Sweet compulsion













―――耳を食む。
やさしく、そっと。

ハーレイの腕の中で、白くしなやかな肢体が跳ねた。
薄く形の良い唇は色づき、半開きでひっきりなしに熱い吐息と掠れた声を零している。

ゆっくり、ゆっくりと蕩かせて、今は指先が触れるだけでも堪らないはずだ。
一度達せさせてから、もう一度時間を掛けてゆっくり解そう―――。

そう考えたハーレイが身体を動かすと、ベッドが微かに軋む音を立てた。
大事に大事に抱え込んでいた華奢な身体を、染み一つ無い真っ白なシーツに下ろす。
仰向けにし、ジッパーを下げて肌蹴させていた上衣に手を掛けた、その時―――。
ゆらりとベッドの上の空間が歪み、ハーレイの暗褐色の瞳が何かを認めた瞬間、
それはどさりと落ちてきた。

「―――っ?!」

自分を蕩かせていた指が止まっため、ゆっくりと瞼を開いたブルーの赤い瞳に
硬直したハーレイが映る。
「どうしたの…?」と熱い息のまま問えば、瞬きさえ忘れた恋人がようよう口を
開いた。

「…ビ…ビリーが…」

だが、それ以上言葉が続かない。
まだ熱に浮かされたブルーにはその言葉が何の意味を持つのか理解出来なかった。
凍り付いたままの視線を追って、ゆるゆると自分の脇に顔を向ける。
ルビーの瞳が"それ"を捉えた途端、ブルーもまた固まった。

自分の隣で、身体を丸めて眠る子供。
寝息で規則的に揺れる赤みがかった金髪に、先月自分が助け出して来た子だ…と
ぼんやり思い至る。

もう子供たちは眠っている時間だ。
遊び疲れて、養育セクションでぐっすりと…。

でも、ビリーはここにいて―――。

…ここに……。
この青の間に…。

どうしてここに…?

―――!

ブルーは目を見開いた。
半裸のまま、がばっと起き上がる。

有り得ない光景だった。
ハーレイと"こういう時間"を過ごす時、ブルーのシールドは疎かになる。
それを知る二人は青の間の非常装置――青の間だけを完全に遮断する――を
働かせているからだ。
物理的には勿論、最強のサイオンを持つブルーを持ってしても通り抜ける事も、
破壊することが出来ない檻―――の筈だった。
先月のチェックでも異常は見当たらなかったのに。

「どう…やって…」

ブルーの言葉に、ハーレイは「…わかりません」と声を絞り出すのが精一杯だった。
どのようにしてこの子が"この時間"の"この部屋"に飛んで来れたのか…。
さっぱり分からない。

ハーレイは酷く混乱していたが、それでも数回深呼吸して立ち上がった。
―――このままにしてはおけない。
それだけははっきりしていた。

己の少し乱れた襟元を直すと、細い背中に回り自分が脱がせた服を身につけるのを手伝い、
最後にきっちりジッパーを上げる。
さらに深呼吸して何とか気分を落ち着かせると、座ったままのブルーを見下ろした。
すうすうと気持ちよさ下に眠るビリーの横で―――まだ肌は上気したまま…。
ハーレイは息を呑んだ。
今のブルーは、自分以外の目に晒すのを躊躇うほどに煽情的であったから。

「…今あちらから人を呼ぶ訳にはいきませんので、私が抱えて連れていきましょう」
「…うん、そうだね…。でも―――」
「はい?」
「こんなに良く眠っていて、途中で起きてしまったら可哀想だな」
「大丈夫だとは思いますが…」

でも、そうっと運んであげて…。
言いながらブルーは、ピンク色の柔らかそうな頬に唇を寄せた。
ちゅ、とキスを落とすと、ビリーは身じろぎするけれど目を覚ます気配はない。

運ぶならよく眠っている今のうちだ、と思うのだけれど、ハーレイは色づいたままの
ブルーのうなじから目を離すことが出来なかった。
さっきまでの自分の行為を思い出す。
平気そうに振る舞っているけれど、ブルーはまだ―――。

「よく眠ってはいますが、途中で目を覚ましてしまったら驚くでしょう。
 では、こうしましょうか…」

ハーレイは養育セクションの宿直にテレパシーを飛ばした。
案の定すっかり眠りこけている彼に"付箋"を張り付ける。
ビリーは自分が預かっているから心配いらない。
後ほど送り届ける、と。

特殊なサイオンの使い方で、ハーレイが得意とする数少ないものの一つだった。
眠っている宿直の身体に、薄くしたサイオンにメッセージを乗せたものをくっつける。
目を覚ませば自然に宿直の意識に入り込み、メッセージを伝えるというものだ。

ハーレイが巧いのは、よく眠り込んでしまうブルーに使う頻度が高いからで―――。
それを自覚するブルーはくすくす笑いなが問う。

「どこに張り付けたんだい?」
「…ここですよ―――」

ベッドに腰を下ろしながら、ハーレイは静かにそっと、けれど素早く、長い腕で
細い身体を絡め取った。
驚いて息を呑んだブルーの左の肩口を、優しく食む。

「ちょっ―――!?ハーレイっ!?」
「…じっとして…」
「何してるんだ?!ビリーが傍に居るんだぞ!」
「し…静かに…。起きてしまうでしょう?」
「だから―――んんっ…!」
「…ブルー…」

まだ、おつらいでしょう…。
あなただけがイく方法で、して差し上げます―――。

抱え込んだブルーの口を左手で覆う。
同時に右手を足の付け根に置いた。
まだ形を保ったままのブルー自身を、一度握り込む。
びくんと跳ねた身体を膝の上に押さえ込み、素早く胸元の大きな飾りを摘むと
先ほど自分が閉じたジッパーを一気に引き下ろした。

