NYのセントラルパーク。 夜の帳が下りて、大分経つ。 この眠らない街でも、その人口の大部分は既に夢の世界の住人と化しているであろう時間に――― 黒衣のソロモンは、ある窓を見上げていた。 NYでも老舗のホテルの最上階。 いまだ明かりの灯る、いや、彼が滞在する限りその窓から光が消えることは無い。 どこにいても・・・彼の居場所は分かる。 彼の気配を、息遣いを感じる。 ディーヴァや、己の心を激しく掻き乱す小夜でさえ、そんなことは稀だというのに。 何故・・・? 答えは見つからない。 こうして傍へ来ると、精神は落ち着き、穏やかで安らいだ気分になる。 彼に刃を向けた今でも、それは変わらない。 答えは、間違いなく自分の中に在る。 それを見つけたくないのかもしれない・・・・・ もう少し精神医学を学んでおけば良かったかな。 ソロモンは、己の心の不可解に触れ、そう思う。 周りの建物が明るい所為で、より深い闇を湛える公園内でごく小さな炎。 ソロモンはマルボロのソフトケースを胸のポケットに戻した。 ふうっと煙を吐き出す。 白い煙は、強くなりつつある風に千切れてあっという間に姿を消した。 いつだったか。 あの部屋で、葉巻を燻らしていた彼に合わせ煙草を取り出した時。 ―――そんなものはおまえに似合わない。 ―――葉巻のほうがもっと似合わないんですよ、ぼくは。 そう答えた自分に、仕様の無いやつだという風に笑ってみせた、その顔が忘れられなくて。 以来、定期的にマルボロを購入してきた。 だが、それももうしていない。 小夜に出会ってしまったから。 彼女の為に生き、共に歩んでいくと決めたから。 けれど、この身体の奥底から込み上げてくる思いのあまりの激しさに、ふと疑念が浮かぶ。 これは本当に恋だろうか。 軽く手が触れただけで舞い上がってしまうような浮き立つものも無く、ただひたすらに彼女を求める この思いは一体・・・恋と呼べるものなのか・・・ 恋というなら、寧ろ――――― じゅっという低い音と、何かが焦げる匂い。 いや。 これは愛なのだ。恋などという生易しいものではない。 小夜への、尽きることの無い愛だから。 それに応えて欲しいと、貪欲に望むことは自然なことなのだ。 煙草を握りつぶした手をゆっくりと開く。 何の痕跡も無い、手のひら。 この素晴らしい身体を与えてくれたのは、確かに彼だけれど。 今は自分の行く手を遮るものでしかない。 一層強くなった風が、ソロモンの手から折れた吸殻を攫っていった。 「さようなら、兄さん」 今日は荒天だという。 それを証明するかのような風が、呟きとソロモンの身体を掻き消した。 |