―― Vous etes plus beau qu'une rose ――
             petit03『金の獣』










「犬が欲しいな」

僕のこの言葉に、こちらに向けたハーレイの背中が強ばる。
ソルジャーたらねばならない日常とは異なる僕の声音だ。
それはこの青の間、或いはハーレイの私室でのみ時折発せられるもので。
ちりんと鈴の音が加われば、大きな身体は完全にその動きを止める。

「犬が欲しいよ、ハーレイ…」

再び詠うように云えば、微かな衣擦れの音が聞こえてきた。
ハーレイが着ているものを脱いでいく。
その様を、僕はうっとりと眺めた。

すっかり服を脱いだハーレイが僕に向き直る。
逸らした視線を床に落として、小さく唇を噛み、頬を染めていた。

こっちにおいでと手を伸ばせば、一歩足を踏み出して立ち止まり、
顔を歪める。

―――本当にいい子だ。

細めた目で促せば、ハーレイは膝を折った。
床に軽く握った拳を付き、四つん這いの姿勢で僕に近づいてくる。

ベッドに腰を下ろした僕の足元まで来ると、ぴたりと止まった。
手袋を取り、素手で顎を掴んで上向かせる。
朱に染まった顔の中で、苦しそうに歪んだ瞳は―――濡れていた。

「何、もう欲情してるの…?」
「―――っ…!」

ハーレイが顔を背ける。
返事をしないことは咎めなかった。
緩く握っていた筈の手が、ぎゅっと固いものに変わっていたから。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、消え入りたい、そう思っているのが分かったから。
ハーレイは大きな身体を丸めて、うなじを真っ赤に染めている。

僕は立ち上がり、小さく震える背中を撫でた。
褐色の肌を滑る手の平の感触を楽しむ。
ゆっくりと手を動かすと、ハーレイから押し殺した声が零れた。

「……っ…ふ……っ…!」
「気持ちいい?」
「…んっ、く…っ…ふぅっ……―――はぁ…っ!」

妖しく揺れだした腰の先へ指を進め、豊かな双丘の谷間に落とす。
すぼまりを指の腹で掠めた。
反らした背中が崩れ落ちる。
逞しい上半身を支えていた腕から力が抜けてしまったのだ。

可哀想に、与えられるであろう快楽を想像して、もう呑まれている。
けれど、歪んだ顔と目尻に光る涙―――理性は悲鳴を上げているのだろう。
あの理知的で冷静沈着なハーレイだ。
こんな自分を受け入れる事は容易ではない筈なのだから。

こんなにも心はまだ嫌悪しているにも関わらず、身体は本当に快感に従順に
なってしまった。
もっともそうさせたのは僕なんだけれども。

名残惜しいけれど、つ…と指を離し、再びベッドに腰を下ろした。
少し呼吸が荒くなったハーレイが四つん這いになるのを待つ。

のろのろと上がってきた顔はまだ歪んでいたが、それは切なげで。
真っ直ぐに僕を見つめる瞳は縋るようだった。

僕は後ろに手を付き、少し背を反らせる。
改めてハーレイを見つめた。

神々しい…。
そんな形容詞が相応しいのは、この船で彼のこの肉体だけだと思う。
胸板は雄々しく厚く、腹は引き締まり、腰はがっちりしている。
腕も足も全て、力強さを感じさせるしなやかな筋肉に覆われ、一分の無駄も無い。
人体の理想を具象化したような美しさとでも云えば良いのだろうか。

それがうっすらと淡い金の光を帯びている。
うぶ毛が光を反射しているのだ。

ハーレイの体毛は全て金色だ。
頭も脇も陰毛も、うぶ毛も。
そんな彼は裸体はまるで、陽の光を纏った、そんな錯覚をすら与えるものだった。

「―――金の獣…」

僕は独りごちた。



お前は本当にきれいだよ。
嘘でも、お世辞でもなくて。
心の底から、本当に僕はお前をきれいだと思うんだ。

だから。
その大きくて美しい身体の奥底に隠しているお前の気持ちを垣間見た時は驚いた。
激しくはない、穏やかな雄々しさの奥で―――愛されたい、受け身で。

それが分かった時、僕は快哉を叫んだ。
何故かって?

僕はお前が好きだから。
心から大好きで、愛しているから。

お前のその願いを叶えてあげられるのは、僕だけ。
僕しかいないんだから。

君は僕のものだ、ハーレイ。



「…僕が欲しい…?」

潤んだ瞳を真っ直ぐ見返して、問うた。
ハーレイは小さな声で、でもしっかりと「はい」と答える。
可愛くて、堪らない。
背筋がゾクゾクした。

「じゃあ、見せて…」

これから先のハーレイの変化が、僕は大好きだ。

驚いて見開かれた目が僅かに細められる。
唇を噛むと当時に、頬が震えた。
まだ残る理性――否、ずっと、ずっと彼の中には在るのだ。僕に抱かれている間中
ずっと――が、内側から彼を責めているのだろう。
理性と欲望の鬩ぎ合いが、揺れる瞳に表れていた。

でもその内なる声は決して長くは続かない。
僕の教え込んだ快楽に堕ちてくる。

「…ハーレイ」

ただ名前を呼ぶだけなのだけれど、僕の声は彼の背中をぐいと押した。
揺れ続けていた瞳が一瞬だけ動きを止めると、瞼の奥に姿を隠す。

「……っ…」

苦しげな息を一つ零し、ハーレイは立ち上がった。
両手は横に下げたままで、下腹部を覆うことはしない。
ハーレイのものは固く勃ち上がり、天を突いていた。
その丸く膨らんだ先端は、既に濡れて光っている。

ちりん…。
鈴の音を聞くと、目の前の美しい身体は目に見えて動揺した。
「まだ慣れないのかな?」とくすりと笑うと、ハーレイは顔を振って「いえ」と答える。

「付けてあげるね」
「……ありがとうございます…」
「大好きだろう?」
「…はい―――旦那さま」
「いい子だ、ハーレイ」

目の前に突き出されたものに、ピンクのリボンを巻いていく。
根本から始めて先端の括れで金の鈴を付け、また根本に戻る。
小刻みに震えるものを時折ぎゅっと締めれば、ハーレイの顔が痛そうに歪んだ。
何度も苦しげに息を吐くけれど、身体が退がったり、逃げることはない。
僕がそう躾た。

全裸で金の鈴にピンクのリボンを身に着けた可愛いハーレイは今日、僕の犬になる。
















---------------------------------------------------- 20081119 君は薔薇より美しい 何ものよりも どんなものよりも 美しい