桃が食べたい。




ハーレイの意識に飛び込んできた言葉。
声の主を思い、苦笑が出た。

15年も休んでおられたのに、そういうところは全く変わっていない。
我儘で、甘えんぼで。
人の立場を考えず、欲求に素直で。

でもそれはハーレイにだけ見せる姿、ハーレイにだけ向ける言葉で。
そんな事を言われたら―――――断ることなど出来ない……

ハーレイは状況を確認する。
艦内は酷い有様だが使用不可能な部分は隔壁で遮断し、危険は無い様に
手を打った。
怪我人の収容も終了し、心配なのはナスカの方だけになっている。

また、あのメンバーズ・エリートに逃げられてから大分経つ。
警戒エリアからも外れ、基地に戻ったらしいが動きは読めない。

だがいずれにしろ、時間はあった。
あの男が準備を整え、再びナスカに戻るまでにはまだかなり掛かるだろうから。

「すまんが、少し席を外す」

ハーレイはブリッジを後にした。










― 桃 ―









青の間に着くなり、『桃は?』と問われた。
籠を持ち上げて見せれば、嬉しそうに笑う。
公園に在る桃が、実を付けているのに気が付いたのだろう。
目敏いことだ、ハーレイは呟く。



彼が目覚めて、3日が過ぎた。



直後は艦内の混乱もあり、話をする間もなかった。
ブルーはブルーで、ドクターの厳しい監視下医療ルームに軟禁状態で、
逢う事もままならない。
「体力的にはかなり弱っているが、投薬で無理に回復させても良い結果は
得られない」との診断が下り、ようやく青の間に戻ったのが、今朝だった。



「いつ気が付かれたのですか?」
「さっき。公園に行ったんだ」
「でしたら、その時―――――」
「僕が自分で採りに木に登ったら、ハーレイは怒るだろう?」
「勿論です!」

そのあまりの早い返答っぷりにブルーは拭き出した。
ベッドの上で、背中を丸め笑い転げている。

改めて、良かったという思いが込み上げてくる。
目覚めるタイミングとしては最悪だったけれど、それでも、あのまま
朽ちてしまわれるよりはずっとマシだと。

ハーレイは籠をベッドサイドに置き、中から一つ手に取った。
持参したナイフを皮にあて、くるりと回して切れ目を入れる。
それから両手で桃を覆い、ゆっくりとねじった。
綺麗に二つに分かれる桃。
皮と種を取り除いて、小さな櫛形にして口に入れてやる。

「ん……甘い」

ブルーは一つ飲み込むと、口を開いた。
ゆっくりと順番に差し入れる。

最後の一切れに辿り着くまで20分ほど掛かった。
すっかり温まった桃を小鳥の雛のような口に落とし込み、手を洗おうと
席を立つ。
すると「まだ、あるよ」と左手を掴まれた。

「もう一つですか?」
「ううん」
「―――!」

指先をブルーの舌が這う。
ハーレイの手についた桃の果汁を舐め取っていく。
目の前で繰り広げられる光景とその感触の甘やかさに、ハーレイの息が弾む。
左手を舐め尽し、右に手を伸ばされた瞬間、ブルーを押し倒していた。

激しい運動は、厳禁。
それは理解していたけれど、我慢が出来なかった。

圧し掛かり、唇を重ねる。
変わらない柔らかい感触。
桃の甘い香りが伝わって来た。

小鳥が啄ばむように細かくキスをする。
少しでも唇を離すと、ブルーは頭を持ち上げ口づけをせがむ。

なんて愛おしい…
口づけは次第に深くなり、互いに絡ませた舌が粘着質の水音を立てた。

ちゅっという音と共に唇を解放する。
ブルーの息が上がっていた。

「…右手を、出して…」

逆らえず、ハーレイはブルーの口の中に親指を入れた。

ん…ふ…んん………
ブルーは美味しそうにしゃぶる。
ハーレイの手首を両手で掴み、一本一本口に入れていく。
その間も目が合えば、微笑んで。

耐え切れず、手を外そうとしても「まだ駄目だよ。シーツが汚れてしまう
だろう?」などと言ってハーレイの自由にさせない。
小指を済ませ、手のひらを犬がするかのようにぺろんと舐めて綺麗に
し終わる頃には、ハーレイの身体は小刻みに震えていた。

至近距離の濃褐色の瞳に隠しようの無い欲情を認めて、ブルーは微笑み、
囁いた。

「…僕が、欲しい…?」
「……ええ」
「…我慢出来ないほど?」
「…ええ」
「―――――ずっと…欲しかった?」
「ええ…!15年間、ずっと…あなたが欲しかった…!」

ハーレイは小さく叫ぶと、白い頬を両手で挟み激しく口づけた。













彼は変わっていなかった。
昔と変わらず耳が弱く、小さなすぼまりに舌を入れると、
背中を逸らせ震える。
首筋も、耳の下から少しだけ自己主張する喉仏まで唇を這わせると、
ああっ…!と感極まった声が上がった。

