不意に襲ってきたその感覚に、ブルーは息を飲んだ。

会議も終盤、最後の議題の決を採っている最中である。
不在のキャプテンの代わりに議長を務めているヒルマンが気付き、
どうかされましたかと思念を送ってきた。
何でもない、進めてくれと応えるが、全身を包む感覚は消えず、
ブルーは身体を固くする。
何事も無い顔をして、決定した内容を読み上げるヒルマンの声を聞いているが、
内心では必死に呼びかけていた。

ハーレイ、ハーレイ!と。










――熱に、浮かされて――










ハーレイが熱を出し、寝込んだのは昨日の夜。
船内で"鬼の霍乱"だと驚きの声が上がるくらい丈夫な彼は、見舞いに訪れたブルーに
酷く恐縮していた。
明日の会議までには必ず治しますとは言ったものの、疲れが溜まっていたのだろう
熱は下がらず、ついに初の欠席をしたのであった。
今も眠っている筈だ。

けれど。
これは、ハーレイだ……!
確信したブルーは、何かを堪えるように息を吐いた。

では、散会と致します。
ヒルマンの声を合図に、楕円のテーブルの頂点に座っていたブルーが席を立つ。
他の長老たちもそれに続いた。

ハーレイを感じてから散会の言葉を聞くまでは、僅か5分ほどだったろう。
その短い時間についたため息の数は、両手ではとても足りない。
部屋を出、皆と別れ通路で独りになると、ブルーは壁に手を付き胸元を掻き抱いた。
奥歯を噛み締め、苦しそうに目を瞑る。

「あ……っ…はぁ……っ!」

しゃがみ込むのは何とか堪えたが、それはそうしてしまえばもう立ち上がれないと
感じたからだ。

もう、ハーレイに呼びかけることはしていない。
強引に病室を覗いてみて、今ブルーの全身を包んでいる思念が明確な意識から
発せられたものではないと分かったから。
彼は今も、微熱に浮かされながらも深い眠りについていたのだ。

はぁ、はぁと荒い息を付きつつ、紅潮した顔をぐっと上げた。
もう堪えられない。
ブルーは自室に飛んだ。




どさりとベッドに落ちる。
そっと着地する余裕も無い。
ブーツも何もかも身に着けたまま、ブルーは身体を丸めた。

「く…は……はぁ…んく………くぅ……」

僅かに震え蠢く身体に合わせて着衣とシーツが擦れる音以外は、
ブルーの苦しげな声だけが響く。

全身を見えない何かが這い回る。
それは臥せっている筈のハーレイの手のひらであり、指先であり、
唇であり、生暖かい舌だった。

それらがブルーの肌の上を滑る。
全身のあらゆる場所を。
一斉に。
そして、同時に。

今ハーレイの唇は、ブルーの唇を覆い、左の胸の突起を含み、項を強く吸い、
内股をなぞっていた。
舌は、わき腹を舐め、双丘の谷間を這い、わきの下を味わう。
手のひらと指先の感触は、最早何処をどうしているのかも解らない程全身隈なく
広がっていた。

「はう!ああ……!」

ブルーは脂汗を滲ませ、堪える。
意識が吹き飛んでしまうかと思われるほどの快感だった。

どうして、こんなことに……!
病室は、苦痛に満ちた思念を漏らさないように、またも外から伺うことが
出来ないように厳重な思念シールドに守られている筈なのに……!
ブルーであっても、簡単に中を視る事は出来ない程なのに……!

