Eve tonight





クリスマスの喧騒に包まれたNY。
イブの夜、空港に降り立ったアンシェルは、人工の光の洪水と浮かれ切った人々に
ため息をついた。

「お気に召しませんか、兄さん」
「…ああ」

ソロモンの言葉にウンザリした顔で答え、歩き出す。
二人分の荷物が詰まったスーツケースを手に、ソロモンが続いた。

「他人の誕生日に何を騒ぎ立てるのか。暇な人間の多いことだ」

苛立たしげに呟く声は低い。
珍しい兄の様子に、ソロモンはくすっと笑った。
兄の不機嫌の理由、それが可笑しい。

今回も馴染みのホテルに宿泊するのだが、そこまでの道中の足が異なるためだ。
常ならばホテルが差し向けるリムジンに乗り、車中で冷えたシャンパンなどを愉しむ。
しかし、今夜はクリスマス・イブであったために手配が付かなかったのであった。

空港でイエローキャブを拾わなくてはならない。
それが我慢ならないらしい。

「たまには、こういうものも悪くないですよ?」

1時間近く並んで、ようやく乗り込んだタクシーの中で笑いかけるソロモンを一瞥し、
窓の外を見やった。
赤と緑、金や銀と白や青。
煌びやかな光の渦が黄色いタクシーを包む。
いつもより多い人々は皆一様に笑い、手には大きな荷物を抱えていた。
クリスマス休暇が始まり、明日に備えて家族の許へ急ぐ。
プレゼントを持って。

ソロモンは隣を見た。
足を組んで外を眺めるアンシェルは確かに傍にいるけれど。

ただそれだけ。

ディーヴァも、ジェイムズも、カールもいない。
みんな全て、死んでしまった。
アンシェルと自分以外で唯独り生き残ったシュヴァリエの末弟、ネイサンも行方が知れない。
胸の奥が誰かに掴まれた様に痛んだ。

ソロモンは、ふうっと息を零す。
気づいたアンシェルが振り返った。

「何でも……ないんです」

その微笑に何を見たのか。
アンシェルは手を伸ばした。










「んっ……ふ…く…っ…ぅ…」

両手首を掴み、ドアに押し付けた。
膝を割って入り込んで、ソロモンの唇を貪る。
こんな場所で口付けされたことに驚き、見開いた青緑の瞳は何度も瞬いた。
押し戻そうと腕を突っ張るが、力で兄に適う筈が無い。

「んぅ…や……ふ…んっ、やめ…て…んんっ」

くぐもった声で伝えるが、兄の手が弛む気配は無い。
タクシーは大通りのど真ん中で渋滞に巻き込まれ停止している。
前にも後ろにも、右にも左にも車がいるのだ。
それなのに、兄の手はソロモンのベルトを外しにかかっている。
かちゃかちゃという音に、ソロモンは首を捩って逃れると、声を上げた。

「兄さんっ!」
「…なんだ」
「こんな場所で、止め―――んっ!」

再び唇を塞がれる。
ベルトを外し、ズボンの前を寛げた手がするりと侵入した。
柔らかいものを掴まれ、揉まれる。
頭では拒否しているのに、この大きな手に慣らされた身体はすんなりと反応し出した。
痺れるような快感が腰から背骨を通って脳を焼く。
ぶるっと身体を震わせたソロモンは、濡れて硬くなった自身とアンシェルの手が奏でる
水音を聞いた。

「ふ…っ!…うぅ…っ、ぃ…んぅっ!…」

舌も手も止まる気配は無かった。
目だけでにやりと笑ったアンシェルはソロモンの手を放し、小振りな後頭部を押さえつける。
更に深く舐った。
昂ぶらせられるソロモンは両手で兄の胸を押すが、その力は次第に弱くなっていく。
ついには、縋りつくように仕立ての良い背広の肩を掴んだ。

「ふっ…う…ん…」

自ら唇を差し出し、大きく口を開く。
噛み付かれるような激しいキスに、酔った。

小刻みに震えながら満足する反応を返した弟を、アンシェルはようやく解放した。
自由になった途端、ソロモンは大きく息を吸い込んだ。
口の端から垂れた唾液を舐め取り、濡れた瞳を覗き込む。

「もっと、欲しいだろう?」
「…いけ…ま…せん…」

ソロモンはゆるゆると顔を横に振るが、吐く息は熱く、上気した頬や項がアンシェルを誘う。
少し強めに、勃ち上がったものを扱いた。

「んくぅ…っ!」
「欲しいだろう…?」
「駄目…っ…ですぅ…っ、ああっ」

溢れた先走りを塗りこめるように、手を動かす。
スーツの上を肌蹴させ、シャツの上からしこった突起を押し潰した。
ソロモンが、跳ねる。

「ああっ…!んぅ…、くっ…ぁ…んん…っ」

ドライバーとは、薄いプラスティックの板一枚しか隔てられていないのだ。
実際、ちらりと視線を投げた気もする。
嬌声を押し殺そうと、ソロモンは歯を食い縛った。

「聞かせてやったらどうだ?ん?」
「―――!んっ、んんっ!」

アンシェルは必死に顔を振るソロモンに圧し掛かり、太股を持ち上げた。
押し付けられたものの硬さに、顔色が変わる。

「いけませんっ!兄さん!」
「何が、だ…?」
「まだ…こんな場所で…なんて…、ぅっ…ぁあ…はっ…」
「見せてやるがいい、お前のみだらな姿を…」
「嫌だ…っ、やめ…てっ…!…お…願い…です…ぁ…ぅうっ…」

