螺旋の先














とろりとしたものを垂らされた。
気持ちの悪い感触に、眉間に皺が寄る。
高く掲げさせられた尻に滑る液体を塗り込んでいた指が消え、冷たいものが
押し当てられた。
遠慮無く、ぐいと押し込まれたものは、かなりの太い。

「…う…」

思わず漏れた声に構うことなく、それはゆっくり侵入していく。
5センチほど入れられただろうか。
限界を感じて僕は叫んだ。

「痛いっ!」
「もう少しで見えるからぁ、我慢してよ」

掠れ気味の甲高い声で言いながら、研究員ロイドはそれを更に押し込んだ。
1センチくらい進んだところで「良し」と呟く。
僕は全身の力を抜いた。
そうしなければ苦痛を味わうのは自分だから…。

後ろに入れられたのは、医療器具で銀色の筒状のものだ。
2本が束ねられたような形状で、それぞれこの男の人差し指と中指の太さに
合わせて作られている。

「この辺だね」

筒を覗き込んで言うロイドの声は楽しげだが、そこに艶はない。
この男の興味は僕の身体のデータだけで、己の欲望を満足させることは目的では
ないのだ。
僕を嬲ることも、泣かせることもない。

だからこそ質が悪いとも云える。
データを取る為なら何でもするのだから。
ただ、壊れても替えが無いから、少しは手加減してくれる―――死なない程度に。

ロイドがその器具――名前は知らないが、僕にはとても慣れたものだった――の柄を
握った。
すると僕の身体の中でそれは割れる。
切れる寸前まで開かれた。
痛みでどっと脂汗が出る。

「指入れるよ」

一度に2本入ってきた。
中指が探るように内壁をなぞる。
ゾクゾクしたものが背筋を駆け上がり、声が出そうになるのを堪えた。
ロイドはある一点をぎゅっと押し上げる。

「ここ?」

僕はガクガクと頷いて見せた。

「ホントにぃ?」

中指でクリクリとその部分を刺激する。
僕は頷いた。
なのに―――。

「…っ…ぅっ!ああああ……っ!」
「やっぱりぃ〜」

見つけられた。
足の間に熱が集まる。
的確に前立腺を探り当てたロイドが、間延びした声で言った。

「嘘ついちゃダメでしょー」
「ああっあっ!!」

ブルー君はぁ。
語尾を伸ばした独特の喋り方。
普段なら勘に障るが、今はそれどころで無い。
僕は声を上げ、身体を震わせた。

最も敏感な部分に、人差し指が添えられる。
ちくんと微かな痛みを感じた。
データを取る為の針が刺し込まれたのだ。
同じものが既に両胸の突起と、先程まで縮こまっていた僕の先端に刺さっている。

「抜くよぉ」

ずるんと指と器具が一気になくなった。
ロイドは濡れて光るそれを台に置き、変わりに同じ場所に載せられていた淫具を
手に取った。
幾つも、幾つも…。





何度吐き出させられたろう。
僕は尻を高く掲げたまま、力の入らない身体を投げ出していた。

ロイドはデータの為だけに器具を使った。
出したいときには許されず、もう無理だと思うときに前立腺を突き上げられた。

「う〜ん…もう1回だねぇ」

モニターを見ながら全く熱の籠もらない声でそう言われると、目の前が暗くなる。
出るのは諦めだけで出来上がったため息だけ。
それを聞いても、ロイドは手を止めない。
「もうちょっと頑張ってよ、ね?」とあの声でさらりと言うのだった。

