルーに圧し掛かる。
啄ばむように触れるだけのキスを落としていく。
額、瞼、頬、鼻、顎、咽喉、うなじ、鎖骨…。
呼吸が落ち着くのを待って顔を寄せ、囁いた。

「…ブルー…」
「うん…」

ハーレイはブルーを抱え、ベッドで胡坐を掻く。
背中から抱きかかえる格好で自分の上に座らせた。
大きく足を割り、その間に前から手を入れる。
先程解したブルーの秘所に、ゼリーを塗り重ねる為に。
猛って天を向く自身にも―――ブルーを傷つけない為に。

「……いいですか…?」
「ん…」

来て。
その小さな、でも火傷しそうに熱い声を聞いて、ハーレイはブルーの腰を自身に押し付けた。
ゆっくり、そうっと開いて、飲み込ませていく。

「…ん……ん…ぁ…ふ…」

ブルーはハーレイを身体の中に収める過程で、その熱を硬さを大きさを味わう。
息が、顔が蕩けていく。
快感に、充足感に―――幸せに…。

すっかり飲み込んでしまうと、首を捩じって後ろを向いた。
脱げてしまった白いバスローブを腰の周りに纏わりつかせているだけのほぼ全裸で、
鏡の前と同じような口付けを繰り返す。



大丈夫だよ。
僕は幸せだ。

とても、幸せだよ、ハーレイ。
君と居られて、こうして時間を過ごせて、幸せなんだ。

その為に僕は戻ってきたのだから。
…ね、ハーレイ。



そう語りかけて、唇を、身体を繋ぐ。
繰り返される言葉にハーレイは答えた。

「…はい、ブルー…」



分かっています。
ずっとお傍に…。

ずっと、ずっと、あなたの傍に…。



静かで熱い二人の夜は、繰り返されるのだった。


















---------------------------------------------------- 20080301 Every breath you take And every move you make Every bond you break, Every step you take I'll be watchin' you