約束の場所に居たのは、連絡があった上級生ばかりではなかった。
同じ年の、ヒヨコとあだ名される一年生たち。
それも、船外訓練のときに同じグループであった面々だった。

コンソールの明りだけの、薄暗い室内。
シュンと音がして、入り口の扉が閉まった。










reason










まずい。
経験から頭の中に赤いランプが燈る。
切り抜けるにはどうしたらいい?
シロエの脳内が活発に動き出した。

「おまえが調べた全てをこっちに寄越しな」
「……キース・アニアンのデータ、ですか?」

上級生の一人がにやっと笑って、右手を差し出した。
そこに載せろというのだろう。
数を頼んでくれば、誰でも言うことを効くと考えている、低脳な連中だ。

「そんなもの、何に使うおつもりです?」
「……有効に、使うのさ」

ニヤニヤしていた男は、下卑た、猿のような顔に変わっていた。
大方、脅す材料にでもするつもりなのだろう。
脅して何をさせたいのか知らないが、あのキースがそんなものに屈服するとでも?
判断基準が己しかない、気の毒な連中だが、それにしても考えが甘すぎる。

「莫迦ですねえ…」

思わず呟いてしまった。
さっと周囲の空気が変わる。
殺気を漲らせて猿が3匹、4匹……シロエを中心にして近づいてくる。
これくらいなら大丈夫。そう判断して、口を開いた。
見下し嘲笑する言葉を2つ3つ吐けば、彼らはあっさりと理性を手放した。
順序もへったくれもなく、突進してくる。

だから莫迦だと言うんだ。
薄く笑って、シロエは天井のパイプに飛んだ。
足の下で、複数の頭が激しくぶつかる音がする。

ひらりと軽やかに飛び降り、出口に走った。
追いかけてくる足音は無い。
通路に出、コントロールパネルを操作して彼らを閉じ込める。
それで、終わりな筈だった。

明るい通路に出た途端、制服の少年の姿が目に映った。
ヒヨコの一人!いつの間に!
腹部に固いものが押し付けられる。
その物体を認識するより早く、電流がシロエを襲った。

「よくやった!」
「油断してはいけません。こいつは悪知恵が働く」
「ああ。やられたよ。目標はキースだったが、その前にコイツにも思い知らせなくちゃな」
「細いし、小さい―――楽しませてくれそうだ。中へ運べ!」

薄れていく意識の中で、ヒヨコの一人が「ざまあみろ」と言ったのが聞こえた。

そいつの足首を掴む。怯えたような声が上がった。
群れなければ何も出来ないくせに―――シロエのその言葉は発せられなかった。
手を振り解かれた足で、腹部を蹴られる。
3度目でシロエの意識は、途絶えた。



つんと、強い刺激臭が鼻の奥を突いた。
意識を取り戻してみれば、案の定、縛られている。
机の上で、四肢をそれぞれの四隅の足に括られていた。
シャツは前を肌蹴させ、ズボンもベルトは抜かれている。
そのあまりの独創性の無さに、ため息が出た。
そんな低脳な連中に捕まる自分に対しても。

「お姫様、お寝覚めは如何?」

1人が裏返った声で言った台詞に、げらげらと笑い声が起こる。
この後の"お楽しみ"が、舞い上がらせているのだろう。
知性の欠片も無いようなその顔に、シロエは誓った。

奴らを楽しませてなぞ、絶対にしない
借りたものは、返す
……必ず……!

"猿"がぞろぞろと机に寄って来る。
よだれを垂らしていないのが、不思議なくらいだ。
さぞ怯えているだろうとの期待は、無表情に天井を見つめるシロエがあっさり裏切っている。

「ホントに可愛げのない餓鬼だぜ…!」

顔は綺麗だがな。
リーダー格の上級生が、くいと顎を持ち上げる。
血が滲む唇を親指でなぞり、そのまま突っ込む。
強引に口を開かせた。

「少しは泣いてみろよ。許してくれるかもしれないだろ?」

この口でよ、と顔を寄せる。

薄汚れたこの指を噛み切ってやろうと思った。
けれど、そんなことしても状況は悪くなる一方なことは経験則から理解している。
シロエは表情を変えなかった。

「ふん、まあいいや。どっちにしろ、泣き喚くことになるんだからな」

男は軽くシロエの頬を叩くと、取り巻き2,3人に押さえてろと命じた。
足首の拘束を切り、ズボンに手を掛け、下着ごと剥ぎ取る。
細い身体をずり下げ、V字に足を開かせると、位置を調整し一気に突き入れた。

激痛に、ばっと額に汗が吹き出た。
うぐっと声を上げ、顔を歪ませる。

「へへ…、痛いだろ?」

男は遠慮も無く、腰を穿つ。
次第に激しくなる動きに、「はっ…く…はっ…」とシロエの苦しそうな声が大きくなる。
けれど、男の言ったように泣き叫ぶ様子は無い。

「へえ……おまえ、初めてじゃねーな…」

そう言うあんたもな!
毒づきたいが、言葉はぐっと噛み殺す。
ただひたすらに、激痛に耐えるしかないのだ。
――――今は。

男は、薄ら笑いすら浮かべてシロエを嬲っている。
その表情が次第に変わり、穿つ速度が速くなった。

「…おい、凄えぞ…くっ…絶品だ……!」

男の顔から、余裕が消えていた。
激しく腰を振り、顎からは汗が滴り落ちる。

程なく、うおっと大きな声と共にシロエの中に欲望を吐き出した。
荒い息で分身を引き抜くと、隣の男と手を叩き合わせた。

選手交代だ。
シロエの足が再び大きく開かれる。



最後の男が自身をずるりと引き抜いた。
支えを失ったシロエは、床に伏す。
嬲りつくして満足した男たちは、口々に「良かったぜ」「また遊んでやるからな」と
言葉を投げながら部屋を後にした。

彼らの気配が完全に消えるのを待って、シロエは身体を起こした。
床に打ち捨てられた自分のシャツを掴み、引き寄せる。

「あいつら……つっ…ホントに猿だな」

軋む身体をゆるゆると動かし袖を通しながら、確認する。
擦過傷は無数に有るものの、深い傷は無い。
目に見える場所の打撲も。
集団で1人を痛めつけることに慣れた連中なのだ。
このステーションE-1077はエリート育成のための教育施設なのに。

何がエリート集団だ。
吐き捨てるように言った。
その声に―――――

「誰かいるのか?」

シロエの身体が強張る。
こんなところに何故、どうして………?
よりによって、何でこいつなんだ……!

「シロエ……その格好はどうした?!」

酷い眩暈がした。
駆け寄ってくる身体がぐにゃりと歪む。
覗き込む漆黒の瞳に吸い込まれそうだ。

シロエはキースの腕の中に倒れ込み、意識を失った。












続く