何故こんなにも感じてしまうのか あの人ではないのに
My pleasure      〜ある老人の独白〜 「わしがいずれ奪ってみせると言ったら、貴様どうする?」 「・・・・・無理だと思いますが。アレが、私から離れることはありません」 「ほう、大した自信だの」 「事実ですから」 「ふん、まあいい。あまりに締りが良いから、先にイってしまった。  わしも年だからな、そんなことも無くなって久しいんだが」 「・・・・・・・・」 「嬉しくての。ついもっと苛めてやった」 「・・・・・・・・・・ほう」 「イきかけたあやつの根元を握り締めた。・・・くく、それはもう好い声で強請りよった」 「・・・・・・・・・」 「もっと良い思いをさせてやるからここに残れと言ったら―――― 微かに。 相手が息を呑むのが解った。 老人は喉の奥だけでくくっと嗤うと、一息置いて、言った。 「結果は見ての通りじゃ」 「・・・・・・・・・・・・」 「そのまま帰したからの。せいぜい喰い千切られん様にな・・・!」 チン。 暗い室内に華奢な受話器を置く音が響いた。 すると音も無く、老執事が滑り込んで来た。 電話に手を掛け袖机上に滑らせて片付けると、主に向かって恭しく頭を下げ指示を待つ。 下がれ、という台詞の代わりに聴こえたのはくくっと可笑しげに笑う、しわがれた声だった。 「あやつ、嘆息しおった・・・!」 相槌を求めている訳でないを理解している老執事は、少し頭を上げ主を見る。 「ちらとでも、弟が残ると思ったのかの・・・くくく」 「・・・・・・・・」 「帰すのは誠に惜しい逸材だったが、あれだけ調教されておると、の・・・」 「・・・・・・・・殺りますか?アンシェル・ゴールドスミス」 「よいよい。意趣返しは済ませた。今頃、ソロモンの元へ飛んでいっているだろうよ!」 「出過ぎたことを申しました」 「今宵は構わん、許す」 わしは気分が良いのでな。 そう言って、手を動かし執事を下がらせる。 「・・・・・・・・・・兄も兄なら、弟も弟じゃ」 老人のモノが太さを増し、欲望を吐き出した。 その刺激が更に快感を招いた。 ソロモンの身体が反り返る。 「んあああああああああああっ!」 もうイク・・・! 大きく背を反らし、込み上げる波に呑まれようとしていたソロモンの動きが止まった。 身悶えしながら顔を絨毯に押し付け、両手で太股の間を抑える。 「あ・・・・・あ・・・んう・・・あっ・・」 びちびちに猛り切った自身の根元を、老人の手が締め付けていた。 出口を失った波が、内側からソロモンを責め立てる。 苦しそうに眉間に皺を寄せ、背中から腕を回している老人に振り返った。 「ん・・・何・・を・・・・・?」 老人はその切なげな様子に口元を歪ませ、にやりと笑った。 「は・・・・放して、下さい・・・・・・・あっ」 ソロモンに答えず、彼の中から満足して萎みつつある己をずるりと抜き去った。 しかし、手を緩めることはしない。 何とか外そうと、ソロモンは皺に覆われた手を掴み身を捩った。 老人はいつの間にか傍に来ていた黒スーツの男二人に指図し、自分は元のソファーに戻る。 男たちは服を脱ぎ捨て、無言でソロモンに触れた。 「いや・・・・だ・・・・・!んんっ・・・・は・・あう・・・・・・・・んっ」 一人は抗うソロモンを全裸のまま後ろから抱えて座り、残りは口付ける。 腰に当たる硬い感触が、彼らの吐く息が、無言ながら二人が興奮している事を如実に示していた。 だが。 ソロモン自身の根元に巻きついた、指の拘束は解かれない。 抱きかかえ撫で摩る男と、口付け握る男。 二人がかりで、ソファーで葉巻に火を点ける老人に向かって大きく足を開かせた。 白濁の混じった先走りが、猛ったままのソロモン自身を光らせる。 「んんっ・・・む・・・は!・・・んむ・・・・・ん・・・・・」 立て開かれた両膝は見えるほどに震え、その身体は紅潮していた。 秘所からは老人とその前の二人分の精が漏れ始めている。 「嬲って構わんぞ。但し―――――イかせるな」 「嫌っ―――うああっ!!」 ソロモンは激しく身体を振り、口付けから逃れた。 だが、身を捩って腰が浮いた途端、抱きかかえた男に侵入を許した。 「あああああああああっ!」 下から突き上げられ、絶叫する。 逃げ場の無い快感が、絶頂感がソロモンを苛む。 身体をガクガク震わせ、ひたすら声を上げ続けるしかなかった。 「ひあああああ!うあ・・・あああああ!」 老人に啼き声を聴かせるため唇を開放した男が、足を固定しながら、ソロモン自身に舌を這わせる。 イってしまわないよう、咥えることはしない。 しかし、括れに沿って一周すれば、その凄まじい快感がソロモンに一層の声を上げさせた。 「うわあああああああああああ!!」 「―――くっ!きつい・・・!」 秘所を嬲っていた男が、動きを止めた。 ソロモンの最深部に自身を押し付け、息を殺す。 「やめ―――――――!」 男の、見せ付けられ、我慢を強いられて、ぐらぐらとたぎった欲望がぶちまけられた。 ソロモンは目と口を大きく開いたまま、硬直する。 そうして。 「ぁ・・・ぁ・・・・・ぁぁうああああああああああ!」 