六







多聞は晴を堪能し尽くすと、唇を離した。
すっかり力が抜けた身体を抱え、立たせる。
数歩下がると、手で朱卓の上を払い、皿や銚子を畳に落とした。
器が派手な音を立てるが気にすることなく、平らになった卓に腰を下ろす。
そして一言「脱げ」と告げた。

部屋には行燈が灯っている。
昼間のようではないが、充分に明るい。
晴は一瞬顔を強ばらせたが、震える手で帯を解き始めた。

しゅるしゅる。
衣擦れの音が響く。
解いた帯を纏めようとした晴に、また言葉が飛んだ。

「脱ぎ捨てておけ」

晴の足下に帯が落ちる。
続いて、着物。
少し遅れて襦袢が落ちてたぐまり、小さな山を作った。

「隠すなよ」

既に横を向いて、朱に染まった頬を見せていた晴だったが、唇が見えずとも
前を手で覆うことはない。
両手は身体の横で拳を作っていた。
勃起した自身を晒している。
「良く仕込んだもんだ」と多聞は嘯いた。

羞恥で晴の身体は震えていた。
だが、身体を隠さないことと、目を逸らさないこと―――夜ごとにあの板の間で
言われたことを思い出し、顔を上げる。

ゆっくりと正面を見た。
多聞は、笑っていた。

「………来い」

足を開いて、自ら着物の裾を捲り上げるその姿に。
皆まで言われなくとも、分かった。

晴は多聞の太股の間に正座すると、膨らみつつあるものを掴む。
ちらと上を見れば、笑う視線がその先を促した。
晴はぎゅっと目を瞑り、多聞のものを銜えた。





「…ん……ん……ふ……」

足の間で上下する晴の頭を見下ろす。
まだ前髪すら落としていない。
もっともこの御時世というヤツで、髷を結わない男も少なくない。
実際、多聞もそうだ。
剃ったばかりの青い頭もそれはそれで色があるのだが、晴のこの黒髪を
多聞は惜しいと感じた。

艶やかな前髪―――成人していない証。
自分のものを一心不乱に舐めるこの少年は、果たして女を知っているのだろうか。
多聞はそんなことを考えていた。





拙いながらも、晴の舌や唇は的確に男のツボを押さえていた。
多聞を追い立てる為に動きやすいよう尻が上がり、四つん這いになっていく。
晴は唇の動きに合わせ、右手で棹を扱き上げるのだった。

急に髪を掴まれる。
ぐっと喉の奥まで押し込まれかかと思うと、抜ける寸前まで引っ張られた。
何度もそれを繰り返され、次第にその速さが増していく。

「んっ!ん…ぅぶ…っ!」

そうして―――。
吐き気を覚える程奥まで銜えさせられたかと思うと、口の中で多聞が膨らんだ。
それが喉の奥で弾ける。
青臭い精の匂いが鼻に抜けた。

髪を解放され、身体を起こした晴は手の甲で口の端から零れた唾液と精を拭う。
芯は抜けたがまだ膨らんだままの分身を隠すことなく、多聞は言った。

「こっちに尻を向けな」

舐めてやる。
晴に嫌は無い。
四つん這いのまま、身体を回した。

差し向けた尻をぺちんと叩かれて、頭を下げる。
夜な夜な強要された姿勢だが、慣れることなど無かった。
決して他人に見せるべきではない場所を、晒すのだから。

だが、自分は否と答えることはもう出来ないのだ。

晴は低く頭を下げ、畳に頬を当てた。
獣よりも屈辱的な格好をとる。

「…いい子だ」

多聞の掌が、尻たぶを撫で回す。
初めは気持ち悪さしか感じなかったのに。
今の晴は他人の手の温度から、這い回る感触から快感を拾うようになっていた。
唇を噛んで、熱い吐息を堪える。

「…っ、……っ…ぅ…」

やわやわと揉んでいた手が、それをぐっと左右に開いた。
次に来た柔らかい濡れた感触に息が漏れる。

「―――ぅ…!」

窄まりを舌先が舐め回す。
皺を伸ばすように唾を塗り込まれた。
身体がびくびくと跳ねる。

すぐに指が当てられた。
柔らかい腹で中心を押す。
一旦離れたが、それはあっという間により滑るものを纏って戻った。

人差し指だろうか。
ぐいっと押し込まれた。
晴が、跳ねる。





丁字油を塗った人差し指を半寸ほど挿し入れた多聞は、それをくりくりと
動かした。
廻すたびに晴がびくびくと身体を捩る。

まだ蕾は固かった。
だが。
足の間に手を伸ばす。
双果は縮こまり、茎は勃ったままだった。
するすると先端まで指を伸ばすと、鈴口には先走りが溜まっている。

両手を離して、背中から覆い被さった。
耳朶を噛んで囁いてやる。

「…気持ちいいのか…?」

畳に顔を押しつけたまま、こくっと晴は頷いた。
ぺろりと耳を舐めれば、また震える。
多聞は再び尻に戻ると、今度は中指に丁字油を纏わせ、一気に突き立てた。





毎夜満倉に、あるいは己で解した孔はすんなりと長い指を呑み込んだ。
痛みは殆ど無い。
付け根まで押し込まれ、回転しながら出し入れされる。

「…っん……んっ…」

人差し指が足され、一度に2本が出たり入ったりを繰り返した。
内壁が抉られ、引きずり出されるような感じに、晴の指が畳を掻く。

中を広げるようにばらばらに蠢いていたそれらが、急に止まった。
その場所に、晴は息を止め、唇を噛む。

「―――っ…ぅぅぅぅ…っ!」

前立腺を押され、無理矢理与えられる強い快感に腰が逃げた。
だがそれは前を掴む多聞の手に、強ばった自身を押しつける結果になる。
既に開き出していた鈴口に爪を立てられ、あっという間に登り詰めた。