「んあっ!」

新たな快感が走る。
舌が背骨に沿って背筋を舐め上げた。
同時に、足の指が温かい口内に咥え込まれた。
指の間を"舌"が這い回る。

うつ伏せになり、シーツを噛む。
両の手で、己を抱くようにきつく掴んだ。
爪が食い込み痛みが生じるが、すぐにその部分を舌が手が覆い快感に変えてしまう。

明確な意識でないということは、深層部分の無意識の仕業なのだろうか。
そう思うと安易に遮蔽し、拒絶も出来ない。

ブルーは声を殺して、ひたすら耐える。
実感を伴わない、激しいけれど決定力を欠く、もどかしい快楽を。




「はあ……はあ……あ…う…は…んっ…」

どれくらい、経ったのか。
制服は汗で色が変わっていた。

ベッドの上を這い回り、再びうつ伏せになる。
瞼の押し付けられたシーツも、水分を吸い色を変えた。

押し寄せる快感の中で、隔靴掻痒の感の占める部分が増えていく。
吐き出してしまいたくて、手が大きく開いた太股の間に伸びた。

震える手でズボンを下ろし、下穿きの中へ。
溢れる先走りに塗れた自身を掴んだ。

いつも、背中から手を回したハーレイがするように。

「―――んっ!」

見えない指先は既に2本、ブルーの秘所に差し込まれている。
少し腰を上げ大きく足を開き、ブルーは手を動かした。

「あはあ…!…はう……んっ…ああああ…」

まるでハーレイに抱かれているかのような錯覚。
でも、彼の温もりも重みもない。

いつの間にか全身を這い回る感触も消えていた。

虚しい。
思いつつ、扱く手を止めることは出来なかった。

そうして―――――下穿きの中で果てた。

ブルーに訪れたのは、いつもの気だるさと、普段には無い虚無感や罪悪感。
始末をして服を取り替えても、それは消えない。

足りない、何かが。
ゆらりとブルーは私室を後にした。




数分後、ブルーの瞳に良く眠るハーレイの姿が映っていた。
まだ若干赤みが残るものの、穏やかな寝顔は症状が落ち着いたこと示していた。
このまま眠れれば、明日の朝には起き上がれるだろう。

しかし、ハーレイの病室は個室で、既に看護の者もいない。

ブルーはベッドに腰掛け、頬を撫でた。
そのまま身体を倒し、項に唇を寄せる。
補聴器をつけていない剥き出しの耳に、そっと囁いた。

「おまえが悪いんだ、ハーレイ」

ブルーは自分より少し熱い唇を覆う。
舌を深く潜り込ませ、咥内を舐った。
眠っているハーレイは応えないが、少し熱い中が心地良い。
ブルーは時間を掛けて、楽しむ。

まだ、身体が熱い。
完全に熱が下がっていないのは分かったけれど。
今夜は寝かせてあげなければいけないのも、分かっているのだけれど。

唇は離さず、片手で服を肌蹴させた。
立ち上るハーレイの匂いに、瞬間的に欲情して身体が震えた。

堪らない。

意外と肌理の細かい褐色の、馴染んだ肌を撫でる。
胸を、脇腹を、臍を指先でくすぐる。
ハーレイの身体が、ぴくっぴくっと反応しだした。

ブルーは一旦離れると、耳あてを外し服を脱ぐ。
少し躊躇ったが、全裸になり眠るハーレイに跨った。

上半身をしな垂れかからせ、再び口付ける。
触れるだけのキス。

ブルーの唇は徐々に下に下りていく。
顎の下、耳朶、首筋。
厚い胸板には幾つもの赤い花の咲かせた。
臍の周囲にも。

下穿きをゆっくり下ろす。
茂みに隠れたままの、柔らかいハーレイ自身に触れた。
こうやって触ったり、間近で見るのは初めてだった。
これが自分の中に……そう思うと、恥ずかしさから頬が染まり、同時に
身体の奥、これを迎え入れる部分が熱くなる。

…欲しい……

顔を近づけた。
これが、ハーレイの匂い。
ちゅっと口付けると、ブルーは咥えた。
舐め、口の中で転がし、吸う。

「…ん……ふ……んん……」

次第に固さを増す。
既に先から透明な液を溢れさせている己の分身を掴んだ。
背中を駆け上がる電流に、身体が強張る。

「……んんんっ!」

もう我慢出来なかった。
一刻も早く―――!
激しく頭を上下させて、ハーレイを嬲った。
十分な固さになるまで。

ハーレイの腰に跨り背を丸め、今まで咥えていたものに手を添えた。
ゆっくり飲み込ませていく。

「―――くっ…!…はあ……あ…あ…」

痛みは殆ど無い。
ぞくぞくするような快感が、ハーレイを受け入れている部分から
じわじわと広がる。
全て飲み込んでしまうと、小刻みに震える背中を反らせた。

「はあ……!」

少し身体を動かすだけで、体内の刺激を受ける箇所が変わり、その度に異なる
快感が襲う。
ブルーは前後に身体を揺す振った。

「あう…!…は…あ……ああ…!…は…っ…んは…」

押し殺してきた声も、快感に合わせて大きくなっていた。





何かが、身体を這い回る感じはあった。
それが変わった。
大きな快感に。

「うあ……あは…は……はっ…あああ………!」

その声に、ハーレイは目を開いた。
自分の上で、白い身体がうねっている。
息を弾ませ、艶やかな声を上げて。

「……ブルー…?」

途端、物凄い射精の欲望が襲ってきた。
思わずブルーの細い腰を掴んだ。
堪え切れずに吐き出してしまう。

「ひあっ!あああああっ」

ブルーも自身から白濁液を溢れさせた。
もう2度目、いや3度目なのかもしれない。
既にハーレイの臍やその周りは、ブルーの精が溜まっていた。

これは、夢……か…?

