―――そろそろか…。 俺は、先月部下になった小僧を振り返る。 間もなく20歳だそうだが、まだまだ子供だ。 危なっかしくて見てられない。 だが、身体機能的には既に成人していて何の問題も無い。 線の細い坊やだが、こういう奴こそ性的欲望は 深く激しかったりするものだ。 これまでの部下たちをいちいち思い返すまでもない。 己を振り返れば容易く理解出来る。 あれからもう20年も経つのか。 俺は初めての事を思い出していた。
―――――おい、ちょっと来いよ…。 この実験施設に来てまだ2週間も経たない僕を連れ出したのは、同じチームの先輩だった。 黒い髪に黒い瞳、浅黒い肌を持つ年の頃は30歳をひとつふたつ過ぎたくらいで、 名をハーロンと言い、少しとっつき難いタイプだが仕事は出来る人物で。 僕の直属の上司だった。 「こんな時間にどこに行くんです?」 食事も終わり、就寝時間までもう1時間ほどしか無い。 新人の僕が持てる貴重な自由時間だ。 出来れば部屋に籠り、終わらなかったレポートを仕上げたいところだったが、 上司の命令には逆らえない。 行く先を問うた口調に少しの不満が表れていても仕方が無いと思うし、 実際そうだったのだろう。 先輩はにやりと笑いながら「まあ、黙ってついて来いや」と口にすると、 顎で通路の先を示した。 そうしてこう言ったのだ。 「天国に連れて行ってやるよ」 Knockin' On Heaven's Door 天国の入口は、毎日見る実験室のものと同じ形をしていた。 ハーロンはその何の変哲もないグレーの扉に手を伸ばした。 指先でトン…トントン…トトントン…とリズムを刻む。 すると扉がすーっと開いた。 そこにあったのはもちろん天国なんかじゃ無く、いつもの無機質な 実験室だったのだけれど。 でも、僕は息を呑んだ。 このいつもの部屋に佇む後ろ姿。 ようやく見慣れた白っぽい服は、実験体のユニフォームで。 でもそれはあり得ないものだったから。 少年の背格好、銀髪、そしてその…その抜けるように白い肌は―――――。 「し、白いっ…ミュウ…!」 伝説のミュウ。 名前―――ナンバーをそう呼べれば―――とそのアルビノという特徴だけは、 こんな新人の僕でも知っている。 僕ら専門の科学者のテキストに必ずその名が載っているミュウ。 どんな過酷な"テスト"にも耐えた、研究施設の設立当初から生き残っている、 唯一のミュウ。 そのサイオンは未だ計測不能で、このミュウ専用の特殊房から出ることは 最早無いと―――――。 「ナンバー33…!」 思わず僕は叫んだ。 化け物と呼ぶに相応しいミュウと同じ部屋に何の防壁も無しの状態で、33は そのサイオンを十分に抑え込むことが出来ないリングをしているだけ。 僕の声は悲鳴に近かったんだろう。 聴力の大部分を失っている筈のナンバー33が振り返ったのだから。 そうして僕はもう一度息を呑んだ。 「どうだ、観賞に耐えるだろ?」 「―――――…っ…!」 「生憎女じゃないがちゃんと穴もある。性欲処理にはな〜んの問題無い」 僕は返答が出来なかった。 先輩の言葉に衝撃を受けた所為じゃない。 いや、言ってることは無論ショックな事だけれど、それ以上に僕の口を塞いだのは その美しさだった。 白い肌に光る銀髪、それに縁取られた顔は信じられないくらい整ったもので。 恐ろしいという感情は瞬間に消え去った。 なんて、きれいなんだろう。 同じ人間――いや、人間じゃない、ミュウなんだが――とは思えなかった。 僕は言葉を失った。 身じろぎもせず凝視する僕をどう思ったのか、ナンバー33が無表情のまま、 わずかに目を細めた。 紫の瞳に射竦められる。 僕は動けなかった。 どれだけそうしていたことか。 実際は数秒の事だったのだろうけれど。 長い時間だった気がする。 いきなり肩を叩かれ、我に還った。 先輩の声が耳元で聞こえた。 