『君たちが支え、助けてやってくれ。
 頼んだよ、ハーレイ』

彼の手が離れる瞬間、"それ"を打ち込んだ。
少し驚いたような表情をしたけれど、彼は拒絶しなかった。
















anchor














彼が、メギドに辿り着いたのは分かった。
サイオンを連続的に爆発させ、内部に侵入する。

ブルーの精神を削るようなサイオンの使い方に、ハーレイは唇を噛み締めた。
私は確かにあなたの"遺した言葉"は受け取ったけれど、それはあなたが死に行く事を
受け入れるものでは無い。
決して。





彼に打ち込んだもの、それはサイオンのアンカーと二人が呼んでいるものだった。
打ち込んだ者がどんなに遠くに離れていてもその者の状態を感知できるという、
ハーレイのちょっと代わったテレパス能力を使ったもの。
もっとも使った事があるのはブルーに対してだけ、なのだが。
「糸電話、みたいだね」
初めて使って見せた時、そう言ってブルーは笑った。





その"糸"を通して、伝わってくる彼の気配。
今日はいつもより鮮明で。
彼が何を見、何を感じているのかまで手に取るように分かる。
より彼を感じられて少し、ほんの少しだけ嬉しいけれど―――――
でもそれは彼のサイオンが弱っている事を意味していて。
本当に、最後の瞬間の訪れが近い事を思い知らされる。
ハーレイの拳が、ぎゅっと握られた。










ああ。
何という疾走感。
"飛ぶ"事はこんなにも―――――あなたが魅了されたのも理解出来ます。





あ、危ないっ!
でも、飛来する光の矢は止まっているようにすら見えて。
勿論止まっているはずはなく、あなたの…能力の高さがそうさせる。
本当は、もう使って欲しくないのサイオンなのに…





ああ、炎の華が咲く。
沢山の命を散らして。
あなたの哀しみが……痛い。

敵なのに、あなたに刃を向けた相手なのに。

優しいあなた。
優しすぎるあなた。

命を何より重んずるあなた……
その命の中にはご自分のものも含まれていますよね…?





そして、これが……メギド……
あの惨劇を生んだ……

何のためにこんなものを造るのか。
いつ使おうと思って造ったのか、彼らは。

あなたの中で、燃え上がる憎しみ。
破壊し尽くそうとする蒼い炎が、燃え上がる。

私とて気持ちはあなたと同じです。

でも。
でも。
ご無理は……

私たちは仰られた通りナスカから順調に脱出しています。

あと少し。
ほんの少しの時間で十分です。

ですから、ご無理は止めてください。





通路でよろけるあなたが見えます………
あなたが感じている、苦しさも………

これまではあなたが完璧に遮蔽してきた部分ですよね……
私には決して見せなかった、感じさせなかった部分…



お願いです。
もう戻って下さい!
もう……お戻り――――









あああああっ!!!



背中を焼く痛み…!

撃たれた…!
撃たれてしまわれた!

敵の気配を感じる事も、常にシールドを張る事もお出来にならないのですから
―――――戻って…!ブルーっ!

メギドなぞ放って、戻って下さいっ!
これはキャプテンの命令です!
あなたはまだこの艦の乗員なのです!
私の指示に従ってくださいっ!!



もう、止めて…!
もう力を使わないで…下さい……





この声………あの男!
メンバーズエリートの…

逃げて、逃げて下さい!ブルーっ!





うわっ!

あ、あ、あああっ……!!!

痛い痛い痛い……
何という痛み…!

立って、逃げて下さいっ!
今ジョミーを呼びます!

何処でもいいから"飛んで"下さいっっ
ブルー…っ!



もう、あなたの考えている事さえ見える。
遮蔽すら出来ないのですか…

その男と刺し違える……?
メギドと共に………



ブルーっ、それはあなたの願いじゃないでしょう?!
1人でも多く生き残る事が、生き抜いて地球に辿り着くこと―――――
それがあなたの願いなのでしょう!

もう、こちらは大丈夫です!
メンバーズエリートも、メギドも構ってはなりません!
放っておいて――――――――――










戻って…!










お願いです…!










私………たちを置いていかないで…!





















「うぐわあ………っ」

ハーレイは絶叫し、席を立った。
右目を押さえ、うずくまる。

駆け寄ったエラが見たものは、涙を流すハーレイの瞳。
左からは透明な涙、右は―――――真っ赤な血の涙……

「医療班っ!」

叫んだエラを、ハーレイは制止する。

「私は怪我をしていません、大丈夫」
「その血は…!」
「……………………私は…大丈夫…です……私は………」









蒼く光った瞬間、悲鳴にも似た"声"で発せられた………ジョミーへの遺言と
―――――彼の想い。









すまない
ハーレイ


ごめん…









ハーレイの中で、木霊する。
繰り返し、繰り返し、響く。









「ワープっ!」

ほぼ同時に聞こえたジョミーのその声に従って、脊髄反射のように命令した。

頭の中は木霊が響き続ける。
その視界の隅で、真ん中にぽっかりと穴を開けたジルベスター8の向こう、瞬いた青い光。

メギド…?
認めた瞬間、ワープしたシャングリラからその光は見えなくなった。





















------------------------------------------------------------- 生死が分からない状態よりも、苦しみを選ぶと思う、この二人。 死ぬ瞬間まで目を見開いていたいと願うブルーと、 それを見届けたいと思うハーレイ。 辛いけど、そんな二人であって欲しい。 いつか"side ブルー"を書きたいです。 20070729