真っ赤な大地が、更に赤い。
ミュウの血を大量に吸ったからなのか。

いや、これはナスカの大地の流す"血"なのだ。
許容量を超えた破壊兵器の雨を浴びた、大地の叫び。





大地が、星が―――――割れる……





その大地を覆う紫の大気に浮かぶ、輝く青。
正対するのは純白の鯨だ。

鯨の巨体も、同じ色に輝いている。
その腹の中で、ハーレイは声にならない叫びを上げる。



もう…止めて下さい……!
あなたの力が尽きてしまう…!

あなたの命が、燃え尽きてしまう……!



血を吐くような叫び。
けれど、実際声に出したのは全く異なる言葉で。

「ソルジャー・ブルーが持ちこたえているうちに、エンジンの再起動を!
 ステルス・デヴァイスの準備はどうだ!」

ブリッジで仁王立ちになり、仲間を叱咤激励する。
左右に檄を飛ばしながら、視線はメインモニターに浮かぶブルーの姿を捉えて離さない。



本当は……お傍に……



ハーレイは頭を一つ振る。

彼に託されたではないか。
この船を、ジョミーを、皆を―――――未来を…!

ぎりっと音がするほど奥歯を噛み締め、「エンジンはまだか!」と大声を上げた。
途端、聴きなれた懐かしく頼もしい音ともに、エンジンが復活する。

すうっと身体が浮上する感覚。
同時に、モニターのブルーの姿が小さくなる。

「急速浮上!但し、エンジンがまだ温まっていない!ゆっくりだぞ!!」

ゆっくりと、だが確実に小さくなる、青。
ハーレイは拳を握り締める。

今、ハッチを開けることは出来ない。
彼も、瞬間移動出来るだけの力が残っていない。
ああやって浮上しているのが精一杯で。
見えるところに居るのに、思念を感じることすら出来ない。



もう、彼を回収することは出来ないのだ………



炎とマグマに彩られて、血の色よりも赤い大地を背景に浮かぶ青いひと。
はっきりとは見えないが、遠ざかっていく白い鯨を見て微笑んでいるのだろうか。

赤い二つの宝玉が、細く輝いている。



ブルー…………!



ハーレイは、己の拳から滴る血に気が付いていない。





















ああ、飛んだ……

ブルーは微笑んでいた。

これで、彼らは助かる。
よかった………

安堵した途端、くらっとめまいが襲う。
緩やかに降下し始める身体。
藤色のマントが、熱い風に舞う。

遠ざかる白い鯨。
あれが自分の全てだった。
300年を越える時間を過ごした船。



愛おしくないはずが無い。




船も、それに乗るひとも。








まだ、自分の身体だけならゆっくりと降ろすことが出来る。
安全に降りられる場所を探した。
割れていない大地で、周囲に遮るものの無い、出来るだけ高い場所。
あの愛おしいものたちを、出来うる限り長い時間見ることが出来る場所。

赤い砂がふわりと舞い上がった。
舞い上がった砂が描いた円の、その中心に降りる。
初めて踏みしめる、赤い大地。

灼熱の大地。
大気も熱い。

けれど、ブルーの額の汗はその所為ばかりではない。
肩で大きく息を吐き、流れる汗は色を失った頬から顎の先に集まって、したたり落ちた。
それでもブルーは、空を見上げた。

もう、芥子粒くらいにしか見えない。
でも、確実に上昇している。



たったひと粒の光。
とてもとても小さいけれど、力強く輝く。
彼らなら、大丈夫。



涙が溢れた。
溢れて止まらない。



彼なら、叶えてくれる、きっと………



ブルーはすうっと息を吸った。
その人の名を呼ぶために。
愛しいひとの名を呼ぶために。





「ハーレイっ……!」





刹那、星が瞬いた。









------------------------------------------- 愛の傾きバトンで妄想。 こんなナスカ編だったらどうしようって… 怖くて、ホントに怖くて綴った記憶があります 20070702