抱き殺してしまうかもしれない―――――と思った。
でも、止められない。







ハーレイっ


いやだ

止めろ

放せ…っ






数時間前、そう拒絶していた声は、もう無い。

何度も叫んでいる同じ名前―――――その声音は酷く淫らで。
情欲そのものが形を取ると、こういう音を発するのではないか。
そのように思えるような声だった。

青の間。
今ここに響き渡るものは全て、ブルーの形の良い唇から発生していた。
悲鳴にも似た喘ぎ声を零し続ける口角からは、銀の糸も光る。

…ん……はあ…ひっ……あああ……!

光るベッドの上、両手両膝をついた格好で後ろから貫かれている。
全裸で、身に着けているものは銀の髪を分ける補聴器だけ。
常なる睦言ならば、早々に外されているものなのに―――――
今日は、それをハーレイが許さなかった。

んあああ…ふ…ひあっ…!

聞くに堪えない声。
部屋に連れてこられ、真っ直ぐベッドに運ばれ組み敷かれて。
幾度も外そうとした。
その全ては褐色の腕に阻止され、抗い続ける腕はとうとう一つに纏められ
頭上でシーツに押し付けられてしまう。
手首に痛みが走るほど強い力で。





強い力―――――今日のハーレイは、いつもとは全く違っていた。





ブルーが最初に味わった強い力は、通路から暗い備品倉庫に引きずり込まれた時。
二の腕を指の痕が付いたと思われるほど掴まれ、奥に投げ込まれた。

「ハーレイっ?!何を―――――んんっ…!」

奥に積まれて小山を作っていた布の上に転がされ、乱暴に口付けられる。
両の手首を掴まれて、いきなり差し込まれた舌で咥内を蹂躙された。
すぐに捕らえられたブルーの舌は、ハーレイによって思い切り吸われた。
ここにも痛みが走る。

「ん―――――ハ…ハーレイっ!」

散々弄られた舌は痺れて感覚が無いほどだったが、ブルーはすっかり様子の
変わってしまった思い人の名を呼んだ。
非常灯の灯りの下で見るハーレイは、ぞっとするほど冷たい印象で。
ブルーは力なく、けれどもう一度名を呼んだ。

囁くようにハーレイ?と呟いた口を、大きな手が塞ぐ。
もう片方の手が下腹部に触れた。
止め具を外し、下衣を剥ぎ取ろうと動く。

こんな場所で。
しかも、執務時間中だ。

『何をするっ!ハーレイ、止めろ!』
「……すみませんが―――」

聞けません。
低い、低い静かな声で、そう言った。

その倉庫でブルーは短時間に幾度も昇り詰めされ、激しく貫かれた。
マントと上衣は着けたまま、気を失うまで。










リオの頬に唇を寄せたとき。
確かに彼は自分を見た。

ちらりと寄越した視線に―――――からかうような、揶揄を感じて。

ハーレイの中で、何かが弾けた。




昨夜の喧嘩別れを謝罪しようと、ブルーを探した。
簡単に見つかった彼は公園に居て、子供たちの相手をしている。

ブルーは遠くからハーレイを認めた。
昨日はすみませんでした、と送る思念をあっさりと無視して、
同じく子守をしていたリオに近づく。
二言三言言葉を交し、子供たちに向かって微笑むと、自分より背の高くなった
リオの頬に向かって背伸びをして―――顔を抱き寄せると、ブルーは唇の端にキスをした。




血の気が引くとはこういうことか。
ハーレイは軽い眩暈を覚えた。




それが哀しみによるものではなく、怒り……いや、嫉妬によるものと気が付いたのは、
倉庫で意識を飛ばしたブルーを見下ろした時。
ここまで激しく抱いても、その身を焦がす思いは消えなくて。
ハーレイはブルーを抱え上げ、倉庫を後にした。




眠ってしまわれたので。
お疲れなのでしょう。

すれ違う者たちに付く嘘は、すんなりと口から出てくる。
微笑みすら浮かべて言う言葉に、疑いを持つものなど1人もいなかった。




青の間に運んだブルーの頬を叩く。

目覚めて貰わなければ―――――抱く意味が無い。
彼の心と身体に、自分を、ハーレイという存在を刻み付けることが出来ないから。

う……
呻き声と共に瞼が開く。
赤みを帯びた眸。

今だ快楽の世界を彷徨っているのか。
ならばもっと深い快楽を。
ハーレイはマントと上着を脱ぎ捨てると、ブルーに圧し掛かった。















ひああああああああああ………!

再びブルーが達した。
抜かぬまま身体を変え、上向かせると開かせた膝裏を掴み高く掲げる。
再び律動を開始した。
ブルーが息を弾ませながら、懇願とも付かぬ声でいう。

…ああ…もう…止め………ハーレ…イ…

ハーレイは応えない。
言葉でも、行動でも。

腰を動かし、精を発したためくったりとしているブルー自身がすぐに起き上がる
箇所を徹底的に攻撃した。

ひっ…いあ……!