「男なのが唯一の欠点だが、この顔だ―――――堪んねえぞ」 泣き顔も、とろけた顔も。 横を見た僕に、にやりと笑いかける。 まだ紫の瞳の呪縛が解けない僕に、先輩が言葉を続けた。 「なあに、慣れりゃ男の方が良くなるって!」 「そうそう!」 周りの男たち、同じチームの人間やら顔見知りの研究員たちが笑いながら言う。 「ケツの穴掘りながら、前もシゴいてやるんだよ。サイコーだぜ」 「乳首も感じるんだ。女並み!いや女より敏感かもな」 「女よりイイかもよ。チンポ―――」 「まぁお下品!ペニスでしょ〜ぉ!」 「うるせえよ!チンポの方が感じが出るだろうが。チンポ縛っちまえば、  出し過ぎて気を失う事もないし、こっちの思うがままよ」 「イカせてって泣きながら喘ぐんだ、こいつ!」 男たちがげらげら笑う。 その笑い声に、獣の息づかいが感じ取れた。 これから行われる事がようやくリアルに感じられるようになった僕は、混乱した。 理性が働き、やってはいけないことだと認識するけれど、同時にこの場では自分が 一番下っ端であり拒否権など無いことにも思い至る。 だからと言って逃げることも出来ないのだ。 どうしよう、どうしよう、どうしよう…!! しかし混乱の一番の原因は、こんな事態なのに興奮している自分がいる事だった。 話を聞いただけで下半身に血が集まってきているのが分かる。 集団で1人を嬲る事か、はたまたミュウとはいえこんな少年、少年の恰好をしたものを 犯す事か―――。 これまでの人生で経験はもちろん想像もしたことも無い事なのに、なぜこんなにも 性的に興奮してしまっているのか。 どうして…?! 顔を赤くして俯いている僕に気がついた先輩が、肩を組んできた。 耳に口を近づけ、囁く。 「―――お前、初めてだろ?」 「なっ?!」 「女ともしたことないだろう?セックスってやつを、さ」 「ぼぼ、ぼ、僕は―――!」 「そりゃそうだって!」 周りがまた騒がしくなった。 僕らを囃し立て、混ぜっ返す。 「まだ20歳だろ。この研究所に来るまで勉強三昧、女とつき合う時間なんて無いって」 「ここに来る若い奴はみんなそうだ。みんな仲良くチェリーボーイさ♪」 「ハーロンだってそうだったんだぜ!」 「やかましいっ」 怒鳴る先輩を見て、また周囲が笑う。 「余計なこと言ってんじゃねえよ!とっとと始めるぞ!」 「童貞クンはどうすんだよ?」 「ぼ、僕は―――」 「お前はまずは見学だ」 組んでいた肩から腕を離し、先輩は僕を後に放り出した。 壁際に下がったのが合図であったかのように、周りが一斉に動き出す。 部屋の中心、実験台の傍で白いミュウ、ナンバー33を囲んだ。 驚いたことに。 言葉であれだけ貶められ、これから何をされるのか百も承知なはずの彼は、 僕が来た時のまま静かに立っていた。 表情の無い顔。 何を考えているのか。 男たちに囲まれても、動かなかった。 ハーロン先輩が細く白い顎を掴む。 ついと上向かせると、低く言った。 「おい、ブルー」 ―――どうする? 昼間の実験の続きをするか? それとも、夜の…をするか? 俺たちはどっちでもいいんだぜ? 実験で意識を飛ばしたお前を起こす手間があるか無いかだけの違いだ。 痛い思いをしてから突っ込まれるか、初めから気持ち良くなるか。 どっちがいい? 最もお前にゃ快楽も苦痛かもしんないけどな。 ま、選ばせてやるよ…。 ブルーと呼ばれたミュウ、ナンバー33は服を脱ぎ、静かに台に腰を下ろした。 誰かが台の上の照明を灯す。 浮かび上がる白い肢体。 光るそれは酷く艶めかしいもので。 僕は思わず自分の股間を押さえた。 「…始めろよ、ブルー」 手渡されたボトルを傾け、何かの液体を右手に取る。 四つん這いになり、肢の間からその手を伸ばし、尻の谷間に塗りつけ始めた。 くち、くちゅ…くちゅ…。 黙った男たちが凝視する中、部屋に音が響く。 あまりの非現実的な光景に、くらりと目眩がした。 