rainy day 空を鈍い灰色の雲が覆っていた。 ところどころ切れ間は、姿を見せない陽の光を通して白く変色しているが 止む様子はない。 予報どおり終日雨降りなのだろう。 しとしとと、雨が降る。 静かに、雨が降る。 窓の傍で横になっているソロモンから見えるのは、鈍色の雲と ガラス窓を滑り落ちる幾すじかの雨粒だけ。 ゆっくりと、雲が動いている。 同じもの一つないその様子を、飽きることなく眺めた。 ふいに。 視界が黒に覆われた。 その黒は、ふんわり暖かかった。 自分の手を重ねる。 己のものよりも一回りも大きい。 暖かくて、大きくて。 少し乾いた、心地好い肌触りに思わず笑みが零れた。 輪郭を人差し指でなぞると、くすぐったいのか微かに笑う声がした。 兄の手を外し、顔を逸らした。 本を片手に座るアンシェルの上半身がすぐ近くに見える。 珈琲を入れてくれ。 アンシェルは自分の膝に頭を預け、ソファーで横になるソロモンに言った。 はい、と立ち上がったソロモンは、つと振り返り身を屈める。 ソファーの背もたれに手をつきながら、僅かに触れるようなキスを 1つ落とすと、キッチンに消えた。 深い森の中の一軒家。 二人の静かな一日。 |