手を差し込み、熱が冷めない肌をすっと撫下ろす。
尖ったままの胸の突起を摘むと、またしても身体が跳ねた。
その手を薄い身体に沿って、下に滑らせる。
素早く下穿きを寛がせ、手の平にブルーを収めた。

「ふ…、んんっ…」

ハーレイの掌に当たる息が、熱い。
それが、たまらない。
こんなことをしても自分の欲望は吐き出すことは出来ない。
寧ろ高い熱を帯びたそれは体内で嵩を増し、自分はつらくなるだけなのだけれど―――。
でも、己の腕の中で高まっていくブルーを感じる事は、ハーレイにとって
とても心地好いものであった。

「んぅっ、ぅ…ぅ…!」

動く範囲で頭を振り、口と自身にあるハーレイの大きな手を外そうともがくが、
その反抗は長くは続かない。
幾らも経たないうちに、押し返していた手は触れているだけになり、
はがそうと掴んで引いていた手も縋りついているだけになってしまう。
びくびくと跳ねる耳朶に唇を寄せ、ハーレイは囁いた。

「…気持ちいいでしょう…?」
「ぅぅっ、んん…っ」

ぎゅっと目を瞑って、ブルーは首を振る。
制止や拒否の言葉が頭の中に響いてくるけれど、すぐ目の前の細いうなじは真っ赤に
染まっていた。

もう、すぐだ―――。
きつく瞑った目尻に滲んだ涙を伸ばした舌先で拭い去り、追い上げる。
固く熱い茎を強めに擦り上げ、指先で先端をきゅっと摘んだ。
刺激で溢れ出した先走りをスリットに塗り込む。

「んんっ、んっ、ぅ…んぁ…ぁ…」

ブルーの身体の震えが大きくなり、押し殺した声が色づいた。
扱く自分の手に添えられたブルーの小さな手を取り、茎の下、双果に導く。

「自分で…」

そう囁けば、淫液に塗れた白い指が縮こまった袋を揉みしだく。
くち…という音が絶え間なく聞え出すと、ハーレイは手を早めた。
一気に昇り詰めさせる。

「んぁ…っ、ぅぁ…っ!」

足の間で淫らに蠢く手とは別の腕が、縋るものを探すかのように震えながら上に伸びる。
銀糸の中に入り込み、しっとりと汗ばんだ髪を指先で絡めると、ぐっと掴んだ。
同時に背中が弓なりになり、喉の奥から大きな声が迸る。

「んぅ―――――ぅぅぅっ!!」

褐色の手に白い液が飛び散った。
ブルーはふるふると震えながら、何度も精を溢れ出す。
すっかり吐き出してしまうと、ハーレイの膝がら滑り落ちベッドに横たわった。

「ぁ…ぁ…、く…ぅ…」

吐精の余韻に、苦しげな呼吸を繰り返す。
瞳も潤んだままなのだけれど、ブルーは大きな身体を見上げ、きっと睨みつけた。
臆することなく視線を絡めたハーレイはくすりと笑う。

「…ハーレイ…っ!」

燃えるように赤い瞳の前で、指に残った白濁を見つめると濡れた中指を口に含んだ。
ちゅぷっと音を立てて舐めてみせれば、ブルーの顔が羞恥と怒りで紅潮する。

「―――最高のナイトキャップです…」
「なっ、この…っ!」
「明日の晩も、この寝酒をお願いしますね」
「断るっ!!」

怒ったのか勢いよくベッドから跳ね降りたブルーが、シャワーに向かいながら
控え目に怒鳴った。
くつくつと笑いながら、精液と唾液塗れの手を拭っていると、頭の中に大きな声が響く。

『明日艦長はこの青の間に入室厳禁だ…!』
「おや、それは困りましたね」

笑みを大量に含んだ声で答えると、ハーレイは口を閉じた。
サイオンで返す。

『寝込みを襲うしかなくなる』
『ハーレイっ!』

今夜は諦めますが、あんなあなたを見て、もう…爆発してしまいそうなのですから―――。
爆発しそうなのはどこか、お分かりでしょう…?

一瞬の静寂の後、罵声に近いサイオンが頭の中で炸裂した。
『ハーレイのばかっ!』『変態っ!!』と様々な酷い台詞がワンワンと鳴り響く。
けれど、その声音には嬉しさが滲み出ていて。
ハーレイの笑みが深くなる。

「…では、ビリーを連れていきます」

青の間に備えられている予備の毛布でビリーを包み、抱き上げた。
灯りで目を覚まさないように小さな顔まですっぽり覆ってしまうと、扉に向かう。

『シャワーを浴びたらきちんと髪を拭いて下さいね』
『……………』
『すぐに眠って下さいよ』
『……………』
『毛布はきちんと肩までかけて、ああ、勿論裸なんてダメですからね』
『……………』

スロープを下り切るとシュンと扉が開いた。

『おやすみなさい、ブルー』
『……………』
『おやすみなさい』
「………おやすみ……ハーレイ」

小さな声に振り返り顔を上げれば、白いバスローブを纏った小さな影が見下ろしている。
逆光で表情は分からないけれど、がしがしと髪を拭くようすに満足して踵を返せば、
さらに小さな声が降ってきた。

「―――明日、待ってる…から…」

ハーレイは「はい」と返事をして一礼する。
閉まる扉にサイオンを滑り込ませた。

『楽しみに、しています』と。
















---------------------------------------------------- 20090226 こんな拘束と強制なら いくらでも 欲しい