僕のエゴだった。
わかっていたんだ。










―― 告解 ――










彼女を初めて見たときから、好きだったんだろう。
まだ明確な意思を持たない、ガラスに覆われた人工子宮の中で
揺れていたその姿に、声を失った。

何て美しいのだろう。

ガラス越しに合わせた掌から、驚かさないようにそっと彼女に"触れた"。

ぼんやりとした意識の中で、光り輝く美しい星。
それが僕が初めて見た地球。

焦がれた。
まだ名前を持たない彼女と、彼女が見せてくれた地球に。

どうしても彼女が欲しかった。
この腕の中に。

だから、力を分け与えた。
仲間として迎えるために。

僕の能力を注いだ。
僕が眠らせていた、先見の力を。




怖くて使うことが出来なかった力を。




先見。
未来が見える力。

それも全てが見えるわけではなくて。
断片的で、しかも抽象的なイメージから訪れる未来を読み取る力。

映像を見ることは出来ても、読み取ることが出来なくて。
力を使いこなせなかったというのも一つの理由だが―――――
ただ漠然と怖ろしかった。

決まった未来がある、そのことが怖ろしかったのかもしれない。






彼女を見、欲しくなり、我慢が出来なくなって、彼女をミュウにした。
一度きり。
後にも先にも、彼女だけ。
それが免罪符になるとは思っていない。

けれど。
それくらい彼女が欲しかった。





このまま人工子宮から出され、エリートとして歩んでいくことが
彼女の幸せかもしれないと、ちらとは考えた。
でも、我慢が出来なかった。

彼女の心の繊細さを理由にし、そんな生活には耐えられないだろうと
決め付け、その未来を奪ったんだ。
処分される直前、僕は彼女を迎えに行った。



"救出"し船に連れてきてから暫くして。
その彼女がタロットという媒体を通して、先見をよくすると知った時、
僕は自分の中にあった力の意味を理解した気がした。





女神。





浮かんだイメージを言葉にした。
ミュウと人類を繋ぐ、架け橋。
そうなってくれればと。

よく言ったものだろう。
全ては後からつけた理由だ。





そう、僕はただ彼女が欲しかったんだ。

















でも、それは叶わないことと知った。

理由は二つ。
彼女の理由と、僕の理由。

彼女は、肉体的な接触を受け入れられなくて。
僕は、自分が受け入れることしか出来ない身体だと知った。

僕は彼女を抱けないんだ。
抱き締めることは出来る。

でも、その先には進めない。
愛おしくて堪らないのに、彼女の中に入り込むことが出来ない。
そういうぼくの身体。

それを教えてくれたのが、ハーレイだった。
今でも彼はそれに気付いていないだろうけれど。





それでもフィシスを手放せない。
愛おしいと思う心は、止められないから。

同時に、ハーレイも欲しいんだ。
彼の身体が―――――心が。

僕を包み込んでくれる彼の全てが。



身勝手で欲張りなことは、承知している。
滅茶苦茶で、残酷なことも。



でも、止められないんだ。
二人を求める心を。





僕は、僕の本質は我侭な子供だ。
理解しているよ。
大丈夫。





地獄に落ちる?
それもいい。

フィシスは女神だから無理だけれど、ハーレイは付き合って
くれそうだから。













ブルーは瞼を開いた。
静かな明けの空の色。

同じ色のマントを纏う。
そこには、ミュウの長ソルジャーブルーが居た。

くるりと踵を返す。
一日の始まりだった。




















----------------------------------- 『在処』でのブルー。 こういう人間臭いところもあっても良いのに。 20070713