じっと見つめられた。
伺うような、見透かすような、何かを探るような視線。

その不可解な表情をした瞳を見つめ返せば、微笑まれた。
何だい?と訊ねると、何でもありませんと笑って云う。
本当に?と目で問うても、答えずただ笑う大きな身体に云った。

「そろそろ行こうか、ハーレイ」
「本日の巡回、申し訳ありませんがお1人でお願いします」
「忙しいのかい?」
「…ええ、まあ……」
「僕で手伝えることなら―――――」
「いえ、大丈夫です、ソルジャー。お言葉に感謝します」
「わかった」



















最後に、公園区域で子供たちと遊んで自室に戻った。
かくれんぼをしている最中から、少しおかしいとは感じていたのだが、マントを外し
ブーツを脱いでベッドに辿り着いた頃には、はっきりと自覚症状が現れていた。

背中を走る悪寒。
指の先が冷たい。
発熱の兆候だ。

何とかスーツを脱いだが、片付けられずベッドサイドのテーブルに投げ出す。
どさりと横になり、額に手を当ててみれば、もうかなり熱かった。

まずいな。
ブルーはため息をついた。
その息も、熱い。

2日前の戦闘の所為だろう。
力を使いすぎたかなとは思ったが、今頃出てくるか。

「年かな…」と、埒も無いことを呟くと、喉がひりついた。
水を持ってくるように頼もうかとも思ったが、そんなことをすればドクターが
飛んでくるだろう。
病院嫌いのブルーは喉の渇きとドクターや薬を天秤にかけ、重い身体を起こした。
ベッドに縛り付けられるくらいなら、這ってでも。
素足をひんやりした床につけた。

ああ、気持ちがいい。
そう思ったときには、頬が床に付いていた。
足に力が入らない。
これは本格的にまずいと思い始めた時、しゅんと扉が開いた。

「やっぱり…!」

ハーレイが駆け寄り、抱え起こす。
細いブルーの身体を難なく抱き上げ、そっとベッドに下ろした。

「こんなに熱があって、何処に行こうというのですか、あなたは」

眉間に皺を寄せてはいるが、口元には微かに笑いが滲んでいる。
仕方がないひとだ。そう云っている。

目にかかる白銀の前髪をかき上げられ、額を撫でられる。
ハーレイの手は少し冷たくて、気持ちがいい。
けれど、まるで小さい子供にでもするような仕草であったので、ブルーはむくれて
ついと顔を背けた。
何しに来たんだ、と強がりを言うと、ハーレイの顔ははっきりと笑みの形を取った。

「無断で入室して、申し訳ありません」

笑いを噛み殺しながら言い、入り口に置いてきた袋を取り、中身をテーブルに並べる。
数本のボトルの水、薬、頭や脇の下などを冷やすジェル、それに小さいなべ。
水のボトルを取り、捻って栓を開けるとベッドのブルーに差し出した。

「ご要りようかと思いまして」
「……………」

差し出された水と、微笑むハーレイを交互に見ている。
紫の睨むような視線に、ああ、と頷くと、ボトルの水を口に含んだ。
ブルーが逃げるまもなく唇を捕らえ、流し込む。

「……んっ!」

こくんと飲み込んだのを確認すると、ハーレイは唇を解放した。
ブルーの口の端から漏れた水を、親指で拭う。

「ハーレイっ!」
「出過ぎた真似を致しました」

そう恭しく頭を下げるものだから、ブルーは盛大にため息をつくとベッドに背を預けた。
実際、身体がだるい。
起きているのが辛いほどだ。

素直に水が欲しいと言えば、今度はボトルが渡された。
少し冷たい水が、熱に浮かされ始めている身体にすうっと浸み込む。

「……どうして解った?」

ベッドサイドに控えるハーレイに問うた。
今日は殆ど顔を合わせていないし、発熱した当人の自分でさえ、つい先ほどまで
全く自覚症状が無かったのだから。

「さあ、何となく……でしょうか―――お飲み下さい」

熱さましです。
そういいながら、薬を差し出す。
医者も薬も嫌いなのだが、ハーレイの手のひらに乗る白い錠剤には嫌悪感を感じなくて。
ブルーは多めの水と共に嚥下した。

目の端に、テーブルの小さななべが映る。
そういえば、巡回の途中でハーレイを見かけた。
確か―――食堂だった筈だ。

手にあるボトルを見つめる。
自分で集めてくれたのだろうか。
多分そうなのだろう。
ブルーが抱く、医療と名のつくものへの極度の嫌悪感を彼は知っているのだから。

ありがとう、と呟けば、大したことではありませんと笑った。

「早く治したければ、少し無理にでもお召し上がり下さい。あなたは弱すぎる」
「おまえが、丈夫過ぎるんだ…!」

声を立てて笑いながら、ハーレイは入り口へと戻る。
去っていく後姿に―――――思わず名前を呼んだ。

「ブリッジで指示を出したら、すぐに戻ります」

その優しすぎる声音に、ブルーは思った。
完敗だ。

ボトルを抱えて、横になる。

今日は甘えよう。
食べさせてもらって、濡れたタオルを額に当ててもらって。

つらつらと考えながら、緩やかなまどろみに落ちていくブルーだった。













----------------------------------- いつもあなたを見てるから ずっとずっと見てるから いつもあなたの後ろにいます 20070630