それでも3時間近くを堪え切って…。
間抜けな格好ではあるけれど、それでも安堵していたんだ。
終わった、と。

吐くときは大きいが、吸うのは細くしかも途切れ途切れ。
震えながら苦しい呼吸を繰り返していた僕に、珍しくロイドが素手で触れた。

僕は目を見開く。
いつもは薄い手袋をしているその手は―――記憶にないくらい熱かった。

「今日は………ちょっと付き合って貰おうかな…」
「…ロイ…ド…?―――っ!」

ぐんと頭が重くなる。
首に巻かれたサイオン抑制装置のレベルが引き上げられたのだろう。
既に限界まで責められていた僕は、抵抗する体力を失った。

すっかり弛んだ孔に指が入れられ、掻き回される。
既に多量のローションを擦り込まれているその部分は、されるがまま酷い音を
立てた。

「―――ぅ…っ!ぁ…く…!!」

身動ぎも出来ない程疲れ切っているのに、僕の身体はまだ快楽を拾う。
どんなに嫌だと心で叫んでも、慣らされ切った身体は僕を裏切る。

だが、もう限界だった。
どんなに刺激されても、吐き出すものがない。
一定以上に身体の熱は上がらなかった。

半分程度しか大きくならず、先端に僅かに先走りを滲ませる程度の僕に、
あの声が言う。

「アレ、入れてあげるからね」

すぐにいつものブルーくんになれるよ。
あの甲高い声なのに、それは酷く熱っぽいもので。
耳に馴染みのない声色に、僕の背筋がゾクっと震えた。

身を捩る事も出来ないまま、何かがツプンと入ってくる。
嬉しそうな、でもいつものものじゃないロイドの声が、恐ろしい事実を告げた。

「…薬は熱で溶けてすぐに吸収される。後は太いものが欲しくて、それしか
 考えられなくなるから」

いつもの声で、ボクを欲しがってね。
自分から銜え込んで、腰を振るんだよ。
ボクを良い気持ちにさせてよね。

ロイドが何を言っているのか分からない。
この男に犯された記憶など無いのに。

「……何を…言っ…んっ…!」

身体がかあっと熱くなる。
心臓がドクドクと早く打ち出し、何かが這うような疼きが肌を走った。
何より―――散々嬲られた奥がジクジクと蕩け始める。

「…やぁ…ぅ…ぅぅ……ん…っ」

四肢に思うように力が入らず、実験室の無機質な台の上で僕はぺしゃりと潰れた。
すると尻からロイドの指がずるりと抜ける。
内壁を摺るその感触に、ざわっと鳥肌が立った。

俯せの僕をロイドがひっくり返す。
浅い息を繰り返し呻く僕の目の前に、黒いものを差し出した。

「これも…君が好きなものだよ」

見たことのないものだった。
黒い革に幾つかの銀の留め金がついたそれ―――男性器の拘束具であることは分かった。
でも、覚えのない代物だ。

「そん…んっ、もの…知…ない…」
「…そうだろうねぇ…」

静かにそう答えると、ロイドは革の拘束具をすっかり勃ち上がった僕に巻き付け、
金具を止めた。
痛みは感じない。
けれどこれだけ締め上げられれば、吐き出すことは叶わないだろう……。

ロイドの指が拘束具から顔を出した先端を撫でた。
すると―――。

「や……あっ…!」

身体の奥から強烈な疼きが湧き起こる。
内側から責められるような熱に浮かされて身を捩る僕を抱き起こしたロイドは、
自分も台に座った。
足の間に使ったものと同じような拘束具で、僕を後ろ手に縛り上げる。

「君の記憶は毎回消去してるもの、覚えてるはず無いよ〜」
「何っ…?!」
「僕は都合の悪いこと喋っちゃうからさぁ。覚えてて貰ってちゃ困るのよぉ」

薬と抑制装置の所為で働かない頭を、必死で巡らせた。
ロイドの言ったこと―――この男の言葉は、僕らミュウにプラスになるのだ。

どうやって記憶を消されないようにすればいい…!?
どうすれば…!!

「うっふふ〜。今一生懸命考えてるでしょ?今日は記憶消去しないであげようかなぁ…」

ロイドは笑った。
足を開きながら。
前をくつろげながら。

僕は差し出されたものを口に含む。
潔癖性の気のある男だ。
股間に顔を埋めても、嫌な匂いはしない。

責め立ててくる疼きに堪えながら、柔らかいものを食んだ。
後ろ手に縛られたまま、尻を突き出して。
舌を這わせ、舐め、吸い上げる。

ロイドの言葉を素直に信じた訳ではない。
けれど他に選択肢は無いのだ。
僕は男のものを育てることに専念した。

耳を塞ぎたくなるような僕の口淫の音が響く中、ロイドの声が流れ始める。



ミュウの研究者の年齢層が低いのは、君も気付いているだろう?
君たちの存在も研究内容も、ボクたち人類の最重要機密なんだけどさ。
この研究、長く続けてるヤツは殆どいないよ。

その上携わる人間の数ってのも決して多くない。
少人数なのには勿論、機密保持って理由もあるんだけど。
その割には回転早いんだよね。

……ヘンだと思わない〜?

あんまり年を取らない君だから、随分沢山の研究者に"遭った"んじゃない?
…んっ。
こんなに"上手"なんだものねぇ。
いっぱいしてきたんでしょ?