繰る部分から発せられる淫らな水音。
ブルーが嫌がる音だ。
大きく響くように、出し入れする。




あなたの身体が立てる音だ。
よく聴いて。
響く声も………よく聴いて。

あなたが快感を感じれは感じるほど、大きく響く音。
気持ちいいでしょう?
堪らないでしょう?

それをあなたに与えているのは、誰ですか。




明確に考えている思念ではない。
今のハーレイの中に、読み取れる言葉は無い。

けれど。
伝わってくる思念は、そう訴えていた。




さあ。
さあ。
さあ。

もっと感じて。
もっと淫らに。

私以外では満足できないように………!
私以外の者など、目に入らないように…!




あはっ……!

動くハーレイ自身を感じるたび、突き抜ける甘い電流。
肌を撫でられるごとに、身体が拾ってくる快感。

…く…んんっ…!

胸の突起を抓まれ、唇で強く吸われた。
身体が震える。

…あ…ひぃう…!

立ち上がった自身を掴まれ、扱かれた。。
溢れた先走りには、白いものが混じる。

ああああ…あ…あ…

最も深い場所を、抉られる。
何度も、何度も。

うああああああああ……っ!

一際高い声で啼いたブルーは、再び意識を飛ばした。













ぐったりとしたブルーの身体に最後の欲望を吐き出したハーレイは、
ようやく身体を放した。
ベッドから身体を起こし、ぼんやりとブルーに視線を落として―――――

瞼を閉じ、力なく横たわる細い身体。
白い肌にはハーレイによる無数の所有印が散っていた。
至るところに咲く赤い華。

痛々しかった。




いつの間にか外れた補聴器が、ベッドの脇に落ちていた。

聴きたくないんだ、外してくれ…!
泣いて懇願していた様子が脳裏に蘇る。




頬にある幾筋もの涙のあと。
唇に残る、きつく歯で噛み締めたあと。

それに―――シーツに散る白い精と、真っ赤な血痕。

ぽたりぽたりと落とされた赤い液体は、精ほど多くはないけれど。
ハーレイの暗い熱に浮きかされた頭を冷えさせるには十分だった。




ブルーっ!ブルーっ!

縋りつき身体を抱え上げ、揺さぶった。
揺れる銀の髪の間で、赤い眸が現れたのは数分後。

…ハー…レイ…
掠れた声で名を呼ばれ、思い出した。



この声で何度も呼ばれていたことを。
数え切れないほど、呼ばれていたことを。



「…も…申し訳…ありま……せん…!」

胸に抱き締め、首筋で耳元で囁いた。
大きな声は出せなかったから。
涙が溢れてしまいそうだったから。

言葉が続かない。
ハーレイはぎゅっと、きつく抱き締めた。




許して貰うことは出来ない。
私は何て酷い真似を…!
何と愚かなことを……!




渦巻く後悔の念に耐え切れず、そうっと腕を解く。
ブルーを優しく横たえ、ベッドを降りた。

ハーレイには、情交の後を始末することさえ出来なかった。
自分が傷つけた華奢な身体を直視することに耐えられない。




全てを話し、誰かに委ねるしかない。
私はもう、彼に近づいてはならない…




服は袖を通したがマントは手にしたまま、横たわったまま動けない様子の
ブルーを見やる。
もう彼を見ることは無い、これが最後だと決めたのに、やはり直視出来ない。
ハーレイは頭を下げると、踵を返した。

―――……う…

早足で歩き出したハーレイの耳に、ブルーの呻き声が届いた。
振り返ると、ベッドの上で身体を起こそうと肘を付いたところで。
痛みに顔を顰めたブルーに、思わず駆け寄る。




その腕を、掴まれた。




強い、強い力で。

行くな、と。


行くな

行くな、ハーレイ……っ










ハーレイの手によって身体は拭われ、手当てされた。
その間、ずっと謝り続ける彼に最後は笑うほどで。
幾度「もういい」と言っても、ハーレイは聞かず、部屋を出る瞬間まで
頭を下げ続けていたのだった。

静謐を取り戻した青の間で、ブルーはまどろむ。




知ってるかい
ハーレイ

最初に嫉妬したのは僕のほうだったということを

君が若いミュウの制服の襟元を直してやった
ただそれだけの行為なのに


僕は…嫉妬した


胸を焦がす思いの辛さに
君にも同じ思いを味わって欲しくて
それだけだった



けれどそれは
君の心を深く傷つけてしまった

我を取り戻してからの君の表情に
思わず息を呑んだ

どこか痛いのか?
そう訪ねてしまいたくなるほど
歪んだ君の顔




君のあの表情を目の当たりにして
出て行く君に縋った時




僕は、抱き殺されてもいいと…思ったんだ




「ごめん、ハーレイ……」

そう呟いて、ブルーは眠りに落ちていった。



























-------------------------------------- 愛おしくて愛おしくて、どうしようもない 時にそれは溢れて、牙を剥く 20070725