胸の突起を舐めて、吸って、抓んで。
その度ごとに、声色が変わる。

臍に口づけ、その脇に印を付ける。
わき腹を同時に撫でれば、うん…っと声を出しハーレイの髪を掴む。

白い肌は桜色に染まり、唇からはひっきりなしに嬌声が零れた。
その頃になると、ブルーはささやかな茂みから起立し、ハーレイを誘う。
根元を掴み、口づけた。

「ひあ…っ!」

溢れる透明を舐め取り、咥える。
幾度も動かさないうちに、ブルーは精を吐き出した。
全てを飲み込み、内股にも印を付ける。

再び圧し掛かり、汗に濡れた銀の髪をかきあげた。
赤く色を変えた瞳。
その眦に堪った涙も舐め取る。

今だけは、彼の全ては私のものだから。

ぎゅっと抱き締め、口づける。
今だ漂う桃の香り。
ハーレイのキスは深くなる。

口づける角度を変えた時、くいっと胸板を押された。
少し身体を放し、『どうしたのですか?』思念で問えば、濡れた瞳でブルーが
答えた。

「ハーレイ……僕も欲しかった……」

君を求めてた、ずっと。
ブルーは褐色の首に手を回し、自ら口づけた。

この気持ちを分かって欲しい、と。
同じくらい自分も焦がれていたということを。

その伝わって来る思いの熱さに、ハーレイは幸せを噛み締める。
生きていてくれて、良かった……!

しかし、理性がハーレイを押し止める。
目覚めたばかりのブルーの身体に、"行為"は激し過ぎるから。

これ以上されては、戻れなくなってしまう。
ハーレイは身体を放そうとするが、ブルーは手を解かない。

求めて、求められて。
とても、辛いけれど。
それでも止めて欲しいと頼めば―――――ブルーは手を放した。

「…すみません」
「………僕は……欲しいんだよ……ハーレイが…」
「…ブルー…」
「もう、君を待たさせるのは、嫌なんだ……」
「……………」
「君が、欲しいよ……ハーレイ…」

ハーレイの理性は、ぷっつりと切れた。
小さなブルーを横向きに後ろから抱き、双丘を割る。
そっとすぼまりに触れ、指で解していく。

「ん…あ……ああ…ん…」

喘ぐ口に手を入れ、唾液を絡ませると、再び固くなり出したブルー自身を
撫でる。
後ろと前からのむず痒いような快感に、白い背中が震えた。

「はっ…ああ…っ!うあ…んあ…っ……ハー…レイ…っ…あああっ…」

1本だった指が3本になり、ブルー自身が透明な先走りを溢れさせるように
なると、ブルーは頭を振る。
もう限界が近いことを示していた。
ハーレイは、指の代わりにすっかり固く熱を持った自身をゆっくりと
飲み込ませていく。
くずくずに融けて、自分と同じくらい熱くなっている秘所も、その心地好さも
記憶のままで。
ハーレイは突き上げたい衝動を必至で抑えた。

「んっ!は…あ…あ……ああ…」

全てを受け入れると、ブルーは上半身を捩って口づけを求めた。
応えたハーレイは唇を重ねたまま、腰を密着させた状態で揺すった。

「あああああっ!」

ブルーは背中を逸らせ、高く啼く。
その細い身体を抱き締め、ハーレイは腰を動かした。
傷つけないように、そっと。
そっと。















ブルーはもう一度昇り詰め、精を吐き出すと意識を飛ばした。
このまま眠らせてあげたいけれど、恐怖心がハーレイを襲う。

また、眠って、眠って、眠って。
目覚められなかったら……

温かく湿らせたタオルでブルーの身体を拭い後始末を済ませると、
ハーレイはブルーを起こした。

起きて下さい、ブルー。
耳元で囁き、薄い肩をそっと揺さぶる。

身じろぎし、う…んと発した声が掠れていることに気がついて。
ハーレイは口に水を含むと、ブルーを抱え上げ口づけた。

少しずつ水を注ぐ。
こくん、こくんと嚥下するごとに、ブルーの瞼が開いた。
だらんと脱力していた手が、ぎゅっとハーレイを掴む。

「…ハー…レイ…」
「はい」
「また…眠ってしまうのかと…思った」

掴む手に力が篭もる。

「大丈夫です。私が起こして差し上げます」

同じ不安を抱いていた愛しい人を、抱き締める。
大丈夫だと。
傍にいると。

「今度は、私が無理やりにでも起こしますよ」

その口調にブルーが顔を上げた。

「待たされるのは、こりごりです。あなたの寝顔も見飽きましたし」

優しい笑顔に、ブルーは伸び上がって口づける。
ごめん、とも、ありがとう、とも形容しがたい思いを込めて。






「お手柔らかに頼むよ」
「それはお約束出来かねます。あなたは寝起きが宜しくありませんから」
「そんなことは無いよ」
「いいえ。ご自分では分からないのです。私がこれまでどれほど
 蹴られたと―――――」






二人の会話は続く。
青の間に呼び出しが掛かるまで、その声は続いた。

















----------------------------------- 運命の17話放送当日の朝。 耐え切れなくて妄想。 20070728