−morning after−

                            〜『motto zutto』番外







…う……ん……

ゆるゆると瞼を押し上げる。
目の前には見慣れない調度品。
一瞬、脳内を悪夢が過ぎり、手の平に汗を掻く。
だが室内の暖かい色合いとふんだんに使用された木目に連想される為人が、
ブルーを落ち着かせた。

ここは、ハーレイの部屋。
ゼウスを脱出し、シャングリラに収容されたブルーは真っ直ぐ医療セクションに運ばれた。
ようやく昨日退院の許可が下り、一夜をここで過ごした。
無論独りで、ではない。

その名残りが残るシーツに、顔を埋める。
自分を一晩中腕の中に閉じ込め続けた褐色の姿は、今は無い。
時計を見た。
もうブリッジに上がったのだろう。

ブルーは、彼の人が眠っていた部分に額を擦りつけた。
残る温もりは無いけれど、彼の匂いが鼻腔をくすぐる。
身体の奥から湧き上がる強い感情に、ブルーは苦しくなる。



愛おしい。
愛おしい。
どうしようもないほど、愛しくて―――――



溢れた涙が、シーツに染みを作る。
ぼやけた視界の奥に、ほんのり赤く色づく染みを見つけた。

昨夜の、ちょっと激しすぎた行為が原因だろう。
身体を動かせば、その部分に痛みが走る。
その痛みすらも、愛おしい。

ブルーはシーツを身体にぐるぐるに巻きつけるようと、ベッドの上を転げまわった。
めちゃくちゃになるけれど、自分ではベッドメーキングなんて出来ないけれど。



戻ってきた恋人は呆れ顔をするだろうけれど―――――
でも絶対、その顔は笑っているから。



シーツに全身を包まれて、ブルーはふふっと笑い声を零した。
ハーレイに抱かれているようだ。
ブルーは思う。

彼の香りに包まれていると、次第に熱いものが腰の辺りから込み上げてくる。
昨日あんなにしたのに……!

もぞもぞと腰を動かすが、静まる気配が無い。
時間はまだ、朝と呼ばれる頃だ。
ハーレイが戻ってくるまでは、かなりある。
シーツから出れば…とも思うが、そうしたくはなかった。
ブルーの手が下腹部に伸びる。
自身を握り込んだ。

…んっ…!
背筋を走る快感に、手が動き出す。
…ん…っ…!…あっ…ぁ…ぁ…んぅ…っ…
身体が震えた。

「ブルー?」

耳元で囁かれ、ブルーは飛び起きた。

「ハ…ハーレイっ?!」
「どうしたんです…?」
「ど、何処行ってたんだ!」
「ブリッジですよ」
「なら、さっさとそこに戻れ!」
「何をそんなに慌てて―――――」

ハーレイの視線が自分の下腹部に固定された事に気付き、ブルーは急いで背中を向け
身体を丸めた。
背後で、ギシっとベッドの軋む音がする。
吐息が掛かるほど近くで、囁かれた。

「………足りませんでしたか…?」
「―――!」

かあっと顔が熱くなる。

「もっと、欲しいですか…」

火照る顔をぎゅっとベッドに押し付ける。
明らかに楽しんでいる声が、追いかけて来た。

「自分で弄らなければならないほどなら、仰ってくだされば―――」

お慰めしましたのに。
耳を含まれた。
くちゅくちゅっという音と共に、口の中で良いように耳の形を変えられる。
ぞくぞくする快感に腰が動いてしまう。

「…ん…っ……ぅぅ…んぁ…っ…」

散々嬲られ、ハーレイが口を離す頃には、白い裸身はシーツから半ば現れてしまっていた。
それでもブルーは身体を背け、光る下腹部をシーツで覆おうとする。

「今から、しましょうか…?」
「いいっ!」

くすっと笑う声が聞こえた。
そんなに我慢されなくても。

「ハーレイっ!」
「可愛いですよ、ブルー」

耐え切れなくて、ブルーはがばっと起き上がり、

「おまえっ、性格変わっ―――――」

微笑むハーレイに見蕩れた。



"戻ってきた恋人は呆れ顔をするだろうけれど―――――
でも絶対、その顔は笑っているから"



想像したとおりの、愛おしさを隠そうともしない優しい笑顔があった。
更に深くなる笑みに、我に返る。

意地悪だっ!
そう残して、頭からシーツを被った。

「我慢できるんですか?」

噴出すのを必死に堪える声で、ハーレイが問う。
「出来るっ!」と怒鳴った声に、別の音が重なった。

「―――!」
「おやおや。我慢出来ないのは、こちらのお腹の方のようですね」

腹部にふわっと大きい手が当てられた。
また、大きな音が鳴る。
恥ずかしさのあまり、ブルーは全身が赤く染まりそうな気がした。

「……良かっ…た…―――」

そう呟くハーレイの声は、震えていた。



私を求めてくれて
お腹を空かせて
怒鳴って
騒いで
シーツをめちゃくちゃにして



シーツごと、ぎゅっと抱き締められた。
生きていてくれて、良かった…!



シーツに染みが広がっていく。
透明な液体に濡らされて、徐々にその向こうのハーレイの顔が透けてくる。
その様子をブルーはぼんやりと眺めていた。

声を殺して泣くハーレイの背に腕を回す。
その広い背中を、とん、とん、と叩いた。



泣かないで。
お願いだから。

僕はここにいるよ。
温かいだろう?

もう、どこにもいかないよ。
だから、泣かないで。

泣かないで、ハーレイ………



お互い涙がおさまるまで、シーツを挟んでいた。
泣き顔を見られるのが、とても恥ずかしくて。
しかし、この状態もかなり………
どう言い出そうかと悩んでいたところで、再びブルーの腹の虫が苦情を申し立てた。
二人で吹き出す。

「ああ、朝食を取ってきます」

ブルーはシーツから顔を出して言う。

「柔らかいスクランブルエッグがいいな。少しチーズをかけて」
「ケチャップもご入用でしたよね?」
「うん!」

それからね、トーストは狐色で。
今日はブルーベリーのジャムがいい。

では、温かい紅茶でいいですね?

そう!

他愛の無い話を続ける二人の声が響く。
放しながらこの穏やかな時間が、ずっと続くことをハーレイは祈る。
"その時"の足音が極近くで聞こえるけれど。
でも、ハーレイは祈る。

祈り続けた結果が今、目の前にあるから。
奇跡が存在することを、自分が知っているから。

だから、祈る。
祈ることを止めない。

私は祈る。
信じているから、この人の言葉を。
この愛しい人が自分を置いていくことなど、もう2度と無いことを。

ハーレイは祈り続ける。
ただ、ひたすらに、祈り続けるのだった。




















---------------------------------------------------- 2007.10.28 日記からサルベージ。 先に番外書いてどうすんだ!?ですが、只今リハビリ中なので いきなり再会はむつかしい…つか、絶対納得いくものには ならないぜ!という変な自信はあるもので。 (これ↑もきっちり再会編が書けたら書き直そう…:汗)