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「ん…ぅふ…ん……ん…ぁ…ぅう……」

そのくぐもった声は、床の上から聞こえてくる。
椅子に腰掛け、琥珀色の液体の入ったグラスを煽るキースは、その色を帯びた声を耳にして笑った。

「辛いか、ブルー?」

きつく唇を噛み締めたブルーが、真紅の瞳で睨みつける。
そんな当たり前のことを…!

後ろ手にされた腕は、拘束するバネによって肩甲骨の間まで捩じ上げられ痛みすら感じる状態。
後孔に捻じ込まれている玩具はずっと不規則な振動を続けていた。
蠢く男性の性器を模した器具は絶え間ない快感を与えてくるが、決定的なものはもたらさない。
一番弱い部分を嬲られ続け、しかも吐き出すまでは至らないという生殺しの状態でもう2時間が
経過していた。

全裸の身体は薄いピンクに染まり、胸の両の飾りは尖りきって床に擦れる刺激でさえ快楽に変える。
ブルーは苦悶の表情を浮かべたまま、熱に浮かされた吐息を零していた。

「辛いようだな…」

キースの言葉は、暗にある台詞を要求している。
それを理解しているブルーは決して口を開くまいと、前歯で下唇を噛んだ。

震える少年の身体に例えようの無い興奮を覚え、キースは席を立った。
近寄り膝を付くと、血の滲む唇を指でなぞる。
そのまま頬を撫でれば、その腕から逃れようとするかのようにブルーは顔を逸らした。

実際、逃げたのだ。
唇や頬に触れる指先でさえ、刺激になってしまう己の身体。
泣き言を零してしまいそうになる。

それが手に取るように分かるキースの唇は弧を描き、この愛しい強情な者に更なる快楽を与えんと
唇を寄せた。
仰向けにし、耳を吸い、舐め、両の真っ赤な突起を潰す。

「ひ…っ…ああああぅあああ…っ」

細い両下肢はぴんと伸び、爪先まで力が入っている。
射精を求める強い快感が、見開かれた赤い瞳から涙を溢れさせた。。

「薬をもう一本…足そうか…」

そうすれば、素直になれるだろう?
キースの言葉に、ブルーは必死に首を横に振る。
まるで失禁でもしたかのように先走りを溢れさせ続ける強張りを撫でられ、身体がガクガクと
震えた。



もう耐えられない。
あの一言だけで、この地獄から逃れられるなら。
この上"薬"の追加など…!
あの言葉以外の、もっと耐え難い台詞を自ら吐く様になってしまう前に―――――



「も…許して…」

キースはブルーに顔を寄せ、髪を撫でた。

「そんなに苦しいのか?」

ブルーは頷く。

「そんなに…イイか?」

キースの言葉に何度も頷いた。
そんなブルーに、キースの笑みが深くなる。

「じゃあ―――」



独りでイってみせろ。



はっとするブルーに言葉を注ぐ。

手を使わずに、俺の目の前で。
コレを使えば出来るだろう?

キースの手が後ろに伸び、咥え込まされている玩具の取っ手に触れた。

俺の目の前で腰を振って見せろよ。
善がって啼いて、溢れさせてみろ。

笑いながらそう云い、テーブルに戻る。
再びグラスを手に取った。

キースの言う行為を想像して、そのおぞましさに肌が粟立つ。

そんなものを見せろというのか、この男は…。
どこまで自分を辱め、貶めれば気が済む…?
サイオンさえあったなら―――――こんな屈辱を受けはしない…決して…!

殺してやる…。
そう睨みつければ、まっすぐ視線を受け止めたキースは、グラスを煽った。
中身を含んだまま嚥下せず、再び歩み寄ったブルーの髪を掴み、唇を覆う。

「んっ!」

身を捩る動きを封じ、液体を流し込む。
つ…琥珀色が一筋、白い咽喉を伝った。
キースは飲み込もうとしないブルーの鼻を摘み、無理やり咽喉の奥へと押し込む。
小さな咽喉仏が上下するまで、キースは手を離さなかった。

口を離すと、至近距離から真っ赤な燃える瞳を覗き込む。
欲情し濡れた紅に激しい怒りを見て取り、キースの唇が弧を描いた。

「いい顔だな、ブルー」
「……………」
「強情を張り続けるのもいいが、俺は解放してやらないぞ?これから一晩中その玩具に
 苛まれていたいか?」
「――――!」
「お前が自慰しない限り、明日も明後日も突っ込んだままだ。それが耐えられるなら―――」