音が響くたびに、じわり、じわりと温度が上がっていく。 「おい、童貞。こっちへ来い」 熱に浮かされたようになっていた僕には誰の声か分からなかったが、 命じられるままにブルーの尻が見える場所へ移動した。 小さな尻はやっぱり白くて、白桃のようだ。 谷間の色づいた部分はぬめって光り、淫らだった。 そこで細い指が蠢いている。 「解せ」 短い命令に無言でブルーは従った。 頭を台に落とすと、尻だけを高く掲げた恰好になる。 そうして人差し指を窄まりに突き立てた。 「んっ…ん…」 震える指先は始めすんなりとは入らず、第一関節くらいを何度か出し入れする。 指が出入るする度に、さっきより粘着質な音がした。 そして―――――指の隙間から、或いは指にまとわりつくように覗く赤い色。 「……!!」 僕は自分の陰茎が完全に勃起したのを感じた。 心臓がそこにあるような気さえするくらい、どくんどくんと脈打っている。 両の手で硬くなったそれをぎゅっと掴んだ。 動けたのはただそれだけ。 僕は勃起した陰茎を掴んだまま、ブルーの行為をただ見ていた。 「あ…ああ……は…あ……ぅあ…」 ブルーの掠れた声と性器から発生する音が響く部屋に、青臭い匂いが充満している。 雄の匂い。 いつもの薬品くささは駆逐されていた。 僕の目の前、台の上では華奢な身体が獣の恰好で犯されている。 それを、まだ満足しない男たちが取り囲んでいた。 猛る肉棒が出入りするアナルからは、白濁液が溢れ出す。 どれだけ中と外に放たれたのか。 ブルーの顔も身体も、白い精液がこびりついていた。 「あ…あ……んっ…」 小さな尻を掴んでいる指に力が籠る。 ぐちゃぐちゃという水音が高くなり、打ち付けるパンパンという音も大きくなった。 「は…、あ、あ、あっ…ああ…!」 激しく犯していた男が苦しそうに息を吐くと、ブルーに覆い被さる。 尻の脇が凹んでいた。 また射精しているのだ。 抜かずに2度めの行為だったので、もう戦列から離れソファーに座る先輩たちが 囃し立てた。 「前回は出張で参加出来なかったから、溜まってんだろう…!」 「女房はさせてくんなかったのか〜?」 やかましいっ!と怒鳴り返す先輩を、別な先輩が押しのけた。 「さっさと代われよ!!」 だらりと零れた白濁を気にすることなく、己の肉塊を押し込む。 すぐに腰を振り、気持ち良さそうに息を吐いた。 「はっ、はっ、はっ…」 「あ…ん…う……い…た…あ、あ…」 「いいぜ…は、あったかくてキツくて、サイコーだ、ブルー…!」 「ん…や……、も……や…ぁ…」 掠れた喘ぎを零しながら、ブルーが力無く頭を振る。 その精液に汚れ輝きを失った銀髪が台の上に落ちた。 突き出す格好になった尻の間に、震える腕を伸ばす。 そこには、腹につくほど反り返ったブルーの陰茎があった。 白く濁った淫液にまみれており、先端からねっとりとした雫をひっきりなしに零している。 しかし、ブルーの華奢な身体にあった、そのささやかな茎は、黒いゴム管で根元を きつく戒められていた。 それはこの淫らな饗宴の始まりからで。 ブルーは一度も射精を許されていないのだった。 「や…いた…い…、は…ぁう…は…ずして…」 何度も射精無しの絶頂をみせられてるのだから、堪らない。 ぐちゃぐちゃの自身を掴み、黒い戒めを外そうとするが、震える指先では上手くゆかない。 しかも、男が絶えず腰を打ち付けている。 その度白い指は有らぬ場所を彷徨い、黒いゴム管を外すどころか緩ませる事すら 出来ないでいた。 「あっ…、んっ…ん…、は…ぁあ、あ…」 パンパンパンパンっ。 「も…たす…けて…、お願…い…」 「へへ…どう、したいんだ…っ、ブルー…!」 「だ…出…て…イかせ…っ…」 悲鳴のような声に構わず己の肉棒を突き立てている先輩がにやりと笑いながら 「いいぜ」と答える。 ―――いいぜ、イかせてやるよ。たっぷり出してやる。 