きつく眼を瞑ったために零れ落ちた涙を舌で舐め取る。
アンシェルが舌を這わせる眦は、朱に染まっていた。

「我慢することはない…」

音も無く、ソロモンのズボンが下穿きごと裂けた。
激しく頭を振る為に乱れる金糸に口付ける。

「達するお前は淫らだが、美しい。本当は誰にも見せたくない所だが、
 クリスマスとやらだからな」

祝福を与えてやれ。
アンシェルは、素早く取り出したもので貫いた。
ソロモンの内部は熱くきつく、絡み付いてくる。
「そんなに欲しかったのか?」と耳元で囁くと、ぎゅっと締め付けてきた。
恥ずかしさが快感に変わるソロモンに、教えてやる。

「周りを見てみろ。隣も前も、後ろの車からも視線を感じるだろう?」
「んあっ!い…や…っ…!」

腹に挟まれたソロモン自身から、こぷりと蜜が溢れる。

「…嫌?嘘をつけ―――こんなに締め付けて…」
「ひぅ…っ!」

アンシェルは抉るように腰を動かした。
ぎゅうぎゅうと締め付けてしまう内壁が、その動きに合わせて引き攣れる。
摩擦が生む快感にソロモンは喘いだ。

「ひあ…いや…うんっ!……ひぃ…ああああぁ…」

ぐちゃぐちゃいう音が嬌声と共に車内に響き渡る。
さほど暖房は効いていないのに、窓ガラスが曇り始めた。

そら。いけ。
アンシェルは激しく腰を穿った。一点のみを責める。
一際高い声を放って、ソロモンは顔を仰け反らせた。
しなやかな細い腰をガクガクと痙攣させながら白濁を噴き上げる様を見下ろし、
アンシェルは息つく暇も与えず掻き回す。

「あ?!兄さん、な…っ!…いや…まっ…て…!」
「もっと施しを与えてやれ」

容赦なく、貪るように貫いた。

「ーっ!ぃああああっ!!」

達したばかりで敏感な部分を突かれ擦られ、ソロモンはアンシェルの下でのたうった。
もう勃ちあがっている部分が、ヒクヒクと震える。

その細い身体をくるりと回転させた。
自分がシートに座り、腰の上にソロモンを抱え上げる。
逃れる隙を与えず、下から突き上げた。

「うあああっ…!」

タクシーが揺れるのも気にせず、揺さ振った。
ソロモンの口からだらしなく銀の糸が引く。
シャツのボタンが弾けるのも気にせず、露出させた胸を吸った。
ソロモンの声と震えが大きくなる。

けばけばしい電飾を背景に金糸を振り乱す姿が、酷く美しかった。
満足したようにアンシェルは笑う。
そうして華奢な腰を掴み己のものにぶつけるようにして、深い所を突いた。

「ひぃ…ああああああっ!」

連続して射精させられ、勢いのない白濁が腹を汚した。
がっくりと倒れ込む白い身体を受け止め、うなじに顔を埋める。



そして―――――牙を突きたてた。



ひぃっ―――きぁああああああ………っ!
その声を残して、ソロモンは意識を手放した。



















「全く、悪趣味ね」

相変わらずで、嬉しいわよ。
ドライバーが振り向きもせずにそういった。

「覗き見を画策するお前に言われたくはないな」
「あらっ!」

芝居じみた仕草で振り返ったのは、ソロモンよりも色の濃い金糸の男。
ネイサンは長い人差し指をアンシェルに向けた。

「失礼ね!兄弟ゆえの心配じゃないの!」
「ふん。貴様に心配される謂れはない」
「ホ〜ント、冷たいんだから」

ネイサンはくいっとハンドルを切り、器用に横道に逸れた。
すぐに見慣れたエントランスの前に着く。

「お前……」
「楽しかったでしょ?」

横付けして、振り返るとにやりと笑う。
アンシェルは呆れたように息をつき、「仕方のない奴だ」と吐き捨てた。
わざと渋滞する箇所を選んで走り、"事"に及ばせた。
アンシェルはすっかり掌で踊らされたらしい。

まだ意識を失ったままのソロモンをコートで包み、抱えて車外に出る。
ドアマンに一言三言云いつけると中に入っていった。
それを微笑んで見送っていたネイサンは、窓をノックする音に振り向いた。
すーっと窓を下ろすと、ドアマンが上品な笑顔を向けている。

「キーを預かります」
「え?なあに?」
「ゴールドスミス様から、言い付かっておりますので」

手を差し出す。
振り返ってホテルの玄関を見ればこちらに顔を向けるアンシェルが居た。
唇が動く。

ソロモンが寂しがる。
早く来い。

ネイサンは驚いて目を見開いたが、すぐに相好を崩した。
ふっ、と笑う。

「ほ〜んと、変わらないわ」

ソロモンに甘いトコ。
そう呟いて、ドアを開ける。
キーを放ってドアマンに渡すと、駆け出した。

「ま、いいわよね。今夜はイブ、明日はクリスマスだもの」

3人の姿はエレベーターに消えた。










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20071225

クリスマスが似合う二人とひとり
仲良く過ごして欲しい