銀の塊を見つけたのは、桜の木の下。
シャングリラにたった一本だけある大きな木。
結構な老木だ。

今が盛りの満開の花。
木は薄い紅色に包まれていた。

はらり、はらり。
時折、花弁が舞い落ちる。

彼の思念を追って辿り着いたハーレイは、その傍らにそうっと膝を付く。
銀のマントを身体に巻きつけるようにして、老木の根元で横になっていた。

眠っている。

横を向いて、柔らかい芝生に銀糸を落としている。
両の腕と足は自然な形で投げ出されていた。
桜を愛でているうちに、急な睡魔に襲われたのだろうか。
座ったまま眠ってしまい、崩れ落ちたような格好だった。

規則的な小さい吐息。
ゆっくりと上下する胸。
閉じられた瞼も、薄く開いた唇も、ブルーが本当に良く眠っていることを
表していた。

ハーレイは、柔らかい銀糸を撫でる。
顔に掛かるくせっ毛を、指先で除けた。

ちょっと長いだろうか。
また切って差し上げなければ。
髪を撫でながら、ハーレイはそう思う。

ひらり。
薄紅が目の前を過ぎる。
それは宙を踊りながら、ゆっくりと舞い降りた。

柔らかい色合いの花弁が着地した場所を見て、ハーレイの唇が弧を描く。
それは緩やかな呼気に、微かに揺れた。
取り去ろうとしたハーレイは手を止める。

ブルーの唇と、桜。
こわれもののような綺麗な唇に、薄くて儚い桜の花びら。

無骨な己の指では、似つかわしくない気がして。
伸ばした手を戻した。

す…。
ハーレイは身体を屈めた。
ぎりぎり触れない位置で唇を止め、舌を伸ばす。
ブルーの目覚める気配はない。

身体を起こしたハーレイは、舐め取った花弁を口に含んだ。
口内に広がる、優しい香り。

桜の香りか…。
いや―――憶えのある気がした。

ハーレイは、ブルーを見下ろす。
微かに聞こえる音で気づいた。

これは―――ブルーの吐息。
熱い息の香りだ。

この唇を割って、零れるもの。
自分だけがそれを呼び起こす事が出来るもの。
ハーレイの指先は、愛おしげに薄い唇をなぞった。

「……ぅう…ん…」

ブルーの瞼が震える。
ハーレイは優しく囁いた。

さあ、ここに頭を乗せて。
もう少しお休み下さい。
私が―――傍にいますから。

「…うん…」

目覚めることなく、ブルーの意識は再び沈む。
太股に乗せた小さい頭を、ハーレイはずっと撫ぜていたのだった。
















---------------------------------------------------- 20090111(日記からサルベージ) あなたの時間 僅かな、ほんの僅かしかない独りの時間 それを私は守りましょう