そうしているといい。
椅子に戻り、腰を下ろす。深く腰掛け、長い足を組んだ。

さあ、どうする?
揶揄する視線を受けて、白くなるまで唇を噛んだブルーだったが、胎内で震える物体の刺激を
これ以上堪えることができない事も分かっていた。

肩を使って、後ろ手に拘束された不自由な身体を起こす。
震える踵を、秘所から突き出た玩具に何とか当てた。
起き上がりながら、正座を崩した格好で体重を掛けていく。

「…んっ…くぅ…っ!」

無機質な物体が身体の深い場所に入り込んでくるのを感じた。
はぁっと息を吐き、腰をグラインドさせる。
硬い棒が内壁を抉り、押し広げる感覚に、身体が震えた。

「ふ…っ…あぁ…っ!んっ…」

腰を揺らめかせる毎に、電流が走る。
噛み締めた唇を割り、喘ぎ声が上がり始めた。

「あっ!…はぁ…っ…ふ…んっ!」

ブルーはより強い快感を求めて腰を上下させ、左右に振った。
ぐるりと回せば、棒が胎内を押し広げる快感に、胸を逸らせ、顔を仰け反らせる。
高い声が響いた。

「ああぁ…っ、あ、ひぅ…!」
「…上手いもんだ。貪るって表現がぴったりだな、ブルー」
「くぁ…っ、はあぅ…い…いあ…んんっ!」

天を突くブルー自身は腹につく角度で勃ち上がり、身体を揺するたびにひっきりなしに
透明な蜜を零す。
くちゃ、ぐちゃという淫靡な水音と共に、嬌声が部屋に響き渡った。

「ひっ…うぁ……く…っ、も……ああぅ…っ…ああぁあああ…ん…っ!」

振り乱した銀糸から汗を飛び散らせ、ブルーは後ろに倒れる。
白濁を吐き出した身体の内部では、玩具が無慈悲にもブルーの良い部分を責め続けていた。
跳ね上がる細い身体は、びくびくと何度も白い液体を溢れさせる。

その乱れ切った様子に満足の笑みを浮かべたキースは、玩具のスイッチを切ると立ち上がった。
近寄り膝を折ると、ずるりと引き抜き投げ捨てる。
その刺激に再び身体を震わせたブルーの唇を舐め上げ、頬を撫でた。
ブル−は荒い息を吐くばかりで、抗う素振りも無かった。

立て。
キースはブルーの濡れた髪を掴み、ぐいと引き上げる。
くぐもった悲鳴を上げ、ブルーは立ち上がった。
磨き上げられた巨大なガラス窓の前まで引き摺っていき、手をつくように命じる。

「ほら、さっさとしろ」
「―――あっ!」

尻を叩かれ、ブルーはノロノロと従った。
漆黒の宇宙を背景に、ガラスに己の姿が映る。
浮かび上がった白い肢体。
骨ばって、貧相な身体。
ひょろひょろと長い手足は細すぎ、とても男性の身体の一部とは思えない。

しかも―――首筋といわず、胸といわず赤く色を変えた皮膚。
色付いて尖り切った胸の飾りと共に、淫らしく猥らで、正視に耐えない。

ブルーは視線を下げた。

曇り一つ無いガラスは、肉付きの薄い太股の間も映している。
そこに下がっているものは、勢いを失い白濁に塗れた姿を晒していた。

「……いやらしい身体だな」

背後に立ったキースが呟く。
男といわず、女といわず、誘われずにはいられない。
手を伸ばして、組み敷いて、力ずくで開いて犯したくなる。
―――そんな身体だ、お前は。

ブルーの口を無理やり抉じ開け、指を差し入れた。
咥内で蠢かせ、舌を口蓋を弄る。
唾液が口角から零れ、キースの腕を伝った。
空いた手は胸の突起を押し潰している。

「んっ…ふ…っ、ぁ…」

引き抜いた指で背筋をなぞり、尻の谷間を割った。
機械で自慰に耽った秘所は弛み、物欲しげに蠢いている。
それを言葉で伝えてやれば、ブルーは低く呻いて目を閉じた。

「駄目だ、見ろ」

顎を掴んで正面に向け、目を開けさせる。
抗うことの出来ないことを知るブルーは、キースの言葉に従った。
ああ。
見たくない己の姿を瞳に映した途端、腰を引かれた。
縋りつくような格好で、ガラス窓に掌から肘まで付く。
大きく開かされた足の間に入り込んだキースが、自身をいきなり突き立てた。

「ひあ…っ!」

押し入れられた圧倒的な質量に、ブルーの背は軋むように仰け反る。
秘孔内部を擦られ、感じたものは強い快感。
根元まで捩じ込まれたものは、すぐにずるりと引き戻され、律動を開始する。

「あぁっ…う…くぅ…っ…はぁっ…!」
「…絡み、付いてくる…」
「ひぅ…あ、くぁ……はぅ…んんっ…い…っ」

為すすべなく揺さぶられるブルーは、途切れ途切れの喘ぎ声を出すことしか出来ない。
強制的に与えられる快楽に、頭の芯が痺れるのを感じていた。

啼きながら、ゆっくりと瞼を押し上げる。
暗い宇宙に浮かぶような自分。

だらしなく開いた唇に、惚けた顔。
憎い男が与える快楽に支配されつつある己の姿。
欲望を吐き出したばかりだというのに、もう下腹部の暗い部分でそそり立ち、先端だけでなく幹や
興奮で縮こまった部分までぬらぬらと光っている。

本当に淫靡らしい身体だ。
揺さぶられ、快感に震えながら、ブルーは思う。

キースが突き立てる角度を変えた。
更に強い快感が全身を走る。
猛り勃った先端のスリットから雫が盛り上がり、振動で零れた。
信じられないほど長い糸を引いて、それは落ちていく。
ブルーはガラス越しに、ぼんやりとそれを見つめていた。




















----------------------------------- 20071224 肉の欲のみに従って その瞬間だけが真実なのかもしれない