ぐっと前傾姿勢になり、ブルーの震える肢の間に腕を伸ばした。 そこからぐちゃぐちゃという水音が発生し、それに甲高い声が重なる。 「ひ――――やああああっ!違…っ!ああっ!」 背を弓なりに反らし頭を上げたブルーが激しく顔を振った。 ガクガクと震える姿に僕はまた…と分かった。 縛られて射精することの出来ないペニスを強く擦られ、先端に爪を立てられているのだ。 それも前立腺を突かれながら。 「や、ひい…ああっ、んああああ…っ!」 ぶるぶる震える白い四肢に、泣き顔。 絶えず続く射精無しの絶頂は堪えがたい苦痛のような快感で。 それが理性を喰い破り、涙を溢れ出させているのだろう。 そう、ブルーは泣いていた。 「やあっ!や…ひあああああ…、ゆ、許し…ああ…!!」 年端もいかない少年が泣き叫んでいるというのに、誰ひとり助ける者はいない。 皆一様に欲情した顔に、下卑た笑いを張り付かせて見下ろすだけ。 でも僕は、僕だけは違っていた。 彼を助けようとか、先輩たちを軽蔑するとかそんな大層なものじゃない。 笑う余裕が無いのだ。 下着どころかズボンまで染みを広げて、爆発しそうな股間を抑えている僕。 先走りだとは思うけれど、もしかしたら射精してしまっているのかもしれない。 息を荒くして、ただひたすらブルーを見つめているだけなのに。 自分の性欲を処理してそこそこ満足した先輩たちは、気がつかなったけれど、 そんな僕を見ていた。 タイミングを待っていたのだと、今ならば分かる。 間もなくであろう、理性が焼き切れて飛ぶ瞬間を。 そんな僕の目の前でブルーは喘いでいた。 光を失った紫の瞳はうつろで、口からは涎を流して、身体は体液と潤滑のローションに 塗れて光っている。 「いやあああああああっ!!」 またドライオーガズムを見させられたのか、ブルーの身体が大きく揺れた。 快楽から少しでも逃れようと逃げる細い腰を、無骨な太い指が掴んで引き戻す。 「…っく、締まりやがる…!」 「はあああああ…ああああ…!」 先輩の腰のグラインドが大きくなり、白い尻を激しく犯した。 上半身が台に落ちたブルーの高く掲げられた尻に、己の腰を強く打ち付ける。 獣の交尾のようなそれを、僕は息を詰めて凝視した。 出入りする太い肉棒。 纏わりつき、捲れあがる脾肉。 自分の身体が酷く熱かった。 「ほら、ぶちまけるぞ…っ!」 「ひ…――――――あああああっ!!」 射精された瞬間脚の力が抜け、少年の白く細い身体は潰れた。 それに大きな大人の身体が覆い被さる。 よほど気持ち良いのか、大きく何度も吐く息に押し殺した声が混じっていた。 「…おい…」 ハーロンがその男に声をかけた。 男が先輩の視線を追って、振り返る。 そうして僕を見た。 汗ばんだ顔で、にやりと笑う。 目が合った僕はズボンの前をぎゅっと握って、ごくりと唾を呑んだ。 「見せてやれや」 男は笑ったまま無言でブルーから離れた。 力無く崩れた細い身体を抱き起こして獣の姿勢を取らせると、白い尻をぐっと掴む。 そして、たった今まで自分が散々犯した穴を僕に向かって広げたのだ。 そこには赤と白があった。 何人もの男の性器を受け入れさせられ、すぐには閉じられなくなった肛門。 まあるい穴からは中の赤い肉がよく見える。 肉壁はヒクヒクと蠢き、誘っているようだ。 そうしてそれが動くたびに、男たちの放った白い精液が姿を見せる。 赤の中で消えては現れる白。 それが僕の中の何かを焼き切った。 「うおおおおおお…!!」 実験台に向かって突進しながら、瘧でも起こしたように震える手でズボンのボタンを 外し、チャックを下ろす。 淫液にまみれたペニスを掴み出すと、一気に突き入れた。 ブルーの細い声が響く。 それは紛れもなく悲鳴であったのに、僕は自分を止めることが出来なかった。 中の何と温かくて気持ち良いことか―――――。 入れた瞬間に射精してしまったのだけれど、それでも僕のものは全く萎えなかった。 