あ…っ、先に歯を立てないでくれる?
僕、早漏っぽいんだよねぇ。
やんなっちゃうよ〜。

どこまで話したっけ?
そうそう、ぴちぴちに若い研究者がすぐ居なくなっちゃう理由だよね。

ああ、ブルーくんの所為じゃないよ。
君を嬲った罰とかはでは無いからさぁ。

……ん〜、そうとも言い切れないかも…。



くすりと笑うと口を離すように言われた。
僕は手が使えないままであったから、背中には流れる程の汗を掻いていた。
足がガクガクする。
なのに―――。

「僕に跨って」

台の上で仰向けに寝転ろんだロイドは、呑気にそんなことを言う。
「ほら、こっちだよぉ」と自分の腰を叩いた。

よろよろとロイドに跨る。
薬に犯されて、溢れる先走りは拘束具を伝い落ちていたが、気にせず腰を下ろした。
口の中で大きくしたロイドのものが、僕の会陰を刺激する。
足の間から電流が駆け上がった。

「はぁ…!んぅ…ぁあ…」

思わず腰を前後に揺らし、擦り付けてしまう。
それがぎゅっと掴まれた。
揺れる腰を止められて、奥の疼きが強くなる。

「淫らしいんだぁ〜」
「や…放して…っ!」
「……どっちを?前?後ろ?」

そう問われて、ともすれば霞が掛かる意識の中で、自分は本当にどちらを望んで
いるんだろうと考える。
意識した途端、前と後ろが同時に悲鳴を上げた。

「どっちも…!」
「そんなのだ〜め〜。先にお尻に良いものあげるぅ」

こぉ〜れ。
手にしたものを、ロイドはぺろりと舐めた。
20センチ程の不思議な曲線を描く物体。
一見細身のバイブのようだが、上下に伸びる細いものがついていた。

「な…に……」

人並外れて長い手が僕の尻を割る。
解されローション塗れの後孔に、それはするんと押し込まれた。

「頭は忘れちゃっても、身体は覚えてるんじゃなぁい?」

エネマグラ。
物凄い昔の玩具だけど、良く出来てるよぉ。

ロイドはそれがどうやって発明されたかを話し出したが、僕の耳には入らない。
細くて長い指が、黒い革を纏った僕を弄りだしたから。

「触んない―――ぅあ…っ!は…っ!」

はち切れそうな先端の曲線を指先が辿る。
もどかしい刺激だけれど、薬の所為で全身が過敏になっている僕には堪らない。
玩具を押し込まれた奥が蕩け出していた。

「ひっ…あっ…!」

引き攣れる様な声と呼吸に合わせて細い内壁が動く。
すると、エネマグラという玩具があの針を打ち込まれた部分を刺激するのだ。
ロイドが指を動かすたびに身体が跳ね、快感に細い玩具を締め付ける。

「あっ、あっ、イ…あ―――っ!」

高い声を上げた。
身体の奥から達せられる感覚に目の前が白くなる。
僕は背を反らせ、筋肉を強ばらせた。

けれど、締め付けられた僕のものは欲望の証を吐き出すことが出来ない。
激しく揺れる視界に、浅ましく勃起した自分のものが映る。
スリットに白いものが溜まっていた。

「外してっ!取ってっ!!」

苦しくて、苦しくて。
僕は泣き叫ぶ。

「だから、どっちから?」
「前っ!!早…くっ、―――あっ、また……!!」

身体の奥の蠕動は止まる事は無い。
荒れ狂う熱が僕を焼く。
間隔を置かず、再び絶頂感に襲われた。

「あああっ!あーっ!」

さっきよりも長く強い。
頭の中で、精を吐き出すことだけしか考えられなくなる。
先端に溜まった白いものが、一粒たらりと落ちた。
それすらも、僕を責める刺激になる。

「あっ、あっ、やぁ…っ!―――んんっ、イク……ぅ…!」

強すぎる快感が、何度も全身を駆け巡った。
頭の奥が痺れる。
苦しい快感に涙が零れた。
狂ってしまいそうだった。

「ひぃ…、や…ぁ…、も…やぁ…」
「―――感じる場所も同じなのにね…」

腰の上で暴れる僕を見ていないのか、ロイドが独り言のように言葉を紡ぐ。



長く研究出来ないのはね、絶望しちゃうからなんだよ。
みんな、ね。

始まりはそれぞれさ。
ボクは脳が専門で、まあ殆どは脳のエキスパートなんだけども、全員じゃないからね。
半分くらいかな。
神経、筋肉、色んな分野の研究者が此処には来るんだよ。

