ソロモンの舌はアンシェルの唇を割り開いた。 僅かに背伸びして、両手で頬を押さえる。 奥で息を潜めるアンシェルの舌を求めて、蠢く。 いつしか、アンシェルの腕がソロモンの腰を抱いていた。 首を傾げ、熱い息を吐く弟の唇を―――――塞いだ。
―――――狂い、咲き 長い長い口づけのあと。 身体を離したアンシェルは、一人桜の根元に座った。 置いていかれ、所在無げに立つソロモンを見上げ、笑う。 どうする? どうされたい? 言葉は無いが、余裕の笑みは雄弁に語る。 私は動かないぞ さあ、どうする…? 息を弾ませ、頬を紅潮させたソロモンは、今まで兄が塞いでいた唇に 指で触れた。そのまま顎から首筋へと這わせる。 いつも、兄の唇がなぞるように。 自らの指の感触にひくんと震える。 シャツのボタンを外した。 ぼんやりと、白い胸部と程よく筋肉のついた腹部が光る。 はらり、はらりと花片が舞う中を、アンシェルへと歩み寄る。 …欲しい 今すぐ 欲しくて堪らない――――― 瞳は濡れ、左手が腰骨を掠っただけで疼きが起こる。 アンシェルの目の前に立ち、自分ではもうどうすることも出来ない程 昂ぶった気持ちを、視線に込めた。 今すぐ、あなたが欲しいんです、兄さん まっすぐ受け止めたアンシェルは、けれど、動かない。 笑みを深くしただけ。 その意味を理解したソロモンは、足の間に入り込み兄のベルトを外した。 下ばえの草が、上下する頬に触れる。それすらも快感を生む。 ソロモンは四つんばいになり、アンシェルのものを懸命に咥え、舐めた。 兄の手が、弟の金糸を掻きあげる。 普段は強制しなければ口を使わない弟が、自らの意思で咥えている。 くぐもった声と水音と共に一心不乱に己のものを頬張る。 アンシェルはその淫靡な様子を満足げに見つめていた。 欲しい、これが 一刻も早く、中へ ………深い処に 男の膝の間で四肢をついて這い蹲り股間に顔を埋める自分が、 今どんなに浅ましい格好をしているか。 想像するだけで、身体が熱くなる。 平素であれば屈辱感に苛まれ、兄を拒んでいたかもしれないというのに。 堪え切れず、自らの足の間に手が伸びた。 服を着けたままなのが、じれったい。 命じられてもいないのに、撫で摩る。 これも漂う桜の香りの所為なのか―――――それとも……… ソロモンの思考は長く続かない。 意識はすぐに、焦がれて止まない、快楽への渇望に呑み込まれてしまう。 獣のような姿勢のまま、右手でアンシェル自身を掴み咥え、 左手は己の昂ぶりを摩り続ける。 …ん…ふ…んん……ん… 鼻から声が抜ける。 それ以外は、桜の花びらが花弁を離れる瞬間や地面に接する時の音すら 聴こえるのではないかと思われるほどの静寂。 そんな静けさの中、アンシェルが気持ちよさげな息を漏らす。 ちらと見上げた。 瞬間、兄のものが弾けた。 反射的に離れようとした金糸が、押さえ付けられる。 一滴残らず口内に吐き出すと、アンシェルは戒めを解いた。 ソロモンは彼の精の全てを嚥下した。 上体を起こし、手の甲で口を拭う。 そこから立ち上るアンシェルの匂いが淡い桜の花香と混じり合い、 ソロモンを更に煽った。 足の間で膝立ちになり、熱い思いのままアンシェルを見つめた。 だが、腕が伸びてくる様子も、押し倒される気配も無い。 兄は、ただただソロモンを見つめ、口元に笑みを刻んでいる。 さて、どうしようか……? からかう様な視線に。 ソロモンはゆらっと立ち上がり、自らのベルトに手を掛けた。 縋るように見やるが、兄は動かない。 軽く唇を噛むと、ズボンと下着を脱いだ。 闇に白い下肢が浮かぶ。 ソロモンは兄の股に跨り、彼の両肩に手を置いた。 目を閉じず、顎を差し出す格好で唇に吸い付いた。 咬みつく様なキス。 舌を差し入れ、兄の口内を犯す。 それでもアンシェルは応えない。 溢れ出す先走りに光る己の昂ぶりを、我慢が出来ずに握り込んだ。 甘い電流が背筋を駆け上る。 ソロモンは顔を振って唇を外し、高らかに声を放った。 「あああああっ!はあああっ……いい…っ…!…」 扱き上げる手が止まらない。 にちゃにちゃと濡れた水音が早くなる。 眉根を寄せた甘い苦悶の表情で、喘ぎ声を上げ続ける。 そんなソロモンに口元をほころばせたアンシェルが、動いた。 膝の上で手淫に耽る弟の双丘を両手で掴み、割る。 あられもない痴態にすっかり立ち上がった自身の上に、 力を込めて打ち付けた。 「ひ……っああああああああああっ………!」 一気に突き破られた瞬間には絶叫し括目したが、すぐに渇望した快楽に ソロモンは溺れた。 青い瞳には、舞い散る数を増し始めた、淡い色を纏う花片は映らない。 この快感をもたらす兄の顔が、世界の全てになった。 「ああ…ふ……ああ…あ……にいさん…!」 口の端からは銀の糸が引き、白い胸で細い月の光を反射させる。 アンシェルの肩に爪を食い込ませ、自ら激しく腰を振った。 淫らに蠢く手も速度を上げる。 「あ……い…い……も…にいさ……イク…!」 「いいぞ……ソロモンっ…!」 ソロモンは高らかに声を放って、びくんと身体を大きく震わせた。 欲望の白濁を全て吐き出してしまうと、アンシェルに凭れかかる。 彼の匂いのする胸に頬を寄せ、浅い息を繰り返した。 同時に達したアンシェルは、頬ずりしているソロモンの後頭部を撫で、 柔らかい毛先を指先で弄んでいる。 ふと顔を上げ、雪のように降り注ぐ桜に目を細め―――――笑った。 二人の頭上で、ざあっと音を立て沢山の花びらが散った。 弄んでいた指先が、いまだ陶然とした表情のソロモンの金糸を絡め取り、 ぐいと引いた。 「あ…………」 淡い桃色の上に押し倒される。 桜の花片の褥。 月の光を浴びて光る白い肢体に、アンシェルはゆっくりとのしかかった。 心地好い重みに、ああ…と声を漏らしたソロモンの瞳に、細い月が映る。 アンシェルが散らせた枝の先に浮かぶ、まだようやく中天に差し掛かった月が、 春の色にしっとりと艶めく二人をそっと照らしていた。