自分の上に跨り、自ら腰を振るブルー。
紅潮した顔も、くねる白く細い身体も、淫らで美しい。
幾度、夢に見ただろう。

まだ咥え込んだまま、ブルーはハーレイを見た。
弾んだ息で、頬を赤く染めた顔で微笑む。

「……ハーレイ、お前が…悪いんだ……お前が…僕を…」

いとおしげに呟き、顔を寄せる。
結合していた部分が解けてしまったが、構わずそのまま、目を閉じ、口づけた。

いまだ熱による気だるさが抜けきらない身体と頭は、正常に働かない。
次第に深くなる口づけを受けながら、ハーレイは混乱していた。

ブルーのくぐもった声を聴きながら、何が起こっているのか必死に考える。
けれど、徐々に煽られ昂ぶる感情に押し流され、それは纏まることは無かった。

彼の全てが欲しい。
心も身体も、全てを自分の、自分だけのものに…!
湧き上がる愛しさに、身体を預けた。





口づけ続けるブルーの背に手を回す。
身体を回転させ、全裸の白い身体を組み敷いた。
今度は自分から、舌を差し入れた。
応えるブルーのそれに、絡みつかせる。
角度を変え、奥へ。更に深いところへ。

右手を下腹部に下ろした。
精を吐き出したばかりのブルー自身は再び固くなり始めている。
それを弄ぶ。

「んっ…はああ!……う…あっ…ああ……あ…ん…」

顔を振って、ハーレイの口づけから逃れたブルーから嬌声が上がった。
うなじを強く吸えば、更に大きい声。
それがハーレイを酔わせる。

また、入れたい
いいですか…?

唇を耳朶に触れさせたまま、微かな声で囁く。
病気による発熱と、ブルーにもたらされた身体の熱で、酷く熱くなった息と共に。

頷いたブルーの身体を、くるりとうつ伏せにさせ、腰に腕を回す。
双丘の間の、濡れてほぐれた部分を撫でた。
細い身体が、大きく震える。
ハーレイは一気に突き入れた。

「はあああっ!うあ!あ…あっ…!ひあ…っ…う…んあ!……」

何度が穿つと、それを止め、ぴったりと密着させる。
腰を押し付け、擦るように前後に揺する。
ブルーの中でのみ暴れまわるように、腰を動かした。

「…あ…は…あ…は…い…い…んんん…はああああ…あう…」

深い部分の内壁を抉るように擦られ、ブルーは背を反らす。
言いようの無い快感に堪えられないといった様子で、白銀の頭が振られた。

「そんなに、いいですか…?」
「ん…!は…ああああ…んあ!…」

下から華奢な腰を押さえて、強く揺すった。

「どこが…いい…ですか…?」
「いあっ!…知って…る…んっ!…くせに…っ…!」

"知っている"部分を狙って腰を動かす。
快感に背中が瞬間的に汗ばんだ。
ブルーは顔をベッドに押し付けて、声を上げた。

「ああああっ…うあああ…んんんあああっ!」

抉るように腰を振っているハーレイも、もう限界だった。
爆発寸前を我慢してきたため、押さえが利かない。
ベッドに、口から溢れる声と唾液を吸い込ませているブルーの細い顎の下から腕を通し、
肩を掴んだ。
更に身体の隙間を無くすために。
深く、もっと深い場所に触れるために。

逃れるようにもがく細い身体を、暴れたい、吐き出したいと叫ぶ自身に向かって
強く押し付けるように抱え込んだ。
そして、激しく欲望のままに揺さぶったのだった。







翌朝、熱が下がったであろうキャプテンの許を訪れたヒルマンは
病室の前で、深い深いため息をつくのだった。







--------------------------------- 『頭の冷蔵庫』のalmaさまのリク。 こんなん出ました〜 almaさま、お気に召したらお持ち帰り下さいませ〜