気持ちいい。 気持ちいい。 気持ちいい。 頭の中は快楽を貪ることしかなかった。 ぬめる小さな尻に指を喰い込ませ、骨が砕けてしまうかもしれないと思われるほど 激しく腰を打ち付ける。 先輩たちが何か声をかけていたけれど、耳には届かなかった。 勿論ブルーの悲鳴も。 僕はひたすらに腰を振る。 すぐに2度目の絶頂が来た。 ペニスの先から走った電流が背骨を駆け上がり、脳を焼く。 ぶるぶるっと身体が震えた。 僕の口から、散々聞いたあの吐息混じりの押し殺した声が零れる。 「――――あああ…」 ブルーに覆い被さった僕にハーロン先輩が近寄ってきた。 身体を屈め、囁く。 「気持ちいいだろ?」 「は、は、う…はい…」 「もっと良くなりたいか?」 「はい!」 「じゃあ、手はここだ」 強張ったままの僕の腕を掴んで、ブルーの身体の前に回す。 べとべとの細いものを握らされた。 「腰振りながら扱け」 頷く間も惜しい僕はそれをすぐに実践する。 尻を犯しながら、ブルーのペニスをぎゅっと握って、根元から括れ、 そして丸く腫れた先端までをぐちゃぐちゃ擦った。 「ひ―――――いや…やあっ!」 ブルーの声が快感を増幅する。 汗を垂らしながら無言で腰を振る僕の様子に、先輩たちが笑い囃し立てた。 でも言葉は耳に届かない。 「ブルー、筆おろしこれで何人目だ?」 「やめ…ぇ、や…あ…、あう…ああっ!」 「止めてじゃないだろうが。もっと、だろ」 「ああ、あ、は…あ…ぅ、うう、やらあっ、あっあああ…」 「お前の大好きな激しいやつだ。存分に味わえよ…」 「やああああっ!!!」 前立腺だとかは全然分からなかった。 ただただ自分の肉棒でブルーの中を擦るだけ。 滅茶苦茶に犯した。 何度射精したか覚えていない。 「もういい加減にしろ」と引き剥がされるまで、僕はブルーを犯し続けたのだった。
あれから20年。 鏡を見れば、すっかり中年の男だ。 ミュウ研究の権威なんて呼ばれる事もある。 だが、俺は変わっていない。 あの頃と同じ、快楽を貪っている。 「そうだろう…ブルー」 声を投げた先には、天井から下がった棒に繋がれた白くて細い身体。 戒められた華奢な手首に、なめらかな白い肌。 俺を夢中にさせ続けている身体だ。 そして、白皙の中で光る瞳。 俺を射竦める紫色。 「お前も変わらないな」 そう声をかけても、感情が表に出ることは無い。 紫の瞳は照明を反射するだけ。 これも昔のままだ。 「いや、そうでもないか―――――」 俺の言葉に、ブルーがちらりとこちらを見た。 微かに表情が変わる。 これだけ長く"深く"付き合っていれば、分かるさ―――警戒してるだろう? 「俺が気づかないとでも思ってるのか?」 ブルーが目を細めた。 それは更なる警戒、或いは危険を隠した顔だ。 俺も表情を硬くする…が、すぐにそれを崩した。 「そんなことはどうでもいいさ…」 手のひらでなめらかな肌を堪能する。 昔と全く変わらない、俺を魅了し続けてきた白い肌。 ひんやりとしたこれが、汗ばんでしっとりと吸いつくようになる頃、 お前を取り巻く人間は誰独りとして正気ではいられないんだ。 「楽しませてくれればな…いつものように…」 無論ブルーからの応えは無い。 そんなものも期待していない。 「今夜はニューフェイスがいるぜ。勉強だけをしてきた可哀想な奴さ」 そう独りごちつつブルーの後ろに回った。 背中から抱きながらうなじを味わう。 どんなに舐め回しても無反応、ブルーはピクリともしない。 だが、俺は言葉を続けた。 「昔の俺と同じだ、導いてやれよ―――」 俺は扉を開けた。 ―――この天国にな。
---------------------------------------------------- 20110429 天国も地獄も同じ 受取る人間の心の中にあるもの それ以上でもそれ以下でもない