部屋の中心に降り立つ。
瞬間移動の経験の無いハーレイは、数回目を瞬かせていた。

僕の部屋だ、と声を掛けると、初めて気が付いたように頭を巡らす。
慣れた場所と目に見える固い足元に安堵したのか、彼は改めて大きく息を吐いた。

そして、思い出したのだろう。
あの言葉を。

「ブラウだね」と、先回りしてそう言うと、ハーレイの顔色がさっと変わる。
またからかわれるとでも考えているのだろう。
少し怯えた(!)ように「我々だと気が付いたのでしょうか…?」と呟く彼を見て、
ちょっといじわるが過ぎたかなとも思うけれど。

あんな噂を立てられるほど、仲が良いなんて。

「そんなことはないだろう。坊やたちなんて言っていたしね」
僕は抜け抜けと嘘をついた。

今度こそ本当に安堵の息をついたハーレイに、やっと辺りを見回す余裕が出来て―――
ようやく、貧相な上半身を晒す僕に気が付いた。

「ソルジャー!そのお姿では――――」

お風邪を召してはと、慌てて上着をかけてくれるけれど。
僕はまだ、着たくないんだ。
まだ―――

「おまえが……暖めてくれればいい」
「…ソルジャー…」
「ブルー、だ」

すっと唇を差し出す。
目を閉じれば、降ってくる暖かい感触。

僕は口を開いた。
ハーレイを迎え入れるために。











抗うことなど出来なかった。




ブラウの言葉とか、本当に彼女は気付いていなかったのかとか、
他にブリッジにいた人間はいないのかとか、
自分で脱がせた訳だが、いつもより設定温度が低い彼の部屋にあの格好でいて
風邪を引いたり熱を出したりしないのかとか、
脳内を様々な心配が渦巻いていたけれど。
すっと差し出された彼の唇に全て吹っ飛んだ。
自然に薄く開いた唇は、甘美で淫靡な匂いを発散させていたから。

深く深く口付ける。
彼の咥内で、柔らかい舌を絡め取る。
すぐに応えるブルー。

ん…ふ…んん……

くぐもった声も、水音もからだの奥底から湧き上がった熱情を煽る。
小さな後頭部に手をやり、押し付けるようにブルーを貪った。

溶け合って一つになってしまえばいい。
分かち難く、繋がってしまえたら。
そんな思いが伝わってしまったようで。
深いキスをしたまま、ブルーが"言った"。



そんなの嫌だよ。
おまえと触れ合えなくなるなんて。











長い口づけのあと。
膝から力が抜けた僕をハーレイはそうっと抱え、ベッドまで運ぶ。
あまりに難なく軽々と運ぶものだから、大人しく抱かれているのも
癪なのでちょっかいを出してやる。

喉許に歯を立てる。
ハーレイはくすぐったそうに首を竦めるが、足を止めることはない。
瞼に手をやってみたり、意外と形のいい鼻を抓んだり。
小さい子供のようですよ、ハーレイは笑うが、満更でもないのか歩調を緩めたり。
その後も頬を抓ったり、指先で突いたりしているうちにベッドに辿り着く。

仕返しなのか、いつもの壊れ物のような扱いではなく、ぽんとシーツに落とされた。
尻餅をついた格好で両手を後ろにして上半身を支え、立てた両膝を―――――
ゆっくりと開いた。

その間にハーレイが入り込み片膝を付くと、ぎしっとベッドが軋む。
上半身を倒した僕に覆い被さってくるが、両手をそれぞれ身体の脇について
身体を支えていた。
もう一度降ってきた唇を通して、『脱がせて下さい』と声が聞こえた。
ジッパーを下ろし、胸を肌蹴させる。
現れた褐色の厚い胸板に、僕は抱き締められた。

とくんとくんと、規則正しい鼓動が、僕より少し高めの体温と共に伝わってくる。
込み上げる感情のまま、強く抱き締めた。
すぐに、きゅっと抱き締め返される。

幸福な瞬間。
鼻の奥がつんとするが、まだ泣くのは早い。
これから嫌でも、沢山涙を流すのだ。
けれど、一滴としてシーツに浸みることは無い。
涙の原因のハーレイが唇で、舌ですべて受け止めてくれるから。

うなじに顔を埋めたハーレイの舌が、活動を開始する。
蠢く舌が生む、背筋を這い上がってくるぞくぞくとした快感。
震える僕は、吐息を漏らした。

活動を開始したのは、舌だけではない。
僕を抱き締めていた大きな手の片割れが、胸の突起を撫で抓む。
別行動を取った手は臀部をなぞり、足の間に至る。

ああ…はああ……… 

固くなり始めた僕を服の上から軽く掴み、上下に扱く。
駆け上がってくる甘い電流。
快感に仰け反らせた喉を、ハーレイの唇が吸った。

すっかり温まった僕の身体。
一旦身体を離し、ハーレイは下衣を剥ぎ取った。
腰を浮かせてそれに協力した僕を起こした。
ベッドの脇に座らせる。

僕の足をぐいと開くと、まだズボンを穿いたままのハーレイは跪いた。
内股に唇を押し当てて、少し出した舌で舐め上げた。
ちらりちらりと笑った視線を投げながら、足の間を動き回る。

ああっ…!ああっ…ん…はあ……!
喘ぐ自分の声は、好きではない。
僕は補聴器を外し、ベッドの反対側に投げた。

ハーレイの舌は、左の太股から膝、脛、足、指先。
指先から右へ。右は左の逆順を辿る。
指の間を這い回る生暖かい感触に、涙を流す僕自身。
放っておかれるのに耐え切れず、伸ばした手はやんわりと掴まれシーツに戻される。
右の太股に達する頃には僕はもう我慢の限界で、吐息混じりに願った。 

もう…我慢出来…ない……! 
…ん…ハーレイ…っ! 

すっかり立ち上がり、涙か涎か判別付かないものを溢れさせる"僕"を
ハーレイは一気に咥えた。 

う…はあ……っっ!
高く啼いて、僕は快楽の源を抱え込んだ。
背を丸め、両腕で金髪を抱く。 

手と口で急速に昇り詰めさせられ、僕はハーレイの口の中に精を吐き出した。

荒い息と共に溢れた涙はやはり、頬を伝っている間にハーレイの唇に吸い込まれた。
ぐったりとベッドに身体を投げ出した僕の目の前で、素早くハーレイが下衣を脱ぐ。
脇に立つ、浅黒い立派な体躯に見蕩れた。

「そんなに、見ないでください」
「なぜ…?ハーレイは、とても綺麗だよ」 

ぷっと吹き出したハーレイは、台詞が反対ではありませんか?と言う。
僕は大好きだよ、と言い募れば、身体がですか?と訊いてくる。

「うんそう、身体だけ」
そう答えて、笑って手を伸ばした。


愛してる
愛してる


またベッドが軋んだ。
覆い被さってくるハーレイに、心地好い重みを感じる。


愛してる
愛してる

心から


その思念の呟きは、どちらのものか判らないけれど。
僕の青の間に広がり、いつまでも響いていた。











------------------------------------------ 16話鑑賞前。 どうしても幸せなハレブルが見たくて… 20070721