「―――ぅぅっ!!!」

汚した畳に身体が崩れ落ちる。
太股に広がる濡れた感触。
不快感を覚える前に、身体が浮いた。

荷物か何かのように肩に担ぎ上げられる。
吐精したばかりで力の入らない晴は、されるがままであった。

多聞は勢い良く障子を開く。
晴の目に、大量の朱色が飛び込んできた。

あまり広くはない奥の間は緋色の布団が敷き詰められ、四隅に行燈が置かれている。
その中心に晴を投げ出すと、多聞は自分も着物を脱ぎ捨てた。
隆と勃つ肉茎の大きさに目眩がする。

それは不安と、期待から生じるもので。
想像する痛みにがたがたと震えるのに、晴の身体の奥は疼いた。

だが―――。
多聞が見せつけるように己のものを扱き上げる。
するとそれは更に太さと長さを増した。

晴の中で恐怖が凌駕する。
逃げようと捩った身体は、馬乗りになった多聞に押さえつけられた。
尚も暴れると、きつく頬を張られる。
意識が飛びそうなくらいの強さで叩かれ、晴の手足は布団に落ちた。

顎を獲られ、唇を重ねられる。
頬がジンジンし、血の味がした。

同じものを味わった多聞の舌が下がっていく。
喉、うなじ、鎖骨。
胸の突起を銜え、嬲る。
両の掌が脇腹をくすぐると、晴の身体が熱を帯びていく。

こんな状態で…!
唇を噛むが火をつけられた身体は心を裏切り、多聞の愛撫に従順に
反応していった。

「…っ…は…っ!」

頭を振り、快感から逃れようとする。
だが、尻の谷間に指が這い出すと、もうどうしようもなかった。

腰を上げ、多聞に勃起した自分を擦り付けるように動かしてしまう。
頭の隅で理性が悲鳴を上げているが、聞き入れることが出来ない。

「欲しいか…?」と耳元で囁かれ、何度も頷く。
怖くて堪らないというのに…。

足を広げるように、膝裏を持たされた。
前髪を掴んで、顔を上げさせられる。
腹につく程勃ち上がり、涎を流す自分の向こうで―――。
丁字油を塗られて光る多聞のものが、当てられた。





ゆっくりと突き入れた。
つい先刻解したものの、今だ固く閉ざされた肉を割り開いていく。
晴の身体の震えが次第に大きくなっていく。

「…っ、―――!!」

ほんの少しだけ入れたところで、ぐるりと腰を廻した。
無理矢理口を開かされた窄まりが、異物を吐き出そうしているかのように蠢く。
しかしそれは、犯そうという多聞にとっては「欲しい」と誘っているようにしか
見えなかった。

にやりと笑い、カリの貼った一番太い部分をぐいと押し込む。
瞬間、多聞の腕を掴む晴の指の関節が白くなった。
押しつけるように与えられている痛みを伝えようとでもいうのか、筋肉の
固まりのような腕に爪を立てている。

多聞は侵入を止め、晴の顔を覗き込んだ。
小刻みに震える唇はきつく噛み締めた歯をその内に潜ませ、ぎゅっと閉じられた瞼は
涙を隠している。

いい表情だ。
多聞は満足げに笑うと、入れた先端を浅く出し入れした。

「―――っぅ!!」

晴の濡れた瞳が姿を現す。
同時に開いた唇からは苦しげな息が溢れ出した。

「……痛いか?」

晴はコクコクと頷く。

「…止めて欲しいか…?」

頷く瞳には、今にも零れそうに涙が溜まっていた。
問うたにも関わらず、多聞は腰を穿った。

「んぅ―――っ!」

声が出たのなら、高い悲鳴を上げたことだろう。
しかしそれを生まれたときから失っている晴は、苦しそうに顔を横に振るだけしか
出来ない。

「動かないで欲しいか?抜いて欲しいか…?」

乱れた息のひとつも吐かない多聞の言葉に、晴の唇が動いた。
助けて…と。

多聞はその震える頬を愛おしげに撫でた。
そして―――言った。

「駄目だ。これがお前の仕事だろう…」

痛みを味わえ。
一言そう続けると、侵入を再開する。

多聞の高ぶりが、誰も触れたことのない細い肉を引き裂いていく。
その度に、晴の唇が某かの音のない言葉と共に苦しげな息を零す。

「…っ!……ぅっ!!」

半ばを過ぎ、多聞の陰毛が肌に触れた。
しかし、晴にはそんな感触を覚えている余裕はない。
ひたすらに痛みに耐えるしかない。

ついに。
根本まで押し込まれた。
腰が密着した瞬間、晴の瞳から涙が零れたのだった。
























続く











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