絶叫と共に、意識を手放しかけた。 引き止めたのは、老人の言葉だった。 「どうじゃ――――イきたいか?」 縋る様な視線を向ける。 「・・・・・ん?」 口を開いた。 けれど。 はい、という返事は、発せられなかった。 続いた老人の言葉が、ソロモンの口を閉じさせた。 「わしのモノになれば、もっと良い思いをさせてやるぞ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「更に深い快楽も与えてやる」 ソロモンは、ごくりと唾を飲み込んだ。 肩で息をする男に抱かれたまま、苦しい表情で答えた。 「・・・お・・・・・お断り、します」 老人は葉巻の煙を吐き出しながら言った。 「苦しかろう・・・?」 「・・・・・い・・え・・・」 「楽になるぞ?」 ソロモンはぎこちない動きで、横に首を振る。 身体の震えは止まらないというのに、微笑んでまで見せる。 「も・・・う、帰り・・・ま・・す」 足腰も立たんだろうに。 ならば・・・・・ 「どこまで我慢できるかの」 老人は、ソロモンの後ろの男に目で合図を送った。 すると、欲望を吐き出し、萎みつつあった彼自身が、ソロモンの中で再び硬度を増し始めた。 「・あ・・あ・あ・・・!」 「こいつらも色々な特殊訓練を積んどるわい」 もっと楽しませて貰え。 その言葉が消え去る間もなく、ソロモンの声と水音が再び室内にこだましだした。 はあ。 はあ。 はあ。 誰とも知れぬ息遣い。 それだけが聴こえる。 老人はグラスをくいと傾け、深紫の液体を飲み干した。 目の前で、3人の男が横たわっている。 緩やかなウェーブを描く金糸を挟んで、短く刈り込まれた黒茶の髪。 黒と茶が気だるげな動作で立ち上がり、主に目礼すると部屋を後にする。 その慣れた行動は、"こういう事"が決して珍しくないことを現していた。 しかし、二人が未だ横たわったままの金糸に投げた視線に 未練がましさを見て取った主は内心で舌を打つ。 ソロモンを抱く自分を見ていた時といい、去り際といい、強制される色事に過ぎ、 もはや興奮すらしないだろうと思っていた連中だ。 実際これまで貴族の姫、女優、オペラ歌手と美形や清楚や妖艶といった、 大よそ凡人が欲情して我を忘れるような華やかな人間たちを手篭めにさせてきたが、 それでもここまでの反応を見せることなど皆無であったのに。 それだけ、この"対価"は並外れたものだったのだ。 「・・・・・欲しいのう」 老人は改めて横たわる白い肢体を見つめた。 ソロモンはゆっくりと頭を上げ、腕で支えながら上半身を起こした。 ふらつきながらも立ち上がり、3人掛けのソファーに置かれていたタオルで身を拭う。 「――――ん!」 首筋にタオルを当てた瞬間、声が漏れた。 「ん・・・く・・・う・・・んく・・・」 苦しげに息を吐き、汚された部分を拭いていく。 最後に嬲った男たちも2度、3度と精を吐き出した。 秘所といわず、口といわず抵抗するすべなく受け止めたソロモンだったが、 その口からはとうとう老人の望む言葉は発せられなかった。 結果、ソロモンの身の内では吐き出されることの無かった情欲が渦巻いていることだろう。 どんな刺激も快楽を誘っているに違いない。 頬は紅潮し、眉間に切なげな皺を寄せている。 その様子に、またぞろ分身が顔を擡げそうになる。 この歳で一晩に2回とは・・・・・! それを可能にしかねないソロモンを何としても手にしたい。 何でも望むものを与えてやるから残れ。 そう言い掛けて、老人は嗤った。 ―――――替えの利かぬモノなぞ、手にしてはならない。 それは没落した貴族の末裔を一代で建て直し、且つ、財界の重鎮にまで押し上げた老人が 貫いてきた鉄則だったはずだ。 危ない、危ない。 自らボトルを持ち、グラスに注ぐ。 これもあの男の、アンシェルの画策か・・・・・ いや、そうではあるまい。 あいつはこのソロモンの価値に気が付いていないのだ。 そうでなければ、こうもあっさりと弟を差し出すことはしないだろう。 しかし、あの嘆息。 アンシェルも替えの利かないモノを手にしてしまったのだ。 己の気が付かないところで。 喰えない男だと思っていたが、存外初心なところもあるのだな。 老人はくくっと笑った。 ソロモンはシャツに袖を通すなど肌に衣服が触れる度に押し殺した声を出していたが、 すっかり身支度を整えると、大きく一つ息を吐き背筋を伸ばした。 「やはり、帰るのか?」 「はい」 一言そう云った顔は、やや紅潮しているものの落ち着いて普段と変わらないように見えた。 あれだけの熱を押さえ込み、平常に立ち返ることが出来る精神力にまた驚く。 これだから―――――老人は得心した。 「気をつけて帰るがいい」 「はい」 軽く会釈して、踵を返す。 服を着てしまった以上、動けば擦れる。 肌から与えられる刺激は如何ほどのものか。 それらを全て押さえ込んで、ソロモンは歩み扉の向こうに消えた。 扉までの数メートルの距離で、ソロモンは幾度もふらついた。 そんな様子を思い出し、苦笑する。 「頑固者じゃ――――――二人とも・・・・・」
あの人ではないけれど これも、あの人が与えてくれるもの、だから