みんな一生懸命調べるんだ。
君たちとボク達、何処が違うんだろうって。
サイオンなんて違いを生むのは何処だ、何故だって追い求めていって……。

結局辿り着くのは、絶望なんだ………。



「ブルーくん、聞いてる?」

僕は顔を横に振る。
拒絶の意味じゃない。
意味のない声を張り上げて。
顔を振るのは、達し続ける苦しみを少しでも和らげる為だけの行動。
ロイドの言葉なんて、耳に入らない筈なのに。

「しょうがないなあ―――…イキたい?」

こんな台詞だけは聞き逃さない。

「…出したい?」
「あ……出…し…い…」

ボロボロ涙を零して、その言葉だけを絞り出す。
腰を突き出して、解放を強請った。

「胸もこんなにして…」
「ひゃあ…っ!」

肘を付いて上体を起こしたロイドが、尖って赤く膨れた乳首を指で弾く。
またしても、絶頂感が湧き起こった。

「も…イキた…くない…、やだ…ぁ…」

ビクビクと身体が痙攣する。
ぽろり、ぽろりと白い水滴が黒い革を伝い落ちた。

「辛そうだね。じゃ、半分だけ外してあげる」

指が金具を外す刺激さえ、辛い。
僕は唇を噛み締めて堪えた。

作業を終えたロイドが今度は胸を弄りだした。
与えられる快感に身悶えする。



殆ど変わるトコなんて無いんだよ。
可愛らしいここだって、脳だって。
全然違いがないトコの方が多いくらい。

君たちとボク達は同じなんだ。
限りなく同じ……。

でも、完全に同じじゃない。
ほんの僅かな違い―――それに気がつくと、ボクらは絶望する。



「…あっ、ん…、あぅ…な…ぜ……」
「あれ〜?まだこんな元気あったの?」

足りないみたいだね。
「じゃあ」とロイドは拘束されている僕自身を扱いた。

「ぅく…!あああっ!」

ぎゅっと掴まれて、そのまま上下されると、アレがせり上がってくるのが分かる。
幾度感じたか分からない、あの絶頂感が……。

「あっ、あっ、来るっ…ん、んん―――っ!!」

押し止められていた欲が管を上ってくる。
そんな筈はないのに、酷く熱く感じた。
身体が硬直する。

「あぁぁぁっ!あ……、あっ、あっ………!」

今だ上半分は縛められたまま。
白い液体はゆっくりと流れ出てくる。
僕は吐精の瞬間の快感を引き延ばされていた。
身体が小刻みに震え、緩慢とも思える速さで細く長く精が滴り落ちる。

「ひ……、あっ…ああっ、や……ああ…っ…!」

イキ続ける僕から、あの玩具が引き抜かれた。
熱いものが入り口に触れたかと思うと、一気に押し込まれる。

「やっ―――ああああああっ!」
「自分から銜え込んで貰うのは次の機会にするよ。もう…ボクが、限界…っ!」

快感で締め上げていた肉が割り開かれた。
絶叫する僕は腰を掴を掴まれ、下から突き上げられる。
続く絶頂感の中で、ロイドの声が聞こえた。



君たちとボク達の違いはね、本当に小さなものだった。
よーく、よーく気をつけて見ないと分からないくらいの。
遺伝子がほんの少しだけ違ってた。

こんな、ちょっぴりの違い。
でもそれが、ボクと君たちを分けるんだよ―――未来のあるものと、無いものに。

自分たちが滅びゆく種と知って尚、平常心でいられる程人間は強くない。
どんなに手を尽くしてもその未来が変えられない事を知ると、みんないなくなる。
みんな、みんな…。



ロイドが上半身を起こした。
揺すられながら、口の端から唾液を零す僕を抱き締める。
痛いくらいの強さで。

「君たちが羨ましいよ、ボクは……」

突き上げが激しさを増した。
同時に身体に巻き付いたロイドの腕が、僕を下に押しつける。
すぐに身体の奥の蕩けた場所で弾ける感触。
堪らず僕も―――。

手放す意識の端で、声が聞こえた。

「ボクはいつまで堪えられるだろう……」

その言葉を最後に、ボクの意識は途絶えたのだった。
















---------------------------------------------------- 20080910 苛烈な実験の元にあるもの それは憎しみと嫉妬 誰が悪い訳じゃない 誰の所為でもない でも―――憎まずにはいられない 